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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
35/54

34.迎撃システムと増援


 病院にゾンビの集団が迫り、創太のショットガンと電ノコによる一方的な殲滅があってから四日後の昼。食事を済ませた一騎たちは、上戸森のマンションに戻ってきていた。

 707号室と708号室に、中村たちに石田、明石と数名の自衛官が顔を揃えている。今回、彼らが話し合うのは有栖総合病院の防衛力強化に関して。

 最初のゾンビ軍団はコブラとオスプレイによる援護があったから、なんとかなった。二回目のゾンビ集団は数が少なかったから問題なし。ただし、ゾンビ犬の数には問題ありなのだが。これらの説明を一騎たちは終えたところ。


 周囲のゾンビをほぼ殺しているはずだが、前回のように突然どこからか集まってきたら、自動で迎撃することのできるシステムの構築が重要。

 なので、なにか案がないかと話をするべく彼らは集まっている。ちなみに、数日会っていないだけだったのに、一騎と澪はジャーキーに顔中を思いきり舐められた。


「なるほど。有栖総合病院にまたゾンビが集まってきたのか」

「えぇ。バリケードを作るにしても資材が足りない。そこで、3Dプリンターを使い、迎撃システムをと考えています」

「葉加瀬くん、3Dプリンターで最大どれくらいの大きさの物が作れるんだ?」

「RPGくらいまでなら作れるのだよ。ただし、それを超えるサイズは大きさ的に不可能なのだよ」

「賀古市にある資材を運んでくるにしても、ほとんど在庫はないから。自衛隊は、ほぼ動けない。そう判断してくれ」

「あまり音が響くような物は使いたくないんです。可能な限りの消音性能で、確実にゾンビを殺せる。なにか案ないですか?」

「僕はショットガンと電ノコによ――――」

「却下」

「音が出るじゃない」

「ワン、ワーン、ワン!!」


 一騎が石田たちに案を求めると、創太が口を挟む。それを澪と梓が却下して、ジャーキーが「ちゃんと考えろ」とばかりに吠える。しばらく沈黙状態だった明石が、思い付いたと言わんばかりに考えを口にする。


「上戸森警察署まで向かい、そこに残っているバリケードやコーンを回収するのはどうだ?」

「「「「「絶対に却下」」」」」


 明石としては名案だったのだろうが、一騎たちや石田たちからすれば戻りたくない場所だ。学生組からすればゾンビに囲まれた場所だし、石田たちにとっては心ない避難民のわがままによって命を落としかけた場所。


「葉加瀬くん」

「うむ?」

「君の技術力で、固定設置型の監視装置は作れるか?」

「問題ないのだよ」

「その監視装置に人間とゾンビの認識をさせるのは?」

「心配ないのだよ」

「高度なAIを搭載させ、ゾンビに対してのみ攻撃は?」

「時間は掛かるのだよ。だが作れるのだよ」

「石田さん?」


 石田が発した疑問。これに一騎はなにか思い付いたのかとばかりに、期待した声だ。


「AIによる監視と自動迎撃システムを一緒にした、固定型の迎撃砲を設置するのはどうだ?」

「固定型の迎撃砲、ですか?」


 梓が首を傾げながら聞くと、盛岡が真っ先に反応した。


「もしかして、AIにゾンビと人間の違いをインストールさせ、必要に応じて銃口を展開し射殺させようとでも?」

「正解だ」

「それだとパチンコ玉を使ってしまいますね。ゾンビ数が多い場合はどうするんですか?」

「だったら、俺たちが用意してきている液体窒素はどうだ?」

「液体窒素?」

「ある程度、空気圧縮した液体窒素を水鉄砲のようにして発射。ゾンビの身体が腐って脆くなっているなら、水圧によって首を吹き飛ばしたり、頭に穴を開けることもできるな」

「ちょっと待ってください。固定型の監視装置を作るのは賛成ですが、安全性はどうなるんですか?」

「安全性?」

「ゾンビと人間の区別をAIが失敗した場合、オレたちが死ぬ場合だってあるんですよ」


 創太は時間が掛かるが、問題ないと言った。だから石田は作成を促したが、設定に掛かる時間までは考慮していなかったようだ。

 そして、もしもシステムが正常機能しなかった場合のリスクも今さらのように認識した様子。


「それならドローンを最初に作るのだよ」

「ドローン?」

「ワフン?」


 いきなりの創太の案に、全員が首を傾げる。ジャーキーは一騎と澪が揃って首を傾げたのを真似た。


「ドローンに武装を搭載。AI制御でドローンを定期的に警戒飛行させる。ゾンビ発見か、ゾンビらしき発見をした場合に遠隔発砲可能なシステムを構築。

 病院内に制御室を作り、映像を送らせて控えている警官や自衛官による判断を促す。そして遠隔操作によって武装のセーフティーを解除して発砲するのだよ」


「最終的な判断は人間がする、か」

「そうなのだよ」

「誤認した場合を考えると、危険度は残るけどマシだな」

「固定設置型の方もカメラ映像を制御室に送り、最終的な判断は人間が行う。ドローンと同じで、遠隔操作による攻撃をできるようにすれば問題なし! なのだよ」


 一騎が創太以外の全員に視線を向けて、賛成か反対かの意見を促した。この段階で彼らは賛成を選択。病院周辺に太陽光発電の小型街灯を設置して、明るさを確保する方針で決まった。

 創太がドローンと固定型監視装置に使う武装を警察と自衛隊に迫り、提供してもらうことで決定。ただし、どの武器を使うのかは最後までのお楽しみだという。

 解散直前に少しだけ中村たちと明石たちが、創太に引っ張られていき程なくして戻ってきた。


「絶対ショットガンを搭載させるだろうな」


 解散直後、非常に楽しそうかつ、嬉しそうな表情で出ていった創太の姿を見て、一騎は早速とばかりに正解を言い当てた。


「ベネリM4 スーペル90を要求されたよ。シェルは2.75インチという指定まで受けた」


 一騎の独り言を聞いた中村が、あっさりと正解だと認めた。創太は自分の手でゾンビにショットガンを撃てなくても、ドローンでも撃てれば問題ないらしい。


「はぁ。まともな武装を期待しよう」

「ワフーン?」

「期待するだけムダ」

「きっと斜め上を作ってくるんじゃないかしら」


 一騎が疲れた表情を浮かべると、ジャーキーが「大丈夫?」とばかりに右前足でポンポンと一騎の脇腹を何度か叩く。澪と梓は絶対に、やらかすだろうと判断していた。





 一時間半後の午後二時頃。708号室でドローン作製を行っていた創太は、出来上がった四機を見て満足そうに頷く。通常のドローンよりも大きめであり、中央部分にはベネリM4 スーペル90が固定されていた。


「くふふふふふふ。あはははははは、ふぁーはっはっはっはっはっはっは!!」


 三機のドローンの武装は、ベネリM4 スーペル90。数本のコードが繋がれていて、セーフティーとトリガー、そしてシェルを入れる場所に接続されている。ちゃんとコントローラーも作られていた。

 シェルを入れる場所にはシェルケースがあり、一ケースに2.75インチのシェルが六十発。遠隔操作によって、発砲だけじゃなくリロードも可能。


「これで、これで! 自衛隊にもゾンビをショットガンで殺す素晴らしさを、しっかりと、教えられるのだよ!!」


 創太は四機の内、一機だけ装備が違うドローンに触れる。わかる人間が見れば、間違いなく顔を引き攣らせるだろうこと間違いなし。


「とりあえず弾は自衛隊が大量に運んできていた5.56を使うか。これはあまり使いたくないが、ゾンビの数が多すぎる時には、絶対に必須な武器なのだよ」


 創太はこの四機目はあまり使いたくない。なにせ王道でロマンなショットガンでも、電ノコでもないのだから。


 ――ガチャ、バタン


「創太、そろそろ完成したか?」


 チャイムを押さずに入ってきた一騎の問い。


「さっき全て完成したのだよ」


 創太はドア越しに一騎に答えると、三機をベッドの上に乗せて入室したらすぐに見れるように置いた。


「入るぞ」

「一騎、見てほしいのだよ。この素晴らしい三機を!」


 ドアを開けて入ってきた一騎に、創太は実に誇らしそうな表情でベッド上の三機を指差した。


「どれどれ、って。おい! なんでショットガンなんだよ!?」


 三機のドローンを見た一騎。最初はこんな短時間で、と思っていた。いたのだが、搭載されている武器を見て驚いたように声を上げる。

 一騎とてもうわかっていただろう。それでも、今回はマシな武装の確率も。そう思っていた彼が実際の武装を見て、思わず抗議を口にしたのは無理もない。


「ふふふふふ。自衛隊の連中、ショットガンでゾンビを殺したことがないそうなのだよ! 遠隔になってしまうが、ゾンビにショットガンを使うことの重要さを、しっかりと理解させるために取り付けたのだよ!!」

「アホか! もしも大集団で来たら、貴重なリロード時間が長くなるだろうが!!」

「それに関しては考えがあるのだよ」

「本当だろうな?」

「もちろんなのだよ」


 創太は机の上に置いたままの四機目を指差す。それを見た一騎が絶句したのは無理もない。


「……」

「ゾンビの数が多いなら、最高に役立つのだよ! パイプ爆弾と合わせれば、あっという間にゾンビを殲滅させることが可能なのだよ!!」

「アホかーーーーーー!!」


 搭載武装を見た、一騎からの創太に対する評価。それは「アホ」だ。ベランダを解放した状態で叫ぶような感じだったからこそ、声を聞いて澪たちや石田たちが集まってくるのは当然だろう。


 ――バン!


「どうした!?」

「大丈夫か!?」

「なにがあった!?」

「何事!?」


 一騎の声を聞いたらしい全員が、708号室の玄関を抜けてドアが開いたままだった創太の部屋へと集合。


「おぉ、完成したのか」

「しかし、武装がショットガンとは」

「やらかしてる」

「え? あらら」

「やり過ぎじゃない?」


 中村や石田たち警官の視線は三機のドローンに固定されている。しかし、澪たちは机にある一機に視線が向く。


「ま、まさか!?」

「こんなもので!?」

「は、葉加瀬くんを敵に回さなくてよかった」

「いやいやいや。武藤くんたちを、だろ」

「それもそうか」

「今はもっと重要なことがあるだろ」

「確かに」

「「「「「なんでドローンにミニガン?」」」」」


 創太が一騎にアホと呼ばれた理由がこれだった。本来の大きさに比べたら、小さく作られている。だが、見る人間が見ればわかる。ミニガンだと。


「ベネリM4だけでは、シェル装填に時間が掛かるのだよ。だからこそ作ったのだよ! リロードするまでの時間を伸ばして、可能な限り大量の銃弾を撃ち続けられるものを!!」

「……葉加瀬くん、弾はなにを使うつもりだ?」

「自衛隊が5.56をかなり持ってきている。それを提供してもらい、使うのだよ」

「ちなみに最大装填数は?」

「この専用マガジンに5.56が6000発は入るのだよ」

「発砲後の反動制御は?」

「滞空させて、人力による発砲なのだよ。だから取っ手とトリガーも付けてあるのだよ」


 この後、彼が本当は全てショットガンで作りたかったと話して、固定設置型の監視装置には液体窒素を使うことが明かされたのだった。





 創太による自動迎撃システム、武器搭載ドローンの完成から三十分後。一騎は澪と協力してジャーキーを綺麗に洗おうとしている。梓と三笠は伊藤や鈴木、諸星などと無線連絡で情報交換。

 中村たち警官班は、創太を手伝って自衛隊に提供というか貸与する用の3Dプリンター製の銃の組み合わせ。石田と明石、それと自衛官数名はゾンビ発生から現在まで、どうやって生活をしてきたのか。これを互いに教え合っている。


「ジャーキー、お座り!」

「あまり動いちゃダメ!」


 視点は一騎と澪の二人。二人は現在、浄水器で綺麗にした水を複数台のポットで沸かしたものを使い、ジャーキーの身体をしっかりと濡らしている最中。

 一騎がジャーキーを押さえて、澪が丁度よくなったお湯を掛けているのだが、数日ぶりに会えた二人に、ジャーキーは甘えることを優先。

 お湯を掛けられても、すぐに全身をブルブルと振って水気を飛ばし、二人に飛び付いたり顔を舐めようと動く。そろそろ十分も同じことの繰り返し。ここで一騎は、いつもよりも低い声で指示を出した。


「ジャーキー、お座りだ」

「ク、クーン」


 さすがに怒られたとわかれば、ジャーキーも大人しくなる。


「今のうち」


 澪はジャーキーが大人しくなったタイミングで、しっかりと全身をお湯で濡らす。犬用シャンプーをたっぷりと、泡立ててからそれを頭から順に尻尾まで。


「クー、クーン」

「ダメだ」

「ダメ」

「キューン」

「後にしなさい」

「そう、後」


 甘えさせて欲しいと鳴いたジャーキーだったが、二人はシャンプー中に甘やかすことはしなかった。全身が泡だらけになり、全体的に汚れが浮いてきているのを見た一騎が如雨露(じょうろ)にお湯を入れて、泡を洗い落とす。


「うわっ!」

「きゃっ!」


 泡が落ちきった直後、ジャーキーがブルブルを行って水気を吹き飛ばす。至近距離の二人は、これをまともに受けて服が濡れてしまった。


「ジャーキー」

「メッ!」


 一騎は呆れたような反応で、澪の方は人差し指を立てて叱る。


「ワン!」


 しかし、当の本人ならぬ本犬は「遊ぼう!」と言わんばかりに吠えて、尻尾ブンブン。


「澪、濡れたから入浴し――――」


 入浴を促そうと一騎が澪に視線を向けたところで、男子である彼にとっては非常に気まずい事態。


「どうかした?」

「入浴を済ませた方がいい。ドライヤーはオレがやっておくから」

「平気。わたしもやる」


 言葉を途中で切って、視線を別方向へと向けた彼に澪が不思議そうに首を傾げる。


「大丈夫だ。だから、澪は入浴しろ」

「一騎くんこそ」

「……オレは後で入る」

「わたしの後に……入りたいの?」


 非常になんとも答えにくい質問に、一騎はしばらく悩んでから結局は指摘することを選んだようだ。


「その、シャツが透けて下着が見えてる」

「え?」


 ジャーキーのシャンプーに際して、二人とも上はシャツ一枚で下はジーンズとジャージ。澪は白のシャツを着ていたから、水で濡れて透けてしまっていたのだ。


「!? エッチ」

「違うぞ!?」


 澪が胸元を隠し、顔を真っ赤にしながら出した言葉に、一騎は心外だとばかりに声を上げてジャーキーを連れて浴室から出た。彼は頭を左右に振って、目撃した光景を忘れよとする。澪が着用していた薄い水色の下着を。

 一騎はタオルを使って大雑把にジャーキーの水気を取ると、梓に事情を説明して澪の着替えを用意してもらう。その後ジャーキーを708号室、つまり創太の号室の脱衣所に連れていきドライヤーでしっかりと乾かした。




『定時連絡、明石二等陸尉へ。賀古市の狭間二等陸佐から連絡がありました』

「明石だ。内容を聞かせてくれ」

『はい。狭間二等陸佐が73式装甲車十台、74式戦車十五台、10式戦車七台を有栖総合病院の護衛に回すと。それと、簡易式組立バリケード三十メートル分を二つ、送ってくれるそうです。到着予定時間は一時間半後とのこと』

「了解した。狭間二等陸佐に感謝を伝えてくれ」

『了解です。それと伝言ですが、『どこから持ってきたかなんて、野暮な質問はなしだ』とのことです』

「……一番したい質問だったが。まぁ、了解した」


 一騎の澪の下着を目撃してしまった件から、四十分後のこと。707号室では一騎たちが、有栖総合病院に残り、ゾンビ警戒中の自衛隊員からの定時連絡を受けていた。

 会話のやり取りは、一騎たち学生組とジャーキー、中村たちと石田の警官組、そして明石と行動をしている自衛官数名。明石が連絡終了を告げたのを見て、石田が最初に口を開いた。


「賀古市はかなりの戦力を有していたのだな」


 石田の開口一番の言葉がこれである。まぁ、石田以外の面々も同じことを思っているのだが。


「いいえ。73式装甲車と74式戦車はありましたが、74式戦車は七台しか有していませんでした」

「なら残りの八台はどこから?」

「わかりません」

「明石さん、10式戦車は賀古市にあったんでんすか?」

「違う。10式戦車の専門整備の研修を受けた車両科の隊員が賀古市にいる。その人物当てに他の基地から、整備点検をして欲しいと一時的に送られてきただけだ。ゾンビ発生前日に」

「送ってきた基地は無事なんですか?」

「ゾンビ発生時の段階で無線連絡を入れた時には、既に絶望的な状態だった。無線越しに悲鳴と絶叫、ゾンビの唸り声もはっきりと聞こえたほどだ。

 連絡を取り合っていた隊員も、数分後には悲鳴を上げてこの基地は終わりだ、とだけ言って通信を切ったな」


 明石の説明を聞いて、発生前日に送られてきたのが幸いだったのか、不幸だったのかの判断が難しくなる。学生組も警官組も、戦力確保が出来たと喜ぶべきか、彼らの同僚が死亡したことを嘆くべきか困惑。


「明石、全10式戦車の整備点検は終わっているんだな?」

「いいや。送られてきたのは十台だ。だから、残りの三台は現在進行形で対応している最中だろう」


 誰もが沈黙していた中で、盛岡だけは確認するべきことを聞いた。


「さて、予定通りなら一時間半後には有栖総合病院前にかなりの戦力が到着する。俺たちは戻るが、武藤くんたちや盛岡たちはどうする?」


 3Dプリンター製の銃は既に組み上がり、もう渡すだけの段階だ。弾であるパチンコ玉は必要最低限のみの提供。一騎たちだって、無制限に提供することなど無理。

 一応、パチンコ玉は一時的な補充が終わっているが、それだって数には限度がある。また、有栖総合病院に戻っても自動迎撃システムを提供する程度しか、やることがないのも現状。

 だが、一騎には把握しておきたいことがある。送られてきた装甲車と戦車の燃料をどう確保するのか。これが当面の問題であり課題にもなるだろうから。


「行きましょう。今後を考えて戦力となるかどうか、バリケードとして使えるかどうか。燃料の確保に、物資が本格的に集まってきたことで、どこからか「寄越せ」とか「俺たちを守れ」とかって言ってくるような(やから)も出てくるでしょうから」


 一騎の言葉に学生組は同意。もしも、応援というか増援(?)の隊員たちが一方的に接収しようとする場合も十分に考えられる。

 だからこそ、今まで行動を起こして自分たちを守ってきた彼の判断を指示したのだろう。


「わかった。鳥越班はここの警備を。中村班は武藤くんたちと一緒に有栖総合病院へ」

「「了解」」

「石田さんは?」


 班長の二人が代表して返事。中村は石田がどう動くのかの確認を行った。


「武藤くんたちに負担が掛からないよう、パチスロやゲームセンターのコイン集めを行うよう指示を出す。コインが武器になるかは怪しいが、ないよりもマシなはずだ」

「頼みます」

「うむ。某ゾンビ映画作品でも、女主人公がコインをショットガンの弾に使っていたから、悪くないのだよ。火薬量を増やせば、パチンコ玉を使うよりも多く殺せる。ふははははははははははは! 楽しみなのだよ!!!!!!!!」

「ワウーン」


 石田の言葉に一騎が頭を下げ、創太の方は危険な方向に思考が向かい始める。それを見たジャーキーが「頭、大丈夫?」と言わんばかりの雰囲気。


「一騎くん、どうするの?」

「どう、とは?」

「ジャーキー」

「あー、うん、そうだな。どうするか」


 澪がジャーキーを見て一騎へと視線を向けた。その直後に、ポッと顔を赤くして彼女はすぐに視線を外す。濡れたシャツ越しに下着を見られた恥ずかしさを思い出したようだ。

 彼もそんな澪の反応を見て、少し顔を赤くして気まずげに視線を外して考える。ジャーキーを連れていくかどうか。


「数日ぶりの再会であれだもんな。連れてくか」

「それがいいんじゃないかしら? 病院に避難している人の中には子供もいたし、感染していない動物と触れ合える機会なんて珍しいから」


 梓からの非常にまともな提案を受けて、一騎と澪はジャーキーを連れていくことにした。一ケース、パチンコ玉2000個入りのケースを四ケースとドッグフード、久しぶりの登場である弓矢と警棒をラルゴに積んで彼らは出発。もちろんドローンも。

 彼らが有栖総合病院に戻って受け入れ準備を整えてから、その二十分後に予定より早く増援が到着。事情を聞いて知っていたはずの一騎たちや自衛隊員、自衛官も驚きを隠せなかった。

 市街地での戦闘か内紛を制圧するかのように装甲車と戦車がまとまった数で移動してくれば当然だが。避難民たちはあまりの光景に絶句。


 ただ、それでも自衛隊を迎え入れて、点検整備や簡単な確認作業や書類作成を進んで行ったのは、実にいいこと。その実態は一騎による「働かざる者、食うべからず」が主な理由であるのは、言った本人に気付かれないようにと配慮していたようだが。

誤字脱字報告、ありがとうございます。

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