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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
28/54

27.下準備(2)


 創太たちが四階へ到着すると、そこでは三階以上の腐敗臭と五十体ものゾンビがいた。たった状態で身体を揺らしながら、五階へのエスカレーター周辺や、炊飯器と冷蔵庫のコーナーで立ち尽くしている。

 そして床にはゾンビたちによって白骨状態にまで食べられた死体や、中途半端に食べ残されたことが原因で大量のハエが死体に張り付いてもいたり。炊飯器で頭を殴打された死体も少なからず存在している。


「火炎瓶を使えば、あっという間に処分できるんだけどな」

「中村、火炎瓶を使うとしても僕たちが浄水器を入手するまで禁止なのだよ」

「わかっているとも。 ただな、これだけのゾンビと死体、そしてハエを見るとな」


 中村の言葉に、班員たちも頷く。創太はそれを横目で見ながら、彼らを促す。


「さっさと浄水器を入手して、マンションに帰るのだよ」

「有栖総合病院を拠点にした場合、浄水器は絶対に必要になるからな」

「拠点として使う前に必要な物を集める。 下準備って本当に重要な役割ですよね」

「そうだな」

「ほら、さっさと行くのだよ。 頭部が無傷な死体には注意するのだよ。 音を立てた瞬間にゾンビとして起き上がる危険性もある」

「了解」


 創太と中村班の一人は炊飯器コーナー、中村と残り二人は冷蔵庫コーナーへ。


 ――ガシュン、ガシュン、ガシュン、ガシュン


 移動中に頭部が無事な死体を見つけると、創太はその頭を撃っていく。ゾンビとして起き上がってこないようにと。


「準備は?」

「いつでも」


 創太は一時的な相棒役となった中村班の一人に確認し、いつでも大丈夫という返事を聞く。


「僕はここのゾンビを撃つのだよ。 そっちの通路の方を担当するのだよ」

「ィィィアアア」

「ゥゥゥウウウ」

「ァァァアアア」

「ギィィィイイ」

「グルゥ、ゥウウウ」

「ァァァガアアア」


 創太の指示に班員は隣の通路へと入る。お互いの顔が見える位置で二人は同時に頷く。


 ――ガシュン、ガシュシュシュシュン、ガシュシュシュシュシュシュン!!

 ――ガシュ、ガシュシュシュシュシュ、ガシュシュシュシュシュシュ!!


 創太のXM8改と班員のG36改から、全く同時にパチンコ玉が放たれる。飛んでいくパチンコ玉は、二人が立つ通路にいるWZの頭に次々と飛び込んでいく。


 ――ドタン!!

 ――バゴン!!


「ギィィイ゛イ゛イ゛」

「ヴァァア゛ア゛ア゛」

「ガァァア゛ア゛ア゛」

「ァァァヴァア゛ア゛ア゛」

「ォォォォオ゛オ゛オ゛ガ」


 創太と班員射殺したのは、一体も商品にぶつからなかった。だが、中村の方では班員二人人が射殺したWZ十八体のうち、二体が展示されていた射殺されたと同時に後ろ向きに倒れて冷蔵庫にぶつかったのだ。

 その音が以外と大きかったせいか、エスカレーター側のゾンビとバックヤードからゾンビが出てくる。


「すみません」

「注意して撃て」

「僕らはバックヤードから出てきたのを撃つのだよ」

「了解。 中村さん、エスカレーター側をお願いしてもいいでしょうか?」

「任せろ」

「グゥゥゥアアアア」

「ァァァァアアア」

「ゥゥゥゥウウウ」

「ギィィイイイ」

「ギュラァァァアア」


 ――ガシュシュン、ガシュシュシュシュシュ、ガシュシュシュシュシュン!!

 ――ガシュ、ガシュシュ、ガシュシュシュシュ!!

 ――パシュシュシュ、パシュシュ、パシュシュシュ!!

 ――バシュ、バシュシュシュ、バシュシュシュシュシュ!!

 ――カシュシュ、カシュシュシュシュ、カシュシュシュシュシュシュ!!


 バックヤードから次々と出てくるゾンビを前に後退することなく、創太と中村班の班員一人は首から上を狙って撃っていく。

 二人が背中を向けているエスカレーター側では、中村たちがハエを全身に(たか)らせたWZ九体を優先して射殺。床に倒れたゾンビたちから、一斉にハエが放れる。


「最悪な光景だな」

「大量のハエだから、羽音がブンブンとうるさいし」

「五階とか六階のゾンビって、どれだけいるんだろうな」

「知るかよ」


 中村たちはエスカレーター周辺のWZを全て射殺完了。三人が創太の方へと振り向くと、加勢した方がいいのは明らかだった。


「リロードしろ。 終わったら援護開始だ」

「「了解」」


 一体、バックヤードにどれだけのゾンビが潜んでいたのか。創太一人だけで三十四体を射殺している。それなのに、まだまだ出てくるのだ。

 彼の隣で撃つ中村班の班員も二十九体を射殺したが、それでもまだまだWZはバックヤードへの出入り口から顔を見せ続けている。


「援護する」

「手伝うぜ」

「今のうちにリロード」


 中村たちが援護に入るが、創太は射殺続行。彼らが援護に入る直前に、急ぎでリロードしていたのだ。


 ――ガシュシュシュン、ガシュシュシュシュシュン!!


 バックヤードのゾンビが出なくなったのは、全部で八十二体を射殺してからだ。創太たちは慎重に歩き、バックヤードにゾンビが残っていないのを確認して、五分だけの小休止を挟んだ。


「五階はこれよりも、数が多いかもしれないな」

「マガジン足りるか、なんだか不安になってきましたよ」

「浄水器のタイプにもよるが、フィルタータイプなら予備を調達するためにバックヤードに入るしかないのだよ」

「今のと同じ数だけの相手は嫌だぜ」

「嫌でもなんでも、やるしかないのだよ」


 彼らはポカリを飲んで水分補給を行い、残りのマガジンとパチンコ玉を確認すると、音もなく立ち上がる。無言で頷き合うと、創太ともう一人がエスカレーターへ。

 中村と残り二人は階段へと戻り、同時に五階へ。中村たちが階段のゾンビを射殺するのを待ってから、創太はエスカレーターを完全に上がった。


「……戻るのだよ」

「下がれ、早く下がれ」


 創太と中村は自分たちの後ろにいる相手に言った。五階にはWZのみで、一切死体がない。その代わり、五階にいるWZは彼らが一瞬で中止を考えるほどの数だった。


「中村、どうするのだよ」

『浄水器確保には、全WZを射殺するしかない』

「僕が見渡した感じで、百体はいたのだよ」

『俺の判断と百二十体はいたな』

「あれに加えて、バックヤードにもいるはずなのだよ」

『五人が一ヶ所に固まって、背中合わせで互いが無事かを確認しながら射殺するしかない』

「エスカレーターを上がって合流なのだよ」

『了解』


 創太の要請というか指示(?)を受けて、中村たちは数分後にエスカレーターを上がってきた。


「とりあえずエスカレーター周辺のゾンビだけでも、先に僕が上がって射殺するのだよ」

「俺も行こう」

「わかったのだよ」

「お前たち、俺と葉加瀬くんが周辺のを殺したら手招きするから上がってこい」

「「「了解」」」


 創太と中村は互いに頷き合うと、エスカレーターを完全に上がりきった。


「ゥゥゥウウウ」

「ァァァアアア」

「ギィィイイイ」

「グガァァアア」


 タタタタと駆け上がった音を聞いた、エスカレーター近くのWZが一斉に手を伸ばしてゆっくりと歩き出す。


 ――ガシュン、ガシュシュシュシュン!

 ――パシュ、パシュシュ、パシュシュシュシュ!


 二人に接近していたWZ九体が、倒れる。その時、周囲にいた密集状態のゾンビも巻き込んで。ゾンビの唸り声で発砲音はほとんど聞こえていない。

 それなのに何体かは銃声を聞き付け、二人へと手を伸ばして身体をユラユラと動かしながら迫る。


 ――ガシュシュシュシュン!


 接近しようとしたWZは創太の銃撃で頭を撃ち抜かれ、膝から崩れ落ちるように倒れ伏す。


「背中合わせだ。 リロードする時は、屈んで行え」


 中村班がエスカレーターを上がり、班長である中村の指示に従う。一人だけ人数が余るが、残りの一人は四人の中央部分にいてリロードのために空いた穴を埋める役割。


「行くのだよ」


 創太たちは前後左右それぞれに銃口を向けて、タイミングを遅らせて発砲を開始する。


 ――ガシュシュシュン、ガシュシュシュシュシュン!

 ――カシュシュ、カシュシュシュ、カシュシュシュ!

 ――パシュ、パシュシュシュ、パシュシュシュシュ!

 ――バシュシュ、バシュシュシュ、バシュシュシュ!

 ――トシュ、トシュシュシュ、トシュシュシュシュ!


 それぞれの正面に現れるWZは、先に死んだWZの死体を踏み越えながら五人を食べるべく進む。あまりにもゾンビの数が多いせいで、窓の外から差し込む光が弱い。

 それでも彼らはLEDライトの明るさで、正確に首から上を狙って発砲を続ける。


 ――ガシュシュン、ガシュン、ガシュシュシュン!

 ――カシュシュ、カシュ、カシュシュ、カシュ!

 ――パシュ、パシュシュ、パシュ、パシュシュシュ!


「リロードなのだよ」


 撃っても撃っても、どんどん死体を乗り越えてくるWZに一マガジンを使いきった創太。素早く屈んで、リロードを開始。創太がリロードを終わらせるまでの間、中心にいた中村班の一人が迫るWZにパチンコ玉を撃ち込んでいく。


「完了なのだよ」


 二十秒ほどでリロードを終えた創太は、声を掛けて自分の頭上からパチンコ玉を放出していたHK416改が引っ込むのを待つ。引っ込んだのを確認すると、彼はすぐにドットサイトを覗きながら、接近してくるゾンビを射殺する。

 射殺、リロード、射殺、リロード、射殺、リロードがに往復したところで、視界に入る動くゾンビはゼロに。ゾンビという日差しを遮る存在がいなくなり、あっという間に明るく。彼らはそれを確認すると、バックヤードへと向かう。


「僕が開ける。 出てきたら、すぐに射殺するのだよ」


 創太がバックヤードへのドアを開けると、そこには五十体前後のWZが。


「ァァァガアアア」

「ゥゥゥグウウウ」

「ォォォォオオオ」

「グギィィィイイ」


 中村もその姿を確認すると、ハンドサインで射殺を指示する。


 ――カシュシュ、カシュシュシュ、カシュシュシュ!

 ――パシュシュ、パシュ、パシュシュ、パシュシュ!

 ――バシュ、バシュシュシュ、バシュシュシュシュ!

 ――ガシュン、ガシュスシュシュン、ガシュシュン!

 ――トシュシュシュ、トシュシュ、トシュシュシュ!


 創太はバックヤードを完全に開けると、中村たちが発砲開始。創太自身も発砲開始するが、彼の狙いは自分たちに近い場所にいるゾンビが倒れた直後に顔を見せたWZだけ。

 五分も発砲が続けば、五十体前後のゾンビは完全に沈黙していた。中村は班員二人を連れて階段の扉へと向かい、扉の向こうにいたゾンビを射殺。

 創太は自分の目で安全確認を済ませる。動いているのは自分たちと死体に集まるハエだけ。それを把握すると、展示物とバックヤードの中から血が付着していない浄水器を探し出す。

 中村班三人が浄水器本体で、創太は交換フィルターを調達する。そして、中村本人は万が一にも六階からゾンビが降りてきた場合を想定し護衛として一騎と澪と合流するまで彼らを守るのだった。





 たちが無事に浄水器を確保して、一騎と澪、ジャーキーと合流していた頃。梓は赤城と鳥越班と一緒に、ショッピングモールセンターにパトカー二台で到着。

 大量のWZで溢れていた道路は、西ゲートの近くへ向かえば向かうほど、その数が減っていく。以前、梓が一騎たちと一緒に来て赤城たちと小野を救出した際、西ゲートを開放したままにしたのだ。

 西ゲートを開放し車で脱出。その際、ゲートを閉める作業をしないでおいた結果、ゲートの外にいた大量のゾンビが駐車場から中へと侵入を果たしていたのだ。


 あの脱出後、彼女らはセンター内に残っていた男連中がゾンビたちに美味しく全身を食われて骨だけになっているのを知らない。

 そもそも知ったところで意味はないのだが。彼女らの目的は食料などではなく、車の調達にある。


「ゲートが開いているのに、駐車場にゾンビの姿一体もないって不思議ね」

「本当にそう思うわ。 もしかして、ゾンビ御一行様はショッピングモールセンター内じゃないかしら?」

「そうかもしれないわね。 梓さん、あそこの窓」

「え? あらら」


 パトカーの車内で実にのんびりとした口調で話している二人。赤城の言葉に梓は頷き、ゾンビが一体も駐車場にいないことを嬉しく思っていた。

 なぜ嬉しいのか、目に見える危険はあるものの、自分たちとの距離が十分に開いているからだ。だから「ゾンビ御一行様」などと、気楽に言えるわけである。


「お二人さん、前方にはいないけど後方からはゾンビ来てるからな」

「わかってます。 それにしても私たちは運がいいわ」


 二人の乗るパトカーを運転していた盛岡が、まるで遊びに来ているような感覚の二人に注意を促すのは当然だ。


「運がいいか悪いかは、まだ結論を出すには早すぎる。 二人とも武装して降車」

「盛岡さんは?」

「降りるとも。 その前に入ってきたWZの掃除が先だ」


 盛岡に促された梓はマガジンベストと無線機を装着、3Dプリンター製のUZI改を持つと後部座席から降りる。赤城はマガジンベストの代わりにマガジンポーチを装備。

 3Dプリンター製のMP5改を持つと、梓に続くようにパトカーを降りた。


「ゥゥゥウウウ」

「ァァァア゛ア゛ア゛」

「グァァァアア」

「ギィィヤアア」


 梓たちが降車した直後、全開状態の西ゲートに入ったWZ十六体のうち四体が迫る。


「撃っちゃおうかしら?」

「盛岡さんたちが担当するでしょ。 私たちは自分の仕事を済ませるわよ」


 赤城に手を引っ張られながら梓は、彼女が言った「運がいい」の言葉を実感する。地上駐車場には五十台前後の様々な車があった。ただしほぼ全車、事故車扱いだが。

 梓たちの仕事は鳥越班の護衛を受けながら、エンジンが掛かりそうな車を選ぶことと燃料を取り出すことにある。


 ――カシュシュ、カシュ、カシュシュシュシュ!

 ――パシュ、パシュシュ、パシュシュシュシュ!


 梓たちがパトカーからすぐ近くに放置されているノートやクラウン、トールにタントにアクアなどへ。盛岡はパトカーのエンジンを切ると、自分以外の班員二人と協力して西ゲート内に入ってきたWZたちを射殺開始。


「梓さん、赤城さん」

「もしかして鳥越さんが護衛ですか?」

「そうです。 ゲート内に入ってきたゾンビは、盛岡たちが射殺します。 ショッピングモールセンターから出てきたゾンビは俺が担当なんですよ」


 梓と赤城がなるべく損傷が少なく、問題なく動けそうな車を探していると鳥越が護衛のために到着。梓たちは彼から注意点として、いきなり取っ手を引っ張らないようにと注意をする。


「どうしてですか?」

「買った人物が盗難対策のために、ロックを解除しないで取っ手を引っ張ると警報が鳴る防犯装置を取り付けていることがあります」

「……もしかして」

「迂闊に引っ張り、それが警報器と連動している車だった場合、かなりの音量で鳴り響くんですよ。 そうなると、センター内のゾンビたちがこちらに向かってきます」

「し、慎重に行動しないとね」

「そ、そうね。 注意を怠ったりしないわ」


 梓の言葉に赤城がブンブンと激しく頷いて同意。


「そ、それじゃ赤城さん、探しましょうか」

「えぇ。 注意しながらね」


 二人はパトカー近くの十台に近付き、外から様子を把握するべく全体をしっかり観察開始。


「このアクアは……ダメね」

「助手席とその真後ろの後部座席のドアが凹みすぎているものね」

「乗れないことはないけど、急いでる時や大人数は乗れないからガソリン回収で」

「私もそう思うわ。 鳥越さん、ガソリン回収は後で一斉に行うのかしら?」

「そうです。 なので、損傷が軽い車を探してください」


 鳥越の返事を聞いて、二人は最初にボンネット、フロントガラス、サイドミラー、タイヤの状態、ドアの凹みなどに注意して二台目、三台目、四台目と次々確認していく。

 五台目で梓と赤城はピタリと動きを止めた。見た感じではライトと助手席に他の車と接触で塗装が剥がれただけ。それ以外には特に外から見て悪そうな場所がない。


「梓さん」

「これなら大丈夫じゃないかしら?」

「私もそう思うわ。 鳥越さん、このウェイクどうでしょうか?」


 赤城に呼ばれた鳥越は、車の影などにゾンビなどがいないかを確かめていた。唸り声も腐敗臭もないのを改めて認識すると、小走りで彼は二人と合流するべく移動。


「……いいと思います。 見たところ確かに傷らしい傷がないし、一部だけ塗装が剥がれているだけに見えますから」

「よかった。 使えそうな車に、なにか目印とかしなくていいのかしら?」

「それなら大丈夫です」


 鳥越自身もウェイクの状態を把握。ポケットから水色のカラーテープを取り出す。適当な長さにカットしながら丸を作って張り付けた。


「なるほど。これならすぐにわかるわね」

「確かに。わかりやすいと思うわ」


 二人は鳥越が行った見分け方法を見て、これならすぐに判別できると同意。


「次の車を探しましょう」

「グゥゥウウウアア」

「ギイィィャャアアア」

「ウゥゥォォォオオ」


 三人が移動しようとした直後、フェンス向こうのWZ数体が彼らに気付いた。そしてフェンスに身体を押し付けながら両手を伸ばして、捕まえようと動かす。


 ――カシュ、カシュ、カシュ、カシュシュ!


 他のゾンビが唸り声で集まってこないようにと、鳥越は即射殺した。


「急いだ方がよさそうね」


 梓はセーフティーを解除したMP5改の銃口をWZたちに向けていた赤城を促した。


「撃ちたかったわ」

「ムダ撃ち禁止でしょ」

「わかっているわよ」

「なら、さっさと再開しようかしら?」

「はーい」


 梓は返事をしながらも、撃ちたそうな顔で動こうとしない赤城の腕を掴むと、強引に引き摺るようにして歩き出す。この後、三回ほどフェンス近くでWZに唸られたが、鳥越が射殺して他のゾンビが来ないようにと気を配った。

 どんどん確認を行い二十五台目までに、最初に見つけた一台と合わせて問題なさそうなのが二台しか発見できず。


「は、半分ちかくまで確認して、使えそうなのが二台だけって」

「少なすぎるわね」

「残りの車に期待するしかないか」

「お嬢さん方、少し休憩するか?」

「そうします」


 鳥越の提案を受けて、梓と赤城は西ゲート近くのパトカーへと戻る。


 ――ガシュシュ、ガシュ、ガシュシュ、ガシュシュ!

 ――カシュ、カシュシュ、カシュシュシュシュシュ!


 盛岡と一人の班員がゲート内に入ってきたWZを射殺。もう一人に関しては、ガソリン回収の準備のために容器を取り出している最中。


「私も撃ってくる」

「休まないの?」

「ゾンビ射殺も休憩の一つ」


 ――パシュ、パシュシュ、パシュ、パシュシュシュ!


「そんな休憩、誰も聞いたことないと思うわ」


 梓の声は赤城がすぐに射殺を開始したことで、彼女の耳に届くことはなかった。梓は自分たちが乗っていたパトカーから、チュッパチャップスのチョコバナナ味を取り出す。

 外装を剥がすのに少しだけ悪戦闘してから、彼女は口の中に入れてその甘さを味わう。


「美味しい」


 当分補給で梓が少しだけ緩んだ表情をしている間にも、西ゲート内に侵入したWZの死体は増える。


「えーっと、一、二、三、四」


 死体を指差し確認しながら、梓は盛岡たちが射殺したWZの数を把握。


「六十九体。多いのかしら?」


 西ゲート付近を彷徨(うろつ)いていたゾンビより、少しばかり数が多い程度。梓がそう判断する頃には、八体の死体が追加された。これ以降、目に見える限りで西ゲート内に侵入したゾンビはゼロ。

 撃ち足りなそうな赤城が合流し、チュッパチャップスのコーラ味を舐め終えるまで十分ほどの休憩。


「もう行けるわ」

「それじゃあ、行きましょう」


 休憩終了を告げた赤城。梓が鳥越に視線を向けると、彼はそう告げて残りの二十五台前後があるショッピングモールセンター入り口の方へと歩いていく。


「ハイエースが一台でもあれば、今後の調達や運搬がかなり楽になるわね」

「一応、ここからでも三台は見えてはいるわ。損傷がない、綺麗な状態なのがあるといいけれど」

「班長、盛岡さんの命令でこちらに合流します」


 赤城と梓が和やかに話していたところに、ガソリンを入れる容器を準備していた班員が追い付いて鳥越に報告。


「わかった。梓さんは俺が護衛する。お前は赤城さんを守れ」

「了解です」


 梓は鳥越と彼の部下の会話を聞きながら、一台目のハイエースの前に到着。ボンネット、フロント、サイドミラー異常なし、助手席側のドアが凹んでいる。


「ダメかしら?」

「残り二台を見て判断としましょう」


 彼女は三台隣の二台目のハイエースへ向かい、全体を見て回る。今度のはサイドミラーの破損と、トランクが半開き状態。これでは使えない。


「今度は問題ありませんように」


 梓は祈るように言葉を口にして、三台目のハイエースと向かう。そしてほぼ、完璧な状態であることと、トンラクから後部座席にかけて、なにも荷物がないのを確認。

 鳥越にこれなら使えそうだと告げて、同意を得られた彼女は意気揚々と次の乗れる車を探すのだった。

前半は創太たち、後半は梓たちでした。

次話も下準備で、前半は梓たち、後半はイーグルマンションの北見たちの予定です。

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