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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
32/54

31.再会と関係


 先行したコブラの下を三台の車が走っている。それぞれの車から音が出ているのだが、明石の乗るオスプレイのローター音が大きくてなにも聞こえない。

 七千五百から、八千近くのゾンビが三台の車をゆっくりながらも追いかけ続けるのを窓から下の様子を見ることで明石は認識していた。


『こちらコブラワン、松平。明石、聞こえるか?』

「明石だ。どうした?」

『地上でゾンビ共を攻撃している連中の中に、盛岡が混じっているぞ』

「盛岡が!? なんでゾンビ共と!? っとすまん」

『俺たちが見捨てることにした有栖総合病院に、水と食料を届けに来ているようだ』

「そうだったのか」


 明石は突然繋がれてきた、松平からの連絡に少しだけ驚いた。だが、いきなり教えられた情報は驚くものだ。そのせいで大きな声を上げてしまい、同僚たちから「静かにしろ」と無言の威圧。

 彼は謝罪してから、盛岡に関してのことを鮮明に思い出す。なにせ自衛隊入りした時の同僚の中でも、ずば抜けて不思議な奴だったから。

 明石が知る限り、自衛隊に入った理由が国や国民のためではなく、戦車やヘリ、戦闘ヘリに野戦病院のような場所における医療技術を学ぶためだけに入った人間。


 明石も詳しいことを知らないが、実際に戦車や戦闘ヘリ、戦闘機の運転と操縦を学んでしまった。医療技術もある程度まで吸収すると、あっさりと自衛隊を辞めた不思議な人物でしかない。


「松平、盛岡たちはどこに向かおうとしているんだ?」

『コブラでゾンビ共を全滅させることができる場所まで誘導するんだとよ』

「そんな場所、この近辺にあるのか?」

『見てりゃわかるだろうよ』


 明石はパイロットに頼んで、軽く旋回してもらう。コブラのミサイルや機銃が撃たれれば、ほとんどの道路や建物は使い物にならなくなる。

 それに、あれだけの数のゾンビを一度に片付けるとなると、どうしたって広い場所が必要だ。盛岡がどこにゾンビを誘導しようとしているのか。

 明石が上空から答えを見つけ出そうとした直後、急に二機のコブラが高度を下げていく。それと同時に三台の車が、速度を上げてゾンビたちから離れ出した。


 ――バシュバシューーーーーー!!

 ――ドゴーーーーーーーン!!


 明石がコブラのミサイルが向かった場所を見ると、そこはかなりの広さがある大通り。個人所有の小型ジェットなら、問題なく離着陸が可能なほどの道路幅。

 そこに大量のゾンビが広がり、コブラのエンジン音がする方向目指して移動している。そこにミサイルが撃ち込まれたのだ。


 ――ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!

 ――ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!


 ミサイルを撃ちきった訳でもないのに、今度は機銃掃射で地上のゾンビを薙ぎ払っていく。その理由をすぐに明石は理解した。ミサイルの爆発によって、砂塵が巻き起こったのだと。

 そんな状態で追加のミサイルを撃っても、命中せずにムダになってしまうことに。


『機長だ。コラブがロケット弾を全部使ったら高度を思い切り下げる。命綱をしっかりと身体に繋げて、荷物の投下準備。十分な高度まで下がったらハッチを開けるから、感染者にプレゼントを贈ってやれ』


 オスプレイのパイロットからの連絡を受けた途端、明石たち十五人は一斉に行動を開始する。ローター音で聞こえないから、無線を使った指示だ。命綱を専用フックに引っ掛けて、自分たちの安全を確保する。

 そして二十箱用意されていた木箱を一つずつ開けて、その中身を取り出していく。機長の言っていたプレゼントとは、木箱一箱に大量に詰められた手榴弾だった。


「おい見ろ! ロケット弾の乱れ撃ちが始まるぞ!」


 同僚の声を聞いた明石たちは、窓辺へとさっと駆け寄る。そして、見下ろすようにしてコブラを見つけた瞬間に攻撃が始まった。


 ――バシュバシュバシュバシュバシュバシュ!

 ――ヒューーーーーーーーーーーーーーーン!

 ――ドガドガドガドガドガドゴドゴドゴドゴ!


 一拍してからコブラツーが、コブラワンと挟み撃ちするようにしてロケット弾を発射する。


 ――バシュバシュバシュバシュバシュバシュ!

 ――ヒューーーーーーーーーーーーーーーン!

 ――ドガドガドガドガドガドゴドゴドゴドゴ!


 土煙が本格的にコブラの風によって巻き上げられる寸前、おびただしい量の血とゾンビの死体があった。それでも、ゾンビ二千体は残っている。次の瞬間、グングンと高度が下がり始めた。


「プレゼント投下準備だ!」

「こっちにも絶叫野郎がいるかもしれない! 射撃班、用意しろ!!」

「絶叫を見つけたら、すぐに射殺しろ! 最優先だぞ!!」


 明石は同僚に向かって準備を促し、これに応えるようにして他の三等陸尉からも指示が出る。明石はHK417を付属の固定紐を使い、両手を放しても落下しないようにした。


『地上二メートルまでカウント十!』


 九、八、七と機長のカウントダウンが始まる。


「プレゼント投下用意! ハッチが開いたら、各自のタイミングでピンを外して放り出せ! ちゃんとハッチのところでだぞ!! 爆発の衝撃があるだろうが、間違ってもピン抜きしたプレゼントを機内に落とさないようにな!!!」

「「「「「「了解!!!」」」」」」


 明石の指示に一斉に返事があったタイミングで、ハッチが開き始める。全員が身体をハッチの内側ギリギリまで詰めて、彼を含めた射撃担当五人がそれぞれの銃を構える。

 HK417、MP7、89式と三種類バリエーションありで。明石が下に視線を向けると、ゾンビたちが顔を上に向けて、手を伸ばしてきていた。届きもしないのに。


「ゥゥゥウウウウウ」

「ァァァァアアアア」

「ォォォォォオオオ」

「ギィィャァァアアア」

「ヌゥワァァアアアオ」


 ゾンビの唸り声と、慣れたつもりでいた強烈な腐敗臭が地上から届く。ローター音がしているのに、ゾンビが発する唸り声は、かなりしっかりと明石たちに聞こえる。


「投下開始! 射撃班は絶叫野郎とランニング野郎を探して、見つけ次第、即射殺せよ!! 少しずつ前進開始してください」


 明石は同僚や一時的な部下扱いの彼らに指示を出して、無線を操縦席へと繋ぎ、要望を出した。ホバリング可能だが、動きながら手榴弾を投下した方が、ゾンビを効率よく殺すことができるため。

 ホバリングから前進に変わったと同時に、次々とプレゼントこと手榴弾がピン抜きされて下のゾンビたちへと落とされていく。


 ――ドガドガドガドガドガドガーーーーーーン!!


 投下された手榴弾が次々と爆発していき、血の花を咲かせていく。


「ギュァァァァァア゛ア゛ア゛ア゛!!」

「グゥゥゥウウウオ゛オ゛オ゛オ゛!!」

「ギャァァァァァア゛ア゛ア゛オ゛!!」

「ランニング野郎、発見!」

「セーフティー解除、撃ち方、始め!!!」


 ――ダダダダダダダダダダダダダダ!

 ――ドドドドドドドドドドドドドド!

 ――ババババババババババババババ!


 三等陸尉がランニング野郎、つまりRZ一体を発見したと同時に明石や他の射撃班も別々にRZを見つけていた。そして、全く同じタイミングでそれぞれ銃声が響く。

 彼らが見つけたRZは全部で七十二体。走ってくるもの、今まさに走り出そうとしている個体などだ。明石たちはドットサイトで頭部を確実に狙っての発砲。

 まっすぐ向かって走ってくるだけのRZだが、数が多くWZの場所によっては狙いにくいこともある。それでも確実に発砲して頭部を撃つ。


『二号機がプレゼント投下を開始する。上昇するぞ!』


 機長からの無線連絡が届き、ハッチが閉まり出す。手榴弾係は、連絡があった時点でピン抜きを中止して箱が落ちないように手や足で固定。

 徐々に高度が上がっていくのを感じながら、水平になったタイミングで全員が席に戻る。席といっても、ソファーなどではなく、ただ座れるだけの場所だが。


 ――ドガドガドガドガドガドガーーーーーーン!!


 明石は自分たちが座ったと同時に聞こえてきた、手榴弾の爆発音に二号機からのプレゼント攻撃が始まったのを認識する。二十分間ほどの作戦行動で、有栖総合病院の外に集まっていたゾンビは全滅となった。





 コブラのミサイル、ロケット弾による掃討と、無事だったゾンビに対するオスプレイからの手榴弾の雨と実弾射撃によって有栖総合病院に殺到していたゾンビが全滅してからすぐのこと。彼らはすぐにオスプレイを着陸させて降りていた。


「盛岡!」

「明石!?」

「盛岡ーーー! 歯、食いしばれやーーーーー!!」

「ぐふぇ! いきなり何するんだ!」


 一騎たちは通行不能になった大通りではなく、別ルートを使って有栖総合病院に到着。全員が降りたところで、盛岡と彼が明石と呼んだ人物によるやり取りが始まったのだ。

 シャッターを開けて出てきた病院の医師と看護師も大勢いる中での、二人の再会を喜び合う(?)行動に視線が集まる。


「いきなり自衛隊を辞めやがって! 今までなにやっていたんだ!!」

「お前こそ再会早々に、全力で殴ってくるのはどういう了見だ! この野郎、そい!」

「ぶふぇ!」


 殴られた盛岡が、お返しとばかりに見事な右ストレートをかますのを、一騎たちは元気だなぁと見守るだけ。


「俺がなにやってたかだって? 見りゃわかんだろ。ゾンビ共を相手にしていたんだ」

「それは見ればわかる! 俺が聞きたいのは、自衛隊を辞めてからのことだ!!」

「パトカーと白バイ乗りたくて警官やってた。以上」

「バカにしてんのか!?」

「うるせぇ!!」


 二人のやり取りかして、親密な関係なんだろう。それだけを理解した一騎は、どうしようかと固まっている澪や創太、梓に鳥越班と北見班に視線を移す。


「北見さん、水と食料の運び込みを」

「あれ、放っておくのか?」

「放置しましょう。オレたちは病院を今後の拠点にできるかどうかを見極めるついでに、水と食料の提供をするだけですから」

「そうだな。よし、運び込むぞ」

「「「了解」」」

「盛岡、無事だったんなら連絡の一つでも寄越せよ!」

「連絡する程の余裕があると思うなよ! こっちは生き残るだけで大変だったんだからな」

「あっ? 俺らだってな、噛まれていない、食われていない民間人の保護しながら――――」


 一騎たち以外が「これどうする? 止める?」と相談している。他の自衛官たちも、どう対応しようかと考えている。


「初めまして、武藤です。とりあえず二人のことは放置で聞いておきたいのですが」

「あ、あぁ。なんだい?」

「あなた方も水と食料を運んできましたか?」

「あまり多くは提供できないが、病院にいる全員が満腹になれる一食分なら」

「さっさと運びましょう。オレたちは有栖総合病院(ここ)を今後の活動拠点にできるかの見極めと、水と食料を運んできたので」

「そうだったのか。よし、病院内に運び込むぞ」


 一騎に突然話し掛けられた自衛官は、かなり驚いていた様子だったが、盛岡と明石の二人の再会を見ているよりは重要と判断して行動を開始した。


「一騎くん、止める?」

「放っておこう。それよりも、病院の人間と話し合いたい」

「賛成」


 一騎はラルゴに戻ったところで澪にどうするかを聞かれ、実に単純な答えを出した。一騎は鳥越に同行を頼んで、盛岡たちをスルーし病院の医師に話し掛ける。


「あの二人は放っておいて、今後のことを話し合いませんか?」

「そう、だな。とりあえず会議室へ行こう。どんな話があるのかわからないけど、院長も同席した方がいいだろ?」

「えぇ。呼んでいただけると助かります」

「わかった。それじゃ行こうか」

「水と食料を持ってきたんですが、どこへ運べばいいでしょうか?」

「ありがとうございます。ご案内します」


 一騎たちと鳥越班は、医師に案内されて会議室へ。北見班は看護師に運んできた物をどこへ持っていくのかを聞いて、案内を受けて移動開始。

 その北見班の後に続くようにして、自衛官たちも自分たちが持ってきた物を運び出した。


「大体な盛岡、お前は――――」

「お前は俺の母親かよ」


 彼らの背後で未だ続く二人の再会だが、ほぼ全員がスルー状態だ。自衛官たちは荷物運び以外の面々が銃を手にし、音によって、どこからかゾンビが来ないかの警戒を始める。



「水と食料、ありがとうな!」

「あんたたち、強いのね〜」

「俺も銃が欲しいぜ」

「バカか。お前、腕骨折してるから、今は使えないだろう」

「んだとぉ!」

「落ち着けよ」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、来てくれてありがと〜」

「おい、あの三人めっちゃ可愛いんだが」

「俺の好みストレートだ。口説けたら、今夜早速ベッドにでも連れ込む! ぐっ! こ、怖ぇ。あの少年はヤバそう」

「お前、本当に最低だな」

「どう見ても付き合ってそうな二人もいるぞ」


 医師に案内されて、会議室へと向かう一騎たちを病院に避難した人々がそれぞれの言葉で出迎えた。二十代前半の男性が、澪、梓、三笠の三人に下心丸出しの視線。

 特に澪が全身を舐められるように見られていたのだが、一騎がTARー21改のセーフティーを解除して殺気を放ったことで男はガクガクブルブルと震え出した。

 それはともかくとして、今のところ好意的な感じで迎えられているのは一騎たちにとって重要である。そのまま彼らが案内されたのは、入院患者や救急搬送された患者の家族が手術に関する説明を受ける場所。


「こちらで少しお待ちを。院長先生を呼んで参りますので」


 案内してきた医師はすぐに退出し、入れ替わるようにして数人の看護師が入ってきた。全員女性であり、彼女たちの手には自衛隊が提供としたと思われるコーヒーゼリーが。

 適当に座った一騎たちの前に、人数分のコーヒーゼリーとプラスチックのスプーンを置くと彼女たちは水と食料を運んできたことに関して礼を述べて会議室から出ていく。


「自衛隊が上空から攻撃してくれなかったら、撤退するしかなかったな」

「えぇ。後藤院長には感謝ですね」

「盛岡にもな。自衛隊基地への連絡を院長に要請しようとしてくれたから」

「そうですね」


 有栖総合病院の敷地にいたゾンビを全滅させることができたせいか、今頃になって彼らは強烈な疲労感に包まれる。


「失礼しますよ」


 一騎の肩に頭を預け、澪が目を閉じて眠った直後に三人が姿を見せる。一人は盛岡、もう一人は外で盛岡とケンカじみた再会をしていた明石、そして見たこともない中年男性。


「初めまして。有栖総合病院の院長、後藤だ。今回は水と食料、そしてゾンビを掃討してくれて感謝する」


 盛岡と明石が席に着いたとろろで、後藤は感謝を示すように頭を下げた。特に外見的特徴がない人物だが、本当に医者かと思わせる程の鋭い視線が自己主張をしているくらい。

 後藤に鋭い視線を向けられて、無言で自己紹介を促された明石が音を出さずに立ち上がる。


「賀古市の自衛隊基地、陸上自衛隊所属、明石二等陸尉です。盛岡とは元同期であり、有栖総合病院に常駐する予定になっています」


 明石がそう名乗って、盛岡に視線を向けるが彼は鳥越に対応を丸投げ。だが、その鳥越はこの場の対応を一騎に任せようとしていた。

 彼は澪をそっと揺すり起こすと、仕方なく立ち上がって後から入ってきた他の自衛官や医師たちの視線を浴びながら自己紹介。


「武藤です。上戸森にあるマンションを生活、活動拠点としています」

「ありがとう。さて、早速だが本題に入ろう。まず最初に聞きたい。自衛隊は今後、我々とどういう関係を築くつもりかな?」


 一騎の非常に簡単な自己紹介が終わると、後藤がその鋭い視線を明石へと向けて質問した。


「今回、病院に集まっていたゾンビを全滅させることが出来たので、しばらく常駐して不便な点や必要なものがあればそれを手配する役目を担います」

「輸送機を飛ばしたりするほどの燃料は、節約する方針じゃなかったのかな?」

「それはゾンビを全滅させることが出来なかった場合です。今回は民間人が先に行動を起こして、ゾンビの数を減らし広い場所に誘い出してくれたので掃討が完了しました。

 また、上からの指示で通常通りに治療が出来るならば、可能な限り協力するようにと指示を受けています」

「薬やリネンなどを含めた医療品、医療器具、水と食料に発電機を動かすのに必要な燃料もか?」

「そうです。もしゾンビが再び集まってきたとしても、数は多くないでしょうから殺して安全確保を行います」

「わかった。そういう事なら頼りにさせてもらおう」


 明石から満足の行く答えが得られたらしい後藤は、視線を一騎たちへと向ける。


「さて、君たちはどうかな?」


 後藤はあくまでも全員を見たが、質問をした相手は一騎だった。澪たちや鳥越たちが名乗らなかったことから、彼がリーダー的な存在だと判断したのだろう。


「オレたちは有栖総合病院(ここ)を拠点の一つとしたいです。そのために継続的な水と食料、自己発電力の提供は行います。その見返りとして、急病や大ケガをした時などに優先的に治療をしてもらいたい」

「なるほど。どうして拠点としたいのか。聞いたら答えてもらえるだろうか?」

「来栖野大学病院に向かうために」

「ほう」


 一騎の答えを聞き、後藤は面白そうだと言わんばかりの雰囲気になる。対して周囲の自衛官や医師たちは、年齢の割にしっかりとした一騎に驚いていた。


「どうして来栖野大学病院へ?」

「ゾンビに噛まれたり、食べられたりした時に感染しないようにする坑ウイルス薬が必要なのです」


 ここで一騎は小野から聞かされた情報を開示した。その上で、繰り返しになるが有栖総合病院を拠点としたいと告げた。ただし無理強いはしない。

 また、避難民たちが武器を寄越せと言ってきたり、澪たちに害を成そうとするなら、あるいは害を成したならその時点で一切の協力を拒否。一方的な協力要請をするだけだとも付け加えて。


「…………わかった。ここを拠点として使ってもらって構わない」


 院長はしばらく考えていたようだが、それでも一騎たちと協力することを決めた。今まで民間人でありながら、警官と良好な関係を築き続けている一騎たちを信用して。

 自衛隊の方から一騎たちに協力要請があった。発砲音がエアガン程度の3Dプリンター製の銃と弾となるパチンコ玉を提供してほしいと。


「それで?」

「え?」

「それは協力関係とは言いません。一方的な要求です。協力に対する見返りは?」

「ゾンビから君たちの安全を確保する」

「有栖総合病院に対する物資提供を一時的にストップしたのに?」

「それはやむを得ないことだ」

「なるほど。対応しきれないゾンビが殺到してきたら、そう言ってオレたちを切り捨てる、と」


 あまりにもはっきりとした一騎の言い方に、明石たち自衛隊のみならず医師たちも驚いた。


「オレたちが自衛隊に求めるのは、永続的な安全確保。それと今後行う行動への積極的な助力。自衛隊内で出た指令、命令の情報開示、でしょうか」

「自衛隊に課せられた作戦を、民間人相手に話すことはできない」

「あなた方の都合でこっちが切り捨てられる状況は避けたいんですよ」

「一方的利用、窮地自己撤退、見殺しお断り」


 今まで一騎にのみ会話を任せていた澪たち。ここで澪は一騎が危惧している内容を口にした。


「えーっと?」

「一方的にオレたちを利用し、窮地になったら自分たちだけで逃げ、こちらを見殺しにするのはお断り。そういうことですよ」

「そんなことはしない!」

「大人はそう言う」

「よく言うでしょう。大人の事情って。そんなものに振り回されたくないんですよ」

「盛岡の同期として確約する。絶対に君らを見捨てたり、切り捨てたりしない」

「口先だけ」

「ちょっと待て。俺ってそんなに信用ないのか!?」

「静かに。答えは?」

「ほ、本当に我々自衛隊は君たちを見限ったりしない」

「言葉だけでは信用できません」

「だから! 俺ってそんなに信用できないのか!?」

「どうしますか?」

「ぬぐぐぐぐぐ。わ、わかった」

「明石さん!?」

「二等陸尉!?」

「いいんですか!?」


 明石の決定に自衛官たちは、かなり焦った。明石は同僚や部下に対して、責任は持つと断言。流石に彼らも沈黙。


「では、後藤院長と明石さん。良好な協力関係を構築しましょう」


 最後に一騎がこう言ったことで、話は終了となった。この後、一騎は後藤院長に妊婦の受け入れを頼み、了承してもらえた。

 小野に連絡を入れて、陣痛が始まる前に妊婦を移せて一騎たちも医師たちもホッと安心した。

盛岡と新キャラの再会でした。

タイトルの関係は二人ではなく、一騎たちと病院、自衛隊とのことです。

今後、作者の都合により更新間隔が開いてしまうことがありますが、それでも作品にお付き合いください。

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