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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
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43.拍子抜けと努力(?)


 計画の組み立てから二日後の朝九時。小松交通まで、もう少しという距離まで、一騎たちはゾンビとの遭遇なしで移動していた。

 複合ファミリーレストランの方へゾンビが大移動したのは確かで、学生組、警官組、自衛隊組は危なげなく横転車の元へと到着。

 残っていたゾンビたちが、車のエンジン音を聞いたらしく、小松交通の方から横転車をバンバンと叩いていた。その音を聞きながら、彼らは車から降りる。


「ゥゥゥウウウウ」

「ァァァアアアア」

「ギィィィイイイ」

「ギュオオオオオ」


 唸り声が聞こえるのは、横転車が八の字になっている部分の中央の向こう側。腐敗臭も同じ場所から漂ってきているから、ゾンビの居場所は簡単に特定できる。


「武藤くん、葉加瀬くん」


 二人が車内から銃を取り出そうと動こうとしたのを、中村が呼び止めた。


「どうしました?」

「俺たちが周辺のゾンビを処理するから、自衛隊と協力して横転車を片付けてくれ」

「わかりました」

「任せるのだよ。少しばかり時間は掛かりそうだが」

「時間? ……あぁ、これは確かに。自衛隊に仕事を丸投げした方がいいかもしれないな」


 三人が話している間にも、中村班の面々と鳥越たちが武装を開始。それを見た中村も3Dプリンター製の銃を取りにハイエースへと向かっていく。


「どうしたの?」


 それを見送っていたところ、一騎と創太に澪が声を掛けた。一騎は創太の言っていた、時間が掛かる理由を指差して答える。


「車の窓ガラスが割れて散乱してるから、手袋してる自衛隊に車を片付けてもらおうかって話をしてた」

「納得。これは危険」

「手で押せるようにするには、タイヤをしっかりと地面に接触させる必要があるだろ。それをするには、割れた窓ガラスが残るフレーム部分を掴まないと難しい」

「自衛隊、手袋してるから丸投げ?」

「そうだ。オレたちは後ろからゾンビに襲われないように、警戒するとしよう」

「キューン」


 二人が話していると、ラルゴの後部座席からジャーキーが鳴いた。しっかりと鼻を両前足で押さえた状態で。しばらくの間、二人に遊んでもらえなかったジャーキー。

 出発時に「今日は絶対に、ずっと一緒にいる!」とばかりに吠えてラルゴに乗り込んだのだ。到着早々に腐敗臭を嗅ぎ取ってしまい「く、臭いよう」と言いたそう。


「大人しく待ってろ。問題が片付けば、遊ぶ時間を確保するから」

「キューン」


 一騎たちがそれぞれ銃を装備し始めた頃には、73式装甲車から降りてきた自衛隊もガラスの破片が飛び散っているのを目撃。自分たちが対応するからと、学生組には周囲警戒が依頼された。


「葉加瀬くん、今回ってドローン持ってきてないの?」

「一応、三機積んであるが出番はないのだよ」

「ゾンビが大移動したから?」

「そうなのだよ」


 学生組がのんびりと話していると、74式戦車に10式戦車が到着。さらに、その後ろには昨日の夕方に百人で協力して、探し出した自走可能なトラックが。

 そのトラックから自衛隊員たちが降りる。創太は偵察用ドローンを見せた後、三森に3Dプリンター製のUZI改を渡した。


「横転車を自走可能なようにするから、君たちは下がっていてね」


 自衛隊員の一人が学生組に離れているよう指示して、横転車へと殺到していく。一騎はマガジンベストを着て、ガンケースの中からTARー21改を取り出し、無線機も装備。

 澪もマガジンベストを着込み、MP7A1改とベレッタ92改を装備。今回、梓はUZI改を装備するものの車外には出ない。ラルゴの運転手として車内に残る。

 三笠がRM700改を持ってラルゴの屋根に上がり、一騎たちが周辺警戒を行おうとした直後。


 ――キュルルルルル、ブロォン!

 ――ウィーーーーン


 どこかでエンジンが掛かる音。それと同時に、まるで何かを動かすような音が。


「なんの音だ!?」

「どうした?」

「これから横転車を移動させるって時に」

「なんだ?」

「小松交通の方からなのだよ」


 突然の事態に自衛隊員たちも混乱。一騎の呟きに創太は音の発生源だけを答える。


 ――ブロロロロロロロロロロロロ


 何かが接近しているのは間違いない。それを確信した二人は、ラルゴの屋根にいる三笠へと視線を向けた。


「小松交通の駐車場からブルドーザーが出てきたんだけど」

『こちら中村。音の正体はブルドーザーだ。社内の生存者と接触して話を聞いたら、横転車はバリケードとして用意したものらしい。

 これからブルドーザーで撤去するから、離れていて欲しいとのことだ。巻き込まれないように距離を取ってくれ』


 三笠が一騎と創太に向けて答えたのと同時に、無線機を使って中村が事情を説明した。数十メートルほど彼らが離れたところで、音が近くなる。


 ――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――ズリャリャリャリャリャリャ


 ものの数分で横転車は道路の左右に撤去されて、74式戦車と10式戦車が通れるだけの道幅が確保された。仕事を終えたブルドーザーは、派手なエンジン音をさせながら駐車場へと戻っていく。

 それを待っていたかのように、小松交通と書かれた看板下の入り口からは八人の男女が出てきた。年齢などはバラバラだが、その顔には「ゾンビ以外のお客が来たーーー」的な表情が浮かんでいる。


「横転車を移動させるっていう、俺たちの仕事がなくなったぞ」

「人力より早くて、かなりパワーもあるからな」

「とりあえず73式とトラックに戻るか」

「待て待て。数人はゾンビが来ないかの見張りをしてろっての」

「武藤くんたちが周辺警戒中だ」


 あんまりにも、あっさりと通行可能になったのは問題ない。むしろ良いことだ。ただ、どうしてタクシー会社の駐車場にブルドーザーがあるのか。

 多くの自衛隊員たちは首を傾げている中、冷静な状態を維持していた他の隊員に促されて73式装甲車や、乗って来たトラックへと戻っていく。


「ここら辺は安全だから、そんなにゾンビを気にする必要はありませんよー。中でお茶でもどうぞー」


 自衛隊員の車列に続いて一騎たちラルゴを駐車場へ。そして、降りたところで女性社員に社内へと招かれた。安全上のために梓がキーを抜いて、ラルゴに乗っていた全員が社内へと通される。ジャーキーも一緒。

 一階の事務室や休憩室の窓ガラスに、ゾンビの血の手形があったが、数は三ヶ所だけ。それと埃っぽくもない。ゾンビ発生から、そろそろ一ヶ月近くになるのに廊下なども綺麗で清潔だ。

 掃除機などを使えば、音によってゾンビが集まってくる。そうなれば、家電のほとんどは使用されない。箒や塵取り、(はた)きを使っても、隅々の誇りは取りきれないはず。そう考えた梓は、ポツリと呟いた。


「掃除はどうやっていたのかしら?」

会社(ここ)には優秀なお掃除ロボットがいるんですよ。音はほとんど出ないから、ゾンビが集まってくることもないのよ」


 休憩室へと案内された彼らは、そこで女性社員とは別の十五人の生存者と顔合わせとなった。タクシードライバー七人に、近所の農家三人、若い女性事務員五人。

 簡単に挨拶と自己紹介を済ませた一騎たち。中村が代表して、どうやって今まで過ごしてきたのかを聞いた。質疑応答だが、誰だって聞いていて驚かされるだろう。


「ゾンビ発生時、どう対処しましたか?」

「噛まれた奴は全員追い出した」

「水や食料はどうやって確保していますか?」

「社長が大量に買い込んだ長期保存水と、保存食。それと農家の人たちが野菜を提供してくれた」

「調理はどうやって?」

「普通に調理しているぞ。IHだからガスは必要ないし、電子レンジだってあるからな」

「会社をゾンビに囲まれたりは?」

「囲まれたが、社長のゴルフクラブで殴って殺した」

「持病などを持っていて、薬が必要になった方は?」

「全員、超健康体だから病気はない」


 これを聞いて警官組と自衛隊組は拍子抜けしていた。生存者から彼らは「どうしてもっと早く助けに来なかった」と非難されると思っていたのだ。

 かなり苦労して生きてきたのではないか。そう考えていたから、罵声を浴びせられることも覚悟していた。だが、実際には拍子抜けする程、あまりにも普通に出迎えられてコーヒーや紅茶などを振る舞われるなど、少しも思っていなかったのは間違いない。

 




 一騎たちは小松交通の社内で飲み物をもらってから、確認するべきことを聞いた。


「水と食料は足りいてますか?」

「全く問題ない。社長が長期保存水を大量に買い込んでいたからな」

「大量に?」

「あぁ。まだ二リットルの水が防災用倉庫に三百本ある」

「「「「「「「「「三百本!?」」」」」」」」」


 自衛隊員からの質問に、専務だという男性が答えた。近くにいた社員と農家以外の全員が驚く。


「しょ、食料は? なにか不足しているものは?」

「そうだなぁ。米は不足している。十六人もいるんだから、米の消費は早い」

「十六人もいれば、米以外にも減っていそうな気がするんですけど」

「そうなのだよ。他にも不足している物があるはずなのだよ」

「遠慮しないで言ってくださいね」

「提供できる物があるかもしれませんから」


 鳥越の問いに専務は少しだけ考え込み、米が不足していると答えた。話を聞いた一騎たちも、他に補充や支援が必要な物があるのではないかと質問。


「そうだなぁ。足りないというと、畑の肥料とトイレットペーパーくらいか」


 専務の言葉に男性陣が驚いていると、女性社員の方は足りない生活必需品などを澪や梓たちに頼んでいた。畑と聞いて、ゾンビが移動するときに踏み荒らさなかったのかと創太が聞くと、見ればわかると言われて全員で移動。

 案内役は専務と農家。周囲にゾンビはいないが、一騎と澪、警官組は万が一を考えて3Dプリンター製の銃を手放さなかった。会社から300メートルほど離れた場所に畑はあった。

 ちなみにジャーキーは散歩だと思っているのか、尻尾超ブンブン。一騎と澪が銃を持っているから、梓がリードを握っている。


「……なるほど」

「これなら、ゾンビ入れない」

「どこから集めてきたのだよ」

「ちゃんと水遣りされてるのね」


 案内された先で彼らが見たのは、コンクリの壁と普通の車、事故車によって周囲をグルリと囲まれた畑だった。隙間が出来ないように、しっかりと幅寄せがされている。

 一番奥の場所は隣接するマンションとの境界に壁が建てられていて、それ以外を普通の車と事故車バリケードでガード。ゾンビ犬やゾンビ猫が相手なら、飛び越える場合も考えられる。


「ここら辺にはペットを飼ってる人も少ないから、ゾンビ化した動物に会ったことも一度だけだ」

「これだけの車をよく集めましたね」


 数十台の車によって出入り口付近を守られた畑を目にし、盛岡はどうやって台数を確保したのか気になったようだ。


「会社前の道は幅が広いし、信号機もそんなに多くないので通勤時間になると、交通量が増えますからな」


 専務は車を確保できた理由を普通に話した。この時「普段は交通量が多くて、困ることもありますけどね」と付け加えられていたが。


「ワンワン!!」


 ジャーキーはリードを持つ梓を引っ張るようにして、一騎と澪の元へ。遊んで欲しそうに視線を向けた。


「仕方ないか」

「姉さん、ボール」

「ちょっと待ってね」


 澪は青々とした芽が出ている畑を見て、農家に何を育てているのかを聞いた。すると、農家は「待ってました」とばかりの表情に。


「ピーマン、キュウリ、ミニトマト、ナス、小松菜、ルッコラ」

「夏対策?」

「そうだよ。それに新鮮な旬の野菜を食べたいじゃないか」


 澪が農家から育てている物を聞き、梓とアイコンタクト。キュウリ、ナス、小松菜は上戸森の屋上庭園でも現在、育てられているからだ。

 話が終わったところで、一騎と澪は道路の状態確認を開始する。道路のあちこちに血があって、まだ完全には乾いていない状態。

 ボールに血が付いたのをジャーキーが舐めてしまい、ゾンビ化する危険性を考慮。二人は同時に頷くと、軽く走ることでジャーキーの「遊んで!」視線を解決することにした。


「ゾンビ発生から、どうやって車を確保したんですか? 音がすると集まってくるのは分かっていますよね?」


 一騎と澪がジャーキーを連れて、軽いランニングをしに行った後、自衛隊員の一人が質問。


「一台ずつ手で押すにしても、かなり大変だったはずなのだよ」

「もちろん大変だったさ。発生から三日間は、大人しく会社内で過ごしていたとも。ただ、農家さんたちが畑が心配だって言うから、安全に行動できるように努力はした」

「努力? それ以前に農家は、どうしてここへ?」

「ここの社長は、俺らが作った野菜を定期購入してくれていたんだよ。ゾンビ発生時、俺たちは野菜を届けに来ていてな。そのまま小松交通で一緒に過ごさせてもらった」

「ところでなのだよ。さっきから話に出てくる社長は、どこにいるのだよ?」


 社長、社長と単語が出るが、その当人は見当たらない。創太が何となく聞くと、話を聞いていた警官組と自衛隊組が「確かに社長さんを見てないよな」と呟く。


「社長なら、そこのマンションに昨日から行ってる」


 専務と農家が指差したのは、畑の後ろにあるマンションだ。八階建てだが、横幅がかなりある。


「なぜマンションに?」

「あそこの816号室が社長の家だから」

「というか、社長は801号室から816号室まで借りてるよ。水やレトルト、缶詰、乾パンにアメ、チョコレートに、調味料に酒なんかを数年前から大量に確保してるから」

「「「「「「「「どんだけ金持ちで、水と食料を溜め込んでるんだよ!?」」」」」」」」

「「さー?」」


 社長が自分で建てたマンションで、従業員の社員寮と倉庫も兼ねているらしい。ちゃんと太陽光発電で電力確保しているから、全く問題ないとのこと。

 ちなみに、ゾンビ発生の段階で、社長はマンションに住んでいる十人前後のドライバーと畑を守っていたそうだ。コンクリの壁に守られていない場所に関しては、バリケード構築までは勝手に畑近くの民家を拠点にしていた、と。

 目指し時計やラジオ、自転車のベルを鳴らしまくり、ゾンビが畑に近寄ろうとすると、音で集めて上からゴルフクラブで頭をボコボコに。


「ただ、ゾンビを集めすぎて水と食料の供給が困難になった時もあったな。それと殺した後、最初の頃は近くの小さな公園に放置して、腐敗臭が酷すぎて換気もできなかったこともあったよなぁ」

「あの時は女性社員に怒られて、集めた死体を焼却したりもしたな。そんで腐敗臭対応の為に、住人がいなくなった民家から消臭剤を集めて、プシューだったか」


 色々と努力(?)しながら生活していたようだ。それだけは話を聞いていた面々が思った。一騎と澪、ジャーキーが戻るまでの間に、彼らはマンションに向かった。

 社長と畑を守ったドライバーたち、他にも事務の女性や清掃の社員などと顔合わせするために。ここでも彼らは非難されることなく「よく来たな。無事でよかった」とか「この中から必要なものあるなら持っていけ」などと言われたり。

 一騎と澪、ジャーキーが合流してからは有栖総合病院にとも提案があったが「ゾンビのいる生活に慣れたから問題ない」とのことで、お互いに不足したものがあったら物資提供し合うことで合意。

 ちなみに、来栖野大学病院へ向かう拠点として、会社とマンションを使うことも普通に承諾されたのだった。

誤字脱字指摘ありがとうございます。

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