35.無法者の対応
明石たちが駐留している有栖総合病院に増援が到着してから、一週間程が経過する。四月から五月に入り、ゾンビもほとんど姿を見せなくなった。
避難民たちが自衛隊員と自衛官たちとも打ち解け、お互いに出来ることを行って協力関係が完成しつつあった。そんなある日の午前十時頃。
明石は病院内に割り当てられた私室のような場所で、今後の燃料補給の予定と計画を考え、一騎たちと協力して来栖野大学病院へと向かうことも本格的に思案していた時だった。
『病院正門警備です。物資の提供を希望する民間人が六人ほど来ています』
「物資提供の希望だと?」
『そうです。水、食料、衣類をそれぞれ三ヶ月分も』
この報告を聞いただけで、明石は増援が来た日の夜に一騎が言っていたことが現実になったと判断した。
「どうして、ここを目指してきたのか。それを聞いてくれ」
警備の自衛隊員もわかっているだろう。上空をオスプレイが地上は装甲車と戦車が走っていたのだから。どこへ向かっていくのか。それを慎重に見ていた人間なら、戦力や物資が集まりそうな場所も把握できる。
民家やその周辺に自衛隊が展開するはずもないから、そう考えると病院しかない。そして有栖市内にある大きな病院は、有栖総合病院しかないのだ。
『オスプレイと装甲車が走っていくのを目撃したから、だそうです。物資もある程度は集まっているはずだからと』
確かにその通りだ。現在、ここには大量の食料と水がある。だが、それらは自衛隊が発見したものではない。これらは全て、一騎たちと警官たちが見つけたもの。
自衛隊は彼らの行動に、ただ同行しただけでしかないのが事実だ。そして、発見された物の多くは病院長の後藤と、普通の学生であった一騎によって管理されているの。
「三ヶ月分の理由は?」
とりあえず、物資を提供する、しないの判断は後藤と一騎の判断。それを自分に言い聞かせて、明石は長期分を必要とする理由を聞くように指示した。
合流した方が安全を確保できるのに、物資提供の希望。この時、明石の頭の中に一騎がかつて言った言葉が再生されていた。
「物資に戦力、人員が揃えばそれだけオスプレイや戦車は目立つ。これを見た生存者の中には、純粋に保護を求めてくる人もいれば、提供と言う名目で“寄越せ”と要求される場合があります。
特に、いきなり長期間の物資に関しての話が出た場合、それは継続的な強請に繋がりかねません。自分たちは力を持たないのだから、持ってる人間が助けるのは当然だ、とね。
もし提供したら、今度は安全に生活が出来る場所となり、最終的には女性を“差し出せ”と変わります。そして自分たちだけ安全な場所にいて、怠惰と快楽だけを求めるようになる」
あまりにも具体的な内容だったからこそ、明石だけじゃなくその場で聞いていた全員が息を飲んだ。現実になったら、とんでもない事態になる。
それを正確に理解して。特に一騎たちといた女性陣は美少女と美女の御巫姉妹の姿があった。もしも、外の寄越せ集団が彼女たちを見たら、絶対に放置したりしないだろう。
害が及んだ場合には、一騎や創太、警官組と病院の避難民の一部が他の生存者を探し出しては虐殺する場合も起こってしまいかねない。明石は絶対に阻止しなければと決意。
『理由を述べてきません。ただただ、物資を提供しろとだけ言ってきます。どうしますか?』
「明確な理由がなく提供するなど無理だ。それに保護を求めないのは、後ろ暗いことがあるんだろう」
『聞きますか?』
「あぁ」
返事までに時間がありそうだと判断した明石は、病院屋上の監視要員に無線を繋ぐ。
「明石だ。病院正門方面と裏手方面を監視せよ。不審な行動を取る者がいれば、即射殺が可能なように待機」
『了解です』
『了解しました』
病院屋上には常時監視員が六人、八時間交代で四班を配置している。どの班にもスナイパー二人を配置し、不審者やゾンビ発見時の対応を素早く行えるように待機させていた。
『二等陸尉。保護を求めた場合、強制労働させられるからとの返答です』
「強制、か。武藤くんが言った「働かざる者、食うべからず」を聞いたら、どんな反応を示すのやら」
『そう思います。二等陸尉、判断は?』
「お引き取り願え。大量に物資を提供しても、それを保管、保存することが可能な環境か設備がないのならムダに終わるだけだ」
『了解です』
――彼らは武藤くんの姿を見たことがないようだな。もしも目撃したことがあったら、なにか言ってくるだろうし。
『こちら病院屋上。正門側でのやり取りがあった後に、五人の男が、病院裏手のフェンスを乗り越えようとしています』
無理矢理にでも、物資を奪うつもりのようだ。そのために全員で来ていなかったのだろう。明石はそう判断を下すと、すぐさま許可を出した。
「発砲許可。威嚇射撃として、フェンスを乗り越えて着地した瞬間を狙って足元を狙撃しろ」
『了解』
――ズダーーーーン!
明石が発砲許可を出した直後、銃声が響いた。
『威嚇射撃を実行しました。しかし、止まる気はないようです』
「もう二回の発砲を許可する。今度は足元だけじゃなく、頬を掠める程度に撃て。それでも止まらなければ射殺しろ」
『了解です』
――ズダーーーーン!
――ズダーーーーン!
『明石二等陸尉、正門側の民間人が「寄越せ」と怒鳴ってきています』
「正門周辺の手空きの全自衛隊員と自衛官へ。暴徒化の危険性ありと判断する。ただちに武装して、急行せよ」
『了解です』
『射殺していいでしょうか?』
『こちら10式戦車。主砲をぶっぱなしますか?』
『いつでも撃てます』
『こちら屋上の警戒班。追加の威嚇射撃も無視。射殺します』
明石の指示に一斉に返答が。そしてしばらくして、高い位置からの銃声が数度。病院裏手から入って物資を奪おうとした人間は、頭を撃ち抜かれたようだ。
――武藤くんたちがガソリンスタンドに出掛けていて助かったな。いや、御巫の姉妹がか。彼女たちに害が及ぶと判断したら、武藤くんは問答無用で射殺したかもしれない。
明石がこう判断を下したのも無理はなかった。その後、しばらくして、裏手側は全員射殺完了の報告。正門側は二人だけ逃亡して、残りは片付いたとの連絡。
明石は一騎たちが戻るまでに、綺麗に死体掃除と血を片付けるように指示して最初の思考に戻る。ちなみに自動監視装置のドローンは充電中だったので動いていなかった。
□
明石が昼食を済ませてから、三十分後。屋上の警戒班から妙な動きをしている集団がいるとの無線連絡。食後のインスタントコーヒーで、休憩していた明石だが一瞬で意識を切り替えた。
私室のような場所で、のんびりしていた彼は歴戦の猛者ような雰囲気を纏って部屋を出る。
「集団か。正確な数は?」
『不明です。ただ、ゾンビじゃないのは確実です』
「朝の連中の仲間か、あるいは別のグループか」
『二等陸尉、上空からドローンで撮影を行っています。監視映像室へ来ていただけますか?』
「そうか。行こう」
創太が作り出したドローンが撮影した映像を、専用の部屋でリアルタイムで確認できる監視映像室へと明石はコーヒー片手に向かう。
向かうと言っても、作戦室を挟んだ隣なのだから手間や時間などはほぼゼロだ。
「二等陸尉、こちらの映像を。三番機からです」
「ふむ。朝とは別のグループだな」
明石が入室すると、ドローンの制御をAIに任せた状態や、映像解析中以外の数人の自衛隊員が立ち上がり敬礼。彼は返礼してから、大型モニターの映像を見る。
そして、すぐさまに結論を出した。朝の“寄越せ”連中とは違うと。
「確かにそうですね。コソコソし過ぎですし、金属バットや包丁で武装しています」
明石の言葉にモニター映像を映し出している自衛隊員と、ドローン操作中の自衛官が同意した。
「それに雰囲気からして、襲い慣れているような印象を受けます」
「実際、そうなんだろう。自分たちが生きるために、他の人間が集めた物資を横取りしているような感じだな。音声は拾えそうか?」
「少々お待ちを。ドローンの高度をもう少しだけ下げてください」
「了解」
隊員の要請に自衛官は頷くと、ドローンを慎重に操作して二メートルほど高度を下げる。普通ならモーター音などで気付かれそうだが、創太が少しだけ本気を出して作っただけはある。
一メートルまで接近しない限りは、モーター音は聞こえないという高性能を誇る。だからこそ、まだドローンの存在に気付かれずにいた。
『あれだけの戦力だ。物資もかなり溜め込んでるだろ』
『非武装ってことはないだろうよ』
『連中の武器も奪おうぜ』
『だけど、どうやって奪うんだ?』
『単純だ。保護を求めて近寄っていき、中に入ったらすぐさま殺す』
『女は?』
『俺たちと同じくらいのがいたら、殺さずに取っ捕まえろ。たっぷりと可愛がって、男なしじゃ生きていけない身体に改造してやる』
『おっ、賛成!』
『この前のは中学生くらいだったもんな。もう少し上の女が良いぜ!』
『安心しろよ。有栖総合病院は美人看護師が多いのでも有名だ』
『マジかよ! 今から楽しみで仕方ないぜ』
拾われた音声と拡大された映像から、全員が男で高校生から大学生くらいまでが十七人。実にクズな会話内容が聞こえてきた。
「残りのドローンを向かわせろ。後方から射殺だ。ミニガン搭載のは出すなよ」
「了解」
隊員たちは明石の指示に従い、ドローンを操作。彼はさらに屋上の警戒班に狙撃準備を告げる。連中の会話を聞いて明石や自衛隊員たちが、彼らを生かしておく理由はゼロだ。だからこその射殺許可。
生かしておいたり、保護したりなどしたら、人質を取られたりする危険性だってある。そのまま、一方的に上官でもないのに、命令をされる可能性も。だからこその、射殺許可であり射殺命令だ。
明石の見ている前で他のドローンからも、映像が届いて別のモニターに映されていく。
「ドローン一号機、配置完了」
「二号機もです」
「三号機、いつでも撃てます」
『屋上警戒班、準備完了』
監視映像室の全員の視線が、一斉に明石へと殺到する。明石は視線を受けて頷くと、よく通る声で命令を出した。
「射殺開始せよ」
無線機越しに屋上の警戒班にも指示が。その直後、三機のドローンが集団の三方向を塞ぐように降下。そして、ベネリM4が発砲される。
タイミングが全く同じようでいて、実際はほんの少しだけの時間差の攻撃。シェルを撃ち尽くす前に、リロードボタンが押されて、監視映像室の中にはシェルを込める音がやけに響く。
『『『ズドーーン、ズドーーン、ズドーーン!!!』』』
『なんだ!?』
『ぎゃぁぁぁぁあああ』
『逃げ――――』
『どっから――――』
――ズドーーーン!
――ズドーーーン!
――ズドーーーン!
左右と後方からドローン搭載のショットガンで撃たれて、まだ銃撃を受けていない病院側へと走り出そうとしたところでPSG1で頭を撃たれて死んでいく。
程なくして完全に集団の姿が見えなくなるまでの間に、時間はあまり長く掛からなかった。彼らが入り込んできていたら。それを考えると、安全と平和を守るには迅速だった。
「周囲を警戒。他の集団や生き残りがいないかを確認しろ。いなければ徹底的に綺麗に掃除だ」
数分間、ドローンを飛ばさせて他に集団の生き残りがいないかを確かめ終わると、明石は掃除を指示。その後、ドローンに関しては、バッテリー残量が半分を切らないよに言って警戒をさせた。
□
「どうしますか?」
「友好的な感じじゃないのは確かだな。ついにあれを使う時が来たのかもしれないな」
「あれをですか!?」
「そうだ。あれを、だ」
午後四時頃。監視映像室で明石は、二番機のドローンが捉えた映像を見るために呼ばれていた。モニターに映し出されているのは、七台の軽トラの荷台に銃を持った男たちが乗っている。
全部で六十人前後が乗っていて、運転手以外が全員武装していた。荷台の男たちは、MP5やMP7、ベネリM4、M16などを装備。何人かは警察官制服を着ているが、どう見ても警官とは思えない。
今までどうやって生き延びてきたのか疑問が残る。まぁ明石じゃなくても、わかるだろう。他の人間を襲って、その食料などを奪ってきていると。
「状況から考えると、ゾンビがいなくなった上戸森か有栖の警察署にチンピラが侵入。そこで、武装を調達したと考えるのが妥当だろうな」
「確かにチンピラって感じですもんね」
「派手な茶髪に金髪。チャラチャラしたアクセサリーを大量に身に付けて、ヘラヘラした表情と雰囲気。あんなのが本物の警官なら、警察組織はかなり腐っているとしか判断が出来ないな」
明石はどう対応するかをしばらく思考してから、はっきりと命令を出した。
「手空きの自衛隊員、自衛官は速やかに武装して正門前へと集合。今まで最大規模の無法者集団が接近中だ。時間にして十分前後で到着。向こうも銃で武装している。よって、防弾ベストの着用を命ずる」
明石は事前に創太から追加の無線機を渡されていた。無線機の数は自衛隊に三十台(?)が貸され、小隊の装備として重宝されている。
ただし、隊員全員には持たせられないから、小隊長と副隊長にのみの貸与だが。それでも、基本的に小隊行動しているからこそ、すぐに命令が伝達されてスムーズな行動が可能となっていた。
『こちら一班、正門前到着です』
『二班、到着しました』
『五班、10式戦車に乗り込みます』
『八班、五班と同じく10式に乗り込みます』
『九班、81mm迫撃砲 L16準備完了』
『十三班です。パイプ爆弾を設置してあるルートを、敵集団は通過しますか?』
『こちら屋上警戒班、狙撃準備完了』
続々と入ってくる報告を聞きながら、明石は一つの命令を出す。
「五班、戦車に乗っていない班員の中から一名を選べ。あれを使わせる」
『あれですか!?』
『はいはいはい! 俺、俺やります!!』
『バッキャロー。ただ撃つだけだと、弾がムダになるだけだろうが。連射の反動に耐えられる奴だ』
『なら、あいつだな』
明石や自衛隊員、自衛官たちの言う“あれ”。それは創太が四機目のドローンに武装搭載させた、改造型ミニガンのことだ。一度だけ試射が行われたのだが、本来のミニガンに比べると威力低下は避けられず。
しかし、大量の銃弾を撃てて、反動も注意していればある程度は抑えることができる。一度、撃ったことのある自衛隊員たちと、自衛官たちは撃つことで気分爽快になれるから撃ちたがった。
「敵集団接近中だ。緊張感を持て。警告なしで撃ってきて、戦車や物資を奪おうとする可能性がある。射殺を大前提に行動せよ」
明石は各小隊に緊張感を持つよう指示。ドローン四号機の操作が行われて、出動用の窓から飛び立っていく。それを見送った直後、二号機を操作していた隊員から報告が。
「明石二等陸尉、気付かれないように接近できるギリギリまで高度を下げて追跡。音声を拾ったところ、間違いなく物資と若い女性目当ての無法者集団です。
正面切って我々と戦うつもりのようですね。どう対処しますか? このまま接近を許すので?」
「よく考えろ。葉加瀬くんと我々が設置した物を」
「……あっ」
「そういうことだ。半分くらいまで数を減らせるといいんだがな」
「どっちにしても、設置場所を通ってくれないと困りますけどね」
「そうだな。だが、あの様子なら問題なく通るだろう」
創太と自衛隊が共同で設置した物。その正体はパイプ爆弾である。部分的な改造が施されているが、見えにくい糸をゾンビや後ろぐらい人間が通りそうな場所に設置。
糸が切れると、その瞬間に爆発する仕掛け物と、数秒の時間経過があってからの二種類。今回、明石がモニターを通して見ているのは、少し遠回りしながら正門へと向かうルートだ。
そこには時間差式で爆発するパイプ爆弾、いやパイプ地雷(?)が等間隔に設置してある。それも四トン車くらいなら、軽く吹っ飛ばして盛大に爆発炎上させることが出来るだけの威力が。
「二等陸尉、最初の地点に向かっています」
「そうか。各小隊に告げる。待機ポイントを変更。連中は地雷側に進路を取った。それぞれD地点まで移動し、即攻撃できるようにしておけ」
A〜G地点。それはパイプ地雷が設置してある場所を示している。AとBは東西から駐車場に向かって突っ込んできた時の場所。C〜Dは迂回しながら正門へと向かってくるルート。
外では明石の指示を受けた自衛隊員たちが、速やかに移動して指定されたポイントへ移動。10式戦車も動いていき、その音が聞こえたらしい軽トラの無法者の武装集団は不安を抱いたようだ。
『『『『『『移動完了!』』』』』』
どう動くのかと明石が考えようとした直後、移動を終えた隊員たちからの一斉報告。
「了解だ。もうそろそろで最初の二、三台の軽トラが吹っ飛ぶ。即発砲可能なように待機せよ」
「ミニガンドローン、Dポイント到着」
「よろしい」
――ビィーーー、ビィーーー!!
――ドゴーーーーーーン!!
糸が切れて、パイプ地雷が反応するまでの数秒程度。警報はしばらく鳴ると、突然に大きな音と振動が監視映像室にまで届いてきた。
軽トラが爆発によって吹っ飛び、荷台に乗っていた男たちは見事に即死。血が主成分の赤い雨が、トラック周辺にだけ降り注ぐ。
『三台が吹っ飛びました。残りの軽トラは停車。降りてきました』
――ダダダダダダダダダダダダン!
『警告なしに撃ってきました!』
「応戦開始! 三機のショットガンドローンは、軽トラの影に隠れようとする連中を重点的に射殺だ」
『『『『『了解!!』』』』』
「「「了解!!」」」
――ダダダダダダダン、ダダダダダン、ダダダダダン!
――ズバーーーン、ズバーーーン、ズバーーーン!
――ガガガガガン、ガガガガン、ガガガガガガガガン!
――ドドドン、ドドドドドドドン、ドドドドドドドン!
――バババン、ババババババン、ババババババババン!
――ズバーーーン、ズバーーーン、ズバーーーーン!!
銃撃戦が始まると、病院の避難民たちは大急ぎで院内へと避難していく。その間にも銃声は休む間もなく続くばかりだ。
――ズダーーーーーン!
――ズダーーーーーン!
『くそっ! なんとしても女と物資を手に入れるぞ』
『爆弾なんて仕掛けやがって』
『ぐあぁっ』
『な、なんだ!?』
『ドロ――――』
『うがぁ』
『卑怯者めが』
『つうか、あり得ないだろ。どうやって地雷とか爆弾を持ってきているんだ?』
『知るかよ。とりあえず殺せ!!』
銃撃戦の最中でもドローンは、しっかりと音を拾っていた。そして、その音声は各小隊にも届けられている。
『好き放題言いやがって!』
『今まで他の生存者を襲って、食料を奪ってきたような連中のくせに!』
『お前らこそ、まともな人間の集まりじゃないだろうが!』
『一人も生かして返すな! 武藤くんたちが帰って来る前に掃除終わらせるぞ!!』
『おう!!!』
自衛隊員たちの怒りに満ちた怒声が、四機目のドローンによって拾われていた。その四機目、つまりミニガンドローンのカメラが一人の自衛隊員を映し出す。
映された当人はミニガンが到着したのを確認すると、すぐさま立ってドローンの後ろへ。
『くそっ! 大人しく武器と食料と女提供すれば、殺さずに使ってやろうと思っていたのによ!!!』
三番機が拾った音声によって、自衛隊員たちはキレた。明石もキレた。全身から凄まじい殺気を放ちながら、普通なら出さないような命令を出す程に。
「10式戦車、主砲を敵の軽トラへ。主砲発砲許可」
『了解!』
「ミニガンで敵を蜂の巣にしろ! 決して生かして返すな!!」
『了解であります!』
――ドゴーーーーーーーーーーーーーン!!
――ドバーーーーーーーーーーーーーン!!
――ギュルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!
10式戦車の主砲が、四台の軽トラをあっという間に吹き飛ばして炎上させる。その際に咄嗟に逃げた二十人がいたが、ミニガンドローンの攻撃を全身に受けて蜂の巣状態。
生存者は見事なまでにゼロ人。それを四番機ドローンと、残りのドローンが届けてきた映像で確認して明石や前線にいた自衛隊員たちは満足そうに頷く。
『しまった! 迫撃砲を運んできたのに、撃つの忘れてた!!』
『『『『『『はははははははははははは!!』』』』』』
とある小隊の一人が発した言葉、無線機を通して参加していた全員に聞こえている。殺気に満ち溢れていた彼らが、この瞬間にはただ爆笑するだけになった。
事情を知らない人が見たらホラーだろう。炎上中の軽トラと蜂の巣になった元人間を前に笑っているのだから。
『こちら武藤。なにをやった』
実に楽しそうだった雰囲気が一瞬で凍り付く。特に明石に関しては、この時だけは全身に冷や汗を掻いていた。そう、一騎からの突然の無線連絡によって。
「なにもやってなどいない。ゾンビの集団が来ただけだ」
明石は咄嗟にウソを言ったが、一騎は追求する。この時、彼らは忘れていた。生活音がほぼない状態になっているのだから、銃声に関してはともかく戦車の音は聞こえているだろうと。
『それだけなら、戦車の主砲の音が聞こえるはずないんですけどね。それ以前に、こちらに連絡が入るはずだ』
無線越しにでもわかる、一騎のにこやかな、それでいて目だけが笑っていない笑顔。それは参加した全員が幻視するほどに。
「た、たまには使わないとな。いざという時に使えませんじゃ、話にならないだろ?」
『帰るまでに綺麗にしておくように。少しでも妙な跡があったら、わかるよな?』
敬語を使っていない、一騎からの確認。明石も自衛隊員たちも一斉に息を飲んで返事をした。
「分かっています!」
『『『『『『『『理解しております!!』』』』』』』』
『よろしい』
唐突に連絡が終了すると、明石は大急ぎで隊員たちに指示を出した。
「軽トラの片付けと、血の跡を徹底的に清掃! 俺もすぐに向かう」
『『『『『『了解!!』』』』』』
明石は速やかに病院の医師と看護師、そして避難民たちにも清掃の手伝いを依頼したのだった。
誤字脱字報告、ありがとうございます。
今回、明石たちは実弾を使っていますが、その理由は相手がゾンビじゃないから、です。




