49.突入
今回は視点変更を行いつつ、書いています。
読みにくいかもしれませんが、各立ち位置での視点を入れたかったので、ご容赦ください。
◇三鷹自衛隊視点◇
三鷹市を昨日の夕方に出発した、作戦参加の74式戦車十二台、10式戦車十四台、ブッシュマスター八台。彼らは来栖野市に入る前から聞こえてきていた轟音が、HZと戦闘を開始したのだと直感で理解していた。
今回、三鷹の自衛隊基地から作戦参加のために派遣された、かなりの戦力を誇る戦車隊を指揮するのは山田三尉。作戦参加を決定付けた一人でもある。
「山田三尉、我々はどう動きますか?」
「このまま来栖野大学病院へ向かう。現場指揮官と合流して、どう動くのかを聞くとしよう」
――ドーーーーーーーーーン!!
ブッシュマスター内で地図を確認していた山田は、部下からの質問に分かりやすく答えた。のだが、声に被せるようにして砲撃音が邪魔をする。
「現場指揮官との合流を急ぐ! 全ブッシュマスターは、現場に到着した段階でWZとRZを少しでも減らすように。74式と10式は向こうの判断に従え」
「「「「「「「「「了解!!!!」」」」」」」」」
『『『『『『了解です!!!!』』』』』』
山田が無線機を使って出した指示に、即応答が返る。どの応答も殺る気に満ちていた。この作戦が成功すれば抗ウイルス剤が入手できるようになる。
そうなれば、ゾンビを一掃して平和な日々を取り戻すことができると信じているのだろう。来栖野市に入ってから、二十分ほどで山田たちは来栖野大学病院前の交差点に到着した。
「一体だけなら殺せただろうが、全部で六体か。これは戦線を維持するのも難しいだろうな」
二機のコブラの音に、戦車の砲撃音。さらに歩道橋や周辺の建物からRPGが発射され、非常にうるさい状況。そんな 状況下でも山田の呟きは、ブッシュマスター内にしっかりと響いた。
「ブッシュマスターから降車! 一個中隊は歩道橋の戦力と合流せよ。残りは周辺建物に入り、WZとRZの処理に当たれ!!」
山田自身は降車せず、現場指揮官と連絡を取り合うべく無線機に話し掛けた。丁度、このタイミングで三鷹基地の74式戦車十二台、10式戦車十四台がHZ六体の攻撃を何とか避けつつ距離を取りながら、砲撃を続ける賀古市の戦車隊を援護するべく砲撃を開始した。
「こちらは三鷹自衛隊基地から派遣された作戦参加の部隊だ。現場指揮官、応答願う」
『この場合の現場指揮官って、武藤くんでいいだろ』
『だろ? 彼の作戦なんだから』
『バッキャロー、高校生に全責任を押し付けるつもりか!』
『俺たちが誰も被害者を出さずに済んでいるのは、彼の指示のお陰だっての!』
『分かりきっていることを言うな! 武藤くん、増援に指示を出してやってくれ』
『了解! 増援感謝します!』
山田の呼び掛けに反応するように、賀古市の自衛隊や警官組が一斉に会話。その会話内容からして、現場指揮官が高校生だというのはすぐに判明。
かなり驚いた山田だが、ムダな言葉を使う時間を省くためにも指示を仰ぐことにした。勝手に行動するのは可能だが、それによって失敗などしたら大問題になる。
「感謝は不要だ。我々も抗ウイルス剤が欲しいからな。早速で悪いが指示を頼む!!」
――ドーーーーーーーーーン!!!!
――ドガーーーーーーーーーン!!!
――ドーーーーーーーーーーン!!!
――ドゴーーーーーーーーーン!!!
――ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!
――ヒュッーーーーーーーーー!!!
――ドゴーーーーーーーーーン!!!
山田が指示を仰いだ直後、三鷹の戦車隊とコブラワンが同時に攻撃を開始。かなりの轟音が耳を打つが、そんなことなど関係ない。
『三鷹の戦車隊は賀古市の戦車隊と合流を。まずは牽制砲撃で、HZと戦車の間に空間を作ってください。距離を開けることができたら、交差点中央に押し戻すようにして四方から砲撃を。
これは時間差でお願いします。砲弾から身を守るために、ハンマーの腕を使うので防いだところを命中させるのが目的です。
また砲撃は胴体か頭部に限定。それ以外は攻撃しても意味がありませんので!!』
「了解!! 戦車隊、聞こえたな!! まずは賀古市の戦車隊からデカブツを引き離すぞ!!!」
『『『『『『おう!!!!!!!』』』』』』
山田は相手が高校生だという認識や考えを既に放棄。この現場にて、最も状況を把握しながら、被害を出さないようにしていることを評価したのだ。
戦車の砲撃音と砲弾の爆発音、それにコブラの機銃やミサイル音にエンジン音などが、非常にうるさい状況でも冷静に戦力把握を行おうとする。
『えーっと、三鷹の指揮官さん。航空戦力はありますか?』
指示が出終わった。そう思った山田だったが、一騎からの問いを受ける。
「俺は山田だ。航空戦力ならコブラ七機とオスプレイ八機が来るが?」
『コブラ三機をWZとRZの処理に回してください。残りの四機はHZの胴体か頭部に攻撃集中。それとオスプレイに手榴弾などは?』
「三機が積んでいる。残り五機は実弾と人員のみだ」
『三機を大学病院に向けて飛ばしてください。高度を下げ適当な間隔で、手榴弾の投下。五機は周辺の建物の屋上に着陸し、少しでも多くのゾンビ排除を!』
「了解! 到着したら俺が必ず伝える!!」
山田は顔を見たことも、一緒に戦ったこともない一騎に指揮に集中してもらうべく、余計な思考をさせないようにしようと決意した。
◇一騎たち視点◇
被害を出さないようにするだけの指示しか出せず、作戦失敗と判断しようとしていた一騎だったが、三鷹基地からの増援によりHZとの戦力差が埋まったと考えた。
既にHZ六体は交差点中央に集められ、四方発砲から攻撃を食らっている状況。完全に防御だけしか行動できない状態に追い込んだ。
「コブラワン、残りの燃料と弾薬は?」
『こちらコブラワン。ミサイルは撃ちきった。機銃はまだ弾があり、ロケット弾も十分に残っている。燃料は補給を考えると、そろそろ危険域だ』
「全ロケット弾を適当なタイミングで発射。一体だけでもHZを仕留めてください。ロケット弾が空になったら、その時点で賀古市へ補給へ。
補給が完了したら、大急ぎでここまで戻ってきてください。戦車隊だけで仕留めるのは無理です。上空のコブラが仕留めるのが最善ですので」
『了解!』
一騎は指示を出し終わると、すぐにマガジンベストの残りを確認。空が四で残りは手付かず状態だ。だが、HZが増えたことで、賀古市の74式と10式は主砲の弾薬がかなり減っている。
少しでも節約し、確実にHZを殺す方法を一騎は考えようとした。澪はそれを素早く察知すると、温くなった麦茶のペットボトルと、小松交通のマンションから持ってきたチョコクッキーを渡す。
「考えすぎ、ダメ。増援が来たんだから、ほんの少し休憩」
澪にこう言われ、一騎はHZを殺すまでは休めないと言おうとした。だが、ピリピリと神経を使うよりは、少しは冷静になるのが重要。
そう判断して、澪から受け取った麦茶に口を付ける。増援が来るまで指示を出し続けていたから、喉が渇いていたのだ。三分の一まで飲んでから、チョコクッキーで糖分を補給。
張り詰めた状態だった意識が、少しばかり緩む。それを感じ取った澪は、一騎が水分補給を終えるまでの間に少しでもゾンビを近付けないようにとMP7A1改で頭を撃ち抜いていく。
「澪、ありがとう。各班、報告をお願いします」
時間にして数分程度の休憩であったが、一騎にとっては貴重な疲労回復時間になったのは間違いない。
『こちら中村、3Dプリンター銃の残りパチンコ玉の数が半分まで減った。このままだと、病院内に入れた時に中を彷徨いているゾンビを実弾で殺すことになる』
『鳥越だ。こちらも中村班と同じ状態にある。それと撃ちっぱなしで、さすがに疲れてきた』
『一班、二班より報告。RZを優先的に撃っているが、WZが邪魔で仕留められない』
『こちら三班。三鷹の部隊が合流したことで、少しばかり休憩が欲しい』
『四班も三班に同意する』
「了解です。三鷹の各部隊、もしくは各班へ。こちらが展開している各班の場所を教えますので、合流してください。少しでも休憩させて体力回復と水分補給を行わせます」
『『『『『『『『三鷹組、了解!!!!』』』』』』』』
一騎が出した指示を三鷹の自衛隊組は了承。しばらくして学生組のところにも三鷹からの増援二十人が到着。一騎は彼らと一緒にHZが動かないように牽制射撃を行いつつ、澪たちに休憩するよう促した。
「なんとか一体でもHZを殺せれば、勢い付けるんだけどな」
「君が現場指揮官の高校生である武藤くんか」
「この作戦を考え、実行したのは俺ですから」
「我々は何としても抗ウイルス剤が欲しい。そして、再び平和な日本を取り戻したいんだ」
「なら、優先するべきは今もこれからも、ゾンビを排除することですよ」
「違いない!」
「僕としては少しでも安全な場所を築き上げる方が、時間を掛けてもゾンビを駆逐できると思うのだよ」
「一騎くん、わたしは一緒だからね」
「あぁ」
巫女装束姿の澪を見て、かなり驚いた様子の三鷹組だったがすぐに戦闘に意識を戻した。ただし、彼ら全員が澪の身体つきを見て、下心を抱いたのは間違いないようがない。
――カチャッ!
「オレの女に手を出そうとか考えるなよ」
彼らが澪に劣情を抱いたのを察知した一騎は、RPG二本を構えながら、三鷹組に冷たく告げる。もし、ほんの少しでも澪に触れたなら、自分たちは一瞬で死ぬ。それを理解した三鷹組は、何度も頷いて彼女に関わらないことを決めた。
その頃、澪はというと巫女装束のままMP7A1改を構えて無表情に発砲。次々にゾンビを射殺していく。普通、巫女装束に銃など似合わないが、澪の持つ独特の雰囲気が神秘的な感じを周囲に与えていた。
「とりあえず苛立ったから、HZに八つ当たりだ!!」
そんな雄叫びと一緒にRPGが時間差で発射される。八つ当たり攻撃の二発を防いだHZ一体だが、隙を狙うようにして放たれたコブラのロケット弾が背中に直撃。
上半身と下半身が引きちぎられて即死した。そして、この瞬間を狙っていたかのように新たなコブラが登場。
「三鷹基地のコブラか」
「間違いなくそうなのだよ」
一騎と創太がのんびり(?)とした会話をしようとした直後、無線機から雄叫びや勝利の咆哮が届く。
『『『『『『『『『よっしゃぁぁぁああああああああ!!!!!!』』』』』』』』』
『『『『『『『『殺ってやるぞーーーーーーーーーー!!!!!!』』』』』』』』
「「「「「「「「「「ゥゥゥウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ア゛ア゛!!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「グギィイ゛イ゛イ゛イ゛ア゛ア゛!!」」」」」」」」」」
「ヴァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ガ!!!!!」
生存者たちの雄叫びや勝利の咆哮を聞いたゾンビたちが、反応するように唸り声を上げた。まるで「食ってやるぞおおおおおおお!!!」とでも言いたげに。
「喜んでいる暇はない!! HZに攻撃集中!!! 三鷹コブラは指示した通りに動いてください!!!!」
油断は決してするべきじゃない。そして、勝ったと思うのは最後の一体を殺し終えた時のみ。そう考えていた一騎の言葉は、無線を通して自然と伝わる。
「ギュラァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛オ゛!!」
「グウォォォォォォォオ゛オ゛オ゛オ゛ア゛!!」
二体のHZが仲間が殺されたのを見て、行動を起こした。それは仲間の死体を掴んで左右へと引っ張り、引き千切ったのである。
そして、両腕と両足を上空のコブラへと投げ付けて、上空戦力を減らそうとした。
――パシューーーーーーーーーーーーン!!
――ドゴーーーーーーーーーーーーーン!!
HZが死んだ仲間の両腕と両足を投げた直後、一体がどこからともなく飛んできたミサイルを腹部へと食らい、上半身を弾き飛ばした。
◇横須賀ファントムパイロット視点◇
一騎たちがHZ一体を殺すより少し前。
「ファントムリーダーより各機へ。そろそろ来栖野市に到着する。作戦場所に直行し、HZとかいうデカブツを殺すのが目的だ。地上部隊もいるから、フレンドリーファイアには注意しろ」
『ファントムツー、了解』
『ファントムスリー、了解』
『ファントムフォー、了解』
『ファントムファイブ、了解』
『シックス、了解』
ファントムリーダーを担当している長崎は、自機を除いた十五機からの返事を聞き頷いた。
――ドーーーーーーーーーン!!!!
――ドガーーーーーーーーーン!!!
――ドーーーーーーーーーーン!!!
――ドゴーーーーーーーーーン!!!
――ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!
――ヒュッーーーーーーーーー!!!
――ドゴーーーーーーーーーン!!!
「派手にやってるな」
『リーダーへ。今の音は』
「デカブツに集中攻撃してるんだろうよ。ミサイルの直撃にも耐えるようなゾンビだが、ビビるな。俺たち航空隊と地上の戦車隊のどちらかが、胴体か頭に攻撃を命中させればいいだけだからな」
戦闘機の中にいても届いた轟音に、等間隔で飛んでいる部下から不安そうな声が。それに対して長崎は、ただ淡々としている。人物たちの役目を正確に理解しているからだ。
『ギュラァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛オ゛!!』
『グウォォォォォォォオ゛オ゛オ゛オ゛ア゛!!』
来栖野大学病院に向かっている最中で聞こえた雄叫び。直ぐ様長崎は進路を取るように指示し、一直線に雄叫びの発生地点へと向かう。
「見つけたぜ、デカブツ!!!」
長崎の視線の先でHZは死んだ仲間の死体を投げて、コブラを落とそうとしていた。
「隙、発見だぜ!!」
――パシューーーーーーーーーーーーン!!
――ドゴーーーーーーーーーーーーーン!!
仲間のHZの死体を投げた個体に、長崎はフォックスツーを放った。ファントム一個中隊に意識が向いていなかったのが幸いした。見事に胴体に命中して、派手に胴体を爆発させながら一体が吹き飛ぶ。
「ヒャーーーーッホーーーーーーー!!! リーダーより各機へ。各自のタイミングでミサイル発射を許可する。さっさとデカブツを殺して、地上をスッキリさせるぞ」
『『『『『『了解!!!!』』』』』』
残り四体となったHZに戦車の砲撃と、ファントム、コブラのミサイルとロケット弾が殺到する。新たな航空戦力に驚いたのか、上空を見上げて一時的にフリーズ状態になった一騎たち地上組。
長崎はドッキリ大成功、とでも言いたげな表情だ。まぁ言ったところで、無線をオープンチャンネルにしていないと意味ないのだが。
『ゾンビの数が半端なく多いですね』
「だな。オレたちのところは米軍とも協力ができたからこそ、他の地域と比べても生存者の救出ができた訳だが。ここら辺はゾンビ排除が間に合わなかったんだろうよ」
『リーダー、あのデカブツ野郎、なかなか隙を見せませんね』
「慌てるな。じっくりと狩りを楽しめ」
『狩猟じゃないんですけどーーーーー』
長崎がそんなことを言っている間にも、方々からコブラやオスプレイが集まってくる。そして大半はHZに攻撃を集中させて、身動きを完全に封じて無防備な胴体にRPGかミサイル、ロケット弾を食らって真っ赤な花を咲かせた。
「残り一体か。俺の獲物だぜ!!!!」
HZが最後の一体となったところで、戦車隊の砲撃が半減する。砲弾の残りが心許ないのだろう。
「捨て身か!? さっさと逃げろ!!!」
長崎がそんな思考を抱いていた時、残ったHZは捨て身で動いた。片腕で砲弾を防ぎ、かなりの速度で74式戦車四台へと接近。無線機を操作していないから、彼の言葉は届くはずもないのが現実。
放たれた砲弾を腕で守った直後、別の片腕で一台のエンジン部分を叩き潰した。砲撃を食らうのを覚悟で、HZは74式戦車に接近し、真横を殴って建物の壁などに激突させる。
「死ねやーーーーーー、デカブツーーーーー!!!!!!」
長崎は叫ぶと同時に急降下。それに合わせるようにして、残りのファントムも高度を下げて一斉にフォックスツーと、フォックススリーを。
――パシューーーーーーーーーーーーン!!!
――ドガーーーーーーーーーーーーーン!!!
――パシューーーーーーーーーーーーン!!!
――ドゴーーーーーーーーーーーーーン!!!
――パシューーーーーーーーーーーーン!!!
――ドギャーーーーーーーーーーーーン!!!
――パシューーーーーーーーーーーーン!!!
――ボゴーーーーーーーーーーーーーン!!!
長崎たちのファントムだけじゃなく、コブラ隊も全く同時にミサイルを発射。HZは身を守ることも出来ずに、その身体を見事に破壊し尽くされた。
「ファントムリーダーより各機へ。地上を軽く掃除してから、賀古基地へ向かうぞ」
ファオントム一個中隊は等間隔に縦一列に並ぶと、ファントムスリーをお見舞いしていく。おまけとばかりに機銃も乱射して、高度を上昇させて旋回。
その間にも高度を下げたオスプレイが手榴弾と火炎瓶を連続投下。ゾンビたちを焼き、吹き飛ばしていく。オスプレイが離れると、コブラが残っていたミサイルとロケット弾を全て撃ち込んでいき、来栖野大学病院の周囲にいたゾンビを消し飛ばした。
しばらくして、オスプレイに乗り込んだ地上部隊が病院前で降ろされて突入していくのを見届けた後、長崎は部隊を率いて賀古基地へと向かうのだった。
次話はエピローグとなります。




