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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
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48.HZ攻略戦


 作戦当日の朝八時。一騎と澪の二人が707号室を出て、駐車場へと向かった。学生組は二人を除き全員集合し、警官組も合流済み。ジャーキーは、社長に面倒を見てもらっている。


「これが弾薬だ。昨日の夜、明石二尉が狭間二佐に連絡して、パチンコ玉と実弾をありったけ送ってもらったと言ってたぞ」

「おはようございます」

「おはよう、ございます」

「あぁ、おはよう」


 創太が代表として弾薬を受け取っていた時、一騎と澪がパチンコ玉と実弾が入った箱を渡していた鳥越に挨拶。気付いた学生組や中村班、鳥越班の残りメンバーとも挨拶を交わした。


「おはよう。ぐっすり眠れたかしら? 」

「えぇ」

「うん」

「ほ、本当なのかしら?」

「はい」

「本当」

「そ、それにしては澪が普通に歩いているんだけど」


 梓の言葉に最初は首を傾げた一騎と澪。だが、澪は姉から向けられる視線の意味を即座に理解し、恥ずかしそうに告げる。


「一緒に寝ただけ」

「本当に!? 高校生なんだから、てっきり――――」

「梓、完全にセクハラ発言なのだよ。黙るのだよ」

「そんなことは――――」

「姉さん、静かにして、ね」


 澪の全身から不機嫌オーラと、苛立ちオーラが発せられる。彼女は鋭い視線で梓を睨むと、駄々っ子を叱るような口調で黙るように促した。


「自衛隊組は?」

「そろそろだな」


 一騎の問いに盛岡は腕時計を確認しながら答える。しばらくして、しっかりとマガジンベストを着込んだ自衛隊員たちが姿を見せた。


「待たせた」

「いえ」

「いつでも行けるぞ」

「こちらもだ」


 彼らは一騎に視線を向けて、出発の指示を出すように促した。


「えぇ、こほん。今日の作戦がどれだけ重要かは理解していると思います。ですので、余計なことは言いません。必ず、成功させましょう!」

「「「「「「「「おう!!!!!!!!」」」」」」」」


 一騎の言葉に一斉に返事がある。彼らはすぐにそれぞれの車両に乗り込んで、来栖野大学病院へと向けて移動を開始した。


「澪、どうして巫女装束なの?」


 出発して早々、梓は車内でマガジンベストを着込む一騎と、巫女装束の澪を見て助手席から問う。


「一騎くんと生き残るっていう決意」


 本人と、そして梓の言う通りに今日の澪は巫女装束だ。巫女姿に拳銃。普通は似合わないのだが、そんなことを気にしている様子はない。


「一騎くん、澪のことお願いね」

「はい」


 澪の決意を聞き、からかうような感じだった梓が頭を下げた。一騎は彼女から向けられる「不幸にしたら許さない」という無言の威圧を受けながらも、しっかりと頷いた。

 その後、移動中の車内では特に会話らしい会話はなし。銃の状態を確認し、積み込まれている火炎瓶とRPG、火炎放射器がぶつからないように注意しながらラルゴは作戦ポイントである来栖野大学病院近くの大きな交差点へと向かう。





「各班、用意はどうですか?」

『中村班、準備よし』

『鳥越班、いつでもいいぞ』

『自衛隊一班、問題なし』

『二班も問題なし』

『こちら三班、弾薬箱を置くのに時間が掛かってる。少しだけ待ってくれ』

『四班、準備よし』

『こちら狙撃班、展開完了』

『『『『戦車隊、出現したHZを包囲できるように展開中』』』』


 交差点近くに到着後、すぐに複数の建物へと入った一騎たちは自分たちの射撃ポイントを決めていた。学生組は交差点中央から150メートルほど離れた場所、二階建てニューウィークに。

 中村班と六人の自衛隊員は、ニューウィーク正面の来栖野ビル二階と三階。鳥越班も六人の自衛隊員と一緒に行動し、病院寄りの喫茶店一階に待機。

 自衛隊の一班と二班は、一階がコンビニで二階から上がマンションの三階と四階に移動済み。三班は交差点中央の歩道橋にいるのだが、彼らは実弾とパチンコ玉それぞれを撃てるように銃を用意し、さらにWZの集団にRPGを撃ち込む役目も担当。

 三班は一番人数が多い。が、そのせいで他の班に比べると、弾薬の箱を移動させるのに時間が掛かっていた。狙撃班はフックガンを使って、八階建てのマンション屋上へ。


『待たせてすまない。三班、準備完了だ』


 三班からの無線連絡が入ったところで、小野を乗せた10式戦車が到着。HZを殺し、邪魔なWZとRZをも殺して確実に病院に送り届けるには、余程の事態がない限りは安全が確保されている。


「一騎くん」

「あぁ。ゾンビたちも動き出したな」


 ニューウィークの二階で各班からの報告を無線で受けていた一騎は、澪に呼ばれてすぐに応えた。一騎たちが到着した時点で、ゾンビたちはエンジン音を聞き付けて移動を開始していた。

 足の遅いWZがかなりの数で、彼らが余裕を持って配置に着けた。それを待っていたかのように、大量のWZが迫ってきている。


「各班、可能な限り3Dプリンター銃を使用してください。最初から実弾を使うと、それだけでHZとの戦闘が早まります。そうなったら、数を減らしきれなかったWZとRZの対応に戦力を半減させられかねません」

『『『『『『『『了解!!!』』』』』』』』

「狙撃班、最初の攻撃のみ実弾準備を」

『問題ない。いつでも撃てる』

「わかりました。停止線を踏んだところで狙撃を。それに続いて各方向から一斉射」

『了解』

『デカブツが来る前に、少しでも減らす!』

『つーか臭い!! 風によって腐敗臭が届いてきてるんだが』

『俺らだって臭いわ!!!』

『援軍、来てくれー』

『武藤くん、焼き払った方が早いんじゃないか?』

『ダメだ。もし燃えたゾンビが建物の中にでも入ったら、火事になる。煙で見えにくくなっちまう』


 警官組や自衛隊組が口々に話し出してから、数十秒後に一番最初のWZが停止線の上に足を乗せた。


 ――ドンッ!


 狙撃班が全く同じタイミングでPSG1を撃った。十五発もの弾丸がWZへの頭へと吸い込まれるように飛んでいく。


 ――ベシャッ!

 ――ドシャッ!

 ――バシャッ!


 三体のWZの頭部が盛大に破壊される。頭を失った身体は、少しだけ歩行を続けて力なく倒れた。歩行した一体以外のWZは後ろへ向けて倒れている。

 倒れるのに巻き込まれた他のゾンビたちが、まるでドミノ倒しのように転倒していく。


「攻撃始め!!!」


 一騎が無線機に指示を出して、TARー21改のスコープを覗き込みながらトリガーを引く。巫女装束に身を包んだ澪や、いつでも撃てるように待っていた学生組の銃口からパチンコ玉が勢いよく放たれた。同時に警官組、自衛隊組も次々と発砲。


 ――ガシュン、ガシュシュン、ガシュシュシュシュン!!

 ――カシュン、カシュシュシュン、カシュシュシュン!!

 ――バシュン、バシュシュン、バシュシュシュシュン!!

 ――パシュシュン、パシュン、パシュ、パシュシュン!!

 ――ガシュシュ、ガシュシュシュ、ガシュシュシュシュ!

 ――カシュシュシュ、カシュ、カシュシュシュ、カシュ!

 ――パシュシュ、パシュシュシュシュ、パシュシュシュ!

 ――バシュ、バシュシュシュ、バシュシュシュ、バシュ!

 ――トシュシュ、トシュ、トシュシュシュ、トシュシュ!


 3Dプリンター製の銃であり、弾はパチンコ玉だが一斉に放たれた音は以外にも大きかった。転倒中のゾンビを踏みつけるようにして、どんどん後続が進んでくる。

 軽く見積もっても数万のゾンビの大集団が迫るが、一騎たちは非常に冷静に射撃を続行。


「「「「「「「「「「ゥゥゥウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ア゛ア゛!!」」」」」」」」」」


 大量のゾンビによる唸り声の大合唱。生存者を恨むような唸り声であり、まるで空腹を訴えているかのようだ。


「狙撃班、HZやSZがいないか注意をしてください」

『こちら四班、WZたちの足元を走り抜けるようにして、ゾンビ犬五十頭が接近してくる!!』

「ゾンビ犬優先で対応を! 三班、一発だけRPGを撃ってください!! 可能なら集団中央を狙って!!!」

「「「「「「「ガルルルルル! グォォォオオオオン!!!」」」」」」」

『了解!』


 一騎が三班にRPG使用を指示した直後、ゾンビ犬たちがWZの足元を走り抜けて登場。


 ――ドシュッーーーーーーー!!

 ――ドガーーーーーーーーーン!!


「「「「「「グォォォォオオオオン!!」」」」」」


 ゾンビ犬が姿を見せた直後、RPGはゾンビ大集団の真ん中へと撃ち込まれた。ただし、三班の人間から狙えるという意味での真ん中だが。


「ゾンビ犬を近付けさせるな!!」


 爆発の衝撃波によって体勢を崩したのを見た盛岡が、非常に大きな声で叫ぶ。それが聞こえたかを彼が確認するよりも早く、大量のパチンコ玉がゾンビ犬へと殺到。


 ――ガシュン、ガシュシュン、ガシュシュシュシュン!!

 ――カシュン、カシュシュシュン、カシュシュシュン!!

 ――バシュン、バシュシュン、バシュシュシュシュン!!

 ――パシュシュン、パシュン、パシュ、パシュシュン!!

 ――ガシュシュ、ガシュシュシュ、ガシュシュシュシュ!

 ――カシュシュシュ、カシュ、カシュシュシュ、カシュ!

 ――パシュシュ、パシュシュシュシュ、パシュシュシュ!

 ――バシュ、バシュシュシュ、バシュシュシュ、バシュ!

 ――トシュシュ、トシュ、トシュシュシュ、トシュシュ!


「ギャンギャン!」

「グ、グルルルル」

「バ……バウ」


 集中攻撃を受けても、なんとか立っていた最後の三頭。周囲を見ると悔しそうに吠えて、バタンと倒れた。


「狙撃班、今の三頭の頭を撃ってください」

『任せてくれ』

 一騎は確実に殺すために頭部を撃ち抜くことを要請。それを聞いた狙撃班の一人が代表して返答。


 ――ドンッ!

 ――ドンッ!

 ――ドンッ!


 ほんの数秒差があったが、三発の実弾が倒れたゾンビ犬の頭へと放たれた。その直後のことだ。


「グルゥゥォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」


 SZとは違う、非常に力強そうな雄叫びが響いたのである。


『HZ確認!! 大学病院方面から真っ直ぐに向かってくるぞ!!!』

「全戦車隊へ、包囲開始!! HZを包囲の中央に留めて、なんとしても殺す!!!」

『了解!!』

『こちら一班。四班と一緒にWZやRZを優先的に倒す!!』

『盛岡から武藤くんへ。コブラの出撃要請を出した。到着まで十五分。絶対に持ちこたえよう!!!』


 ――ズシン、ズシン、ズシンズシンズシン!!


 最初はただ歩いているだけだったが、途中から急に走り出した。かなり興奮しているのか、移動に邪魔なゾンビをハンマーの腕で殴り飛ばしながら向かってくる。


『戦車隊より武藤くんへ。もうすぐ包囲が完了する。すぐに砲撃を始めるぞ』

「了解です。ただし、オレたちがいる場所には当てないでくださいね!!」

「グオオオオオオオオ!!!!」


 一騎が戦車隊からの無線に返事をしていた時、二十体のRZが四班のいるマンションへと走り出した。


「一騎くん、RZ」

「狙撃班、対処を。HZが中央に来るまで、もう少し時間が掛かる。それまでに少しでもゾンビの数を減らすんだ!!」


 澪がRZの存在を伝え、彼はすぐさま指示を出した。それと同時に、再び一斉射が大量のゾンビへと襲い掛かる。


「グオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!」

「武藤くん、皆殺しにしてやるって、あのゾンビが叫んだよ!」

「お断りだ!」


 三森の通訳に一騎が答えた瞬間、HZは交差点中央に到着する。


「RPG発射! 戦車隊が包囲を完了させるまでデカブツを動かすな!!!!!」


 三班の班長が指示を出すと、十本の弾頭がHZへと向かっていく。どれも顔か胴体を正面から狙った攻撃。


「グロオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ア゛!!」


 弾頭が命中する少し前、HZは片腕で顔と胴体を守るように動いた。


 ――ドゴーーーーーーーーーン!!!!


「やったか!?」

「フラグ立てるな!!」


 班長が班員を怒鳴り付ける声が、しっかりと響いた。


「「「「「「「「ゥゥゥウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ア゛ア゛!!」」」」」」」」


 班長の言葉を聞いて意味を理解したのかは不明だが、大量のゾンビが「待ってろ、すぐに食ってやる!!」的に唸り声を上げた。

 そしてWZたちが一斉に、それぞれの班がいる場所へと向かって歩き出す。


 ――ドーーーーーーーーン!!!

 ――ドガーーーーーーーン!!!


 数が多すぎる、誰もがそう思った時にHZを包囲するべく動いていた74式戦車の一台が牽制砲撃。その砲撃先にいたゾンビたちをまとめて吹き飛ばした。


 ――ドーーーーーーーーン!!!

 ――ドーーーーーーーーン!!!

 ――ドゴーーーーーーーン!!!

 ――ドガーーーーーーーン!!!


 HZが動き出そうとした瞬間、四方を囲むようにして74式戦車と10式戦車が砲撃開始。それと同時に、予定よりも早くコブラ二機が飛んできた。


 ――ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!


 一機のコブラが機銃を発砲して、波のように押し寄せようとしていたWZと、そのWZを押し退()けて登場したRZを一瞬にしてただの肉塊へと変えた。


『こちらコブラワン。作戦に参加する。コブラツーは地上ゾンビの排除を最優先行動だ』

「ありがとうございます!」


 無線機から届いた声に一騎は感謝を告げる。そして、HZ攻略を開始された。


 ――ドーーーーーーーーーーン!!!

 ――ドガーーーーーーーーーン!!!

 ――ドーーーーーーーーーーン!!!

 ――ドゴーーーーーーーーーン!!!

 ――ドルルルルルルルルルルルルルルルルル!!

 ――ガシュン、ガシュシュン、ガシュシュシュシュン!!

 ――カシュン、カシュシュシュン、カシュシュシュン!!

 ――バシュン、バシュシュン、バシュシュシュシュン!!

 ――パシュシュン、パシュン、パシュ、パシュシュン!!

 ――ガシュシュ、ガシュシュシュ、ガシュシュシュシュ!

 ――カシュシュシュ、カシュ、カシュシュシュ、カシュ!

 ――パシュシュ、パシュシュシュシュ、パシュシュシュ!

 ――バシュ、バシュシュシュ、バシュシュシュ、バシュ!

 ――トシュシュ、トシュ、トシュシュシュ、トシュシュ!


 74式戦車と10式戦車が四方から砲撃を開始。一騎たち学生組は、HZが移動しないように顔面を狙って攻撃。戦車の砲撃は数秒の差がある時間差。

 まともにダメージを受けないようにするには、二本の腕で防御して直撃を避けるしかない。腕を動かしたところを見計らって、コブラワンが機銃とミサイルを撃ち込む。

 さらに一騎たちが牽制射撃を続けるから、HZは動こうにも動けない状態に。


「「「「「「「「「「グウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ア゛ア゛!!」」」」」」」」」」

『俺たちが生き残るために死ねーーーーーー!!!』


 無線越しのコブラツーのパイロットが叫びながら機銃を乱射し、ミサイルを集団へ次々と撃ち込んでいく。だが、それでも軽く数万を数えるだろうゾンビの数は、あまり減らせていないのが現状だ。


「グヌォォォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」

「グボォォォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」

「ヴァァァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ガ゛!!!!」


 腹立たしげにHZが雄叫びを上げると、まるで応えるかのように牽制砲撃中の戦車の後方から新しいHZが姿を見せた。

 

後、二話で完結です。

今までお付き合いくださり、本当にありがとうございます。

完結まで、作品を見捨てないでください。

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