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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
18/54

17.再訪の上戸森警察署


 新銃完成と必要と思われる装備を揃え、一騎たちが警察署に向かったのは二日後のこと。朝十時ちょうど。一騎、創太、澪、梓にジャーキーのいつもの四人と一匹はラルゴに乗って。

 中村班は事故車の中でも、かなり損傷の少なかったノアに乗っている。一騎と澪以外は、全員が3Dプリンターで作られたプロテクターを装着。

 特に両腕に関しては、指先から肘までを覆うものだ。これはゾンビの大半が腕か手に噛みつくので、少しでも感染リスクを下げるためにと創太発案。


 一騎と澪が身に付けていない理由は、実にシンプル。一騎は3Dプリンターで作った銃と、実銃の両方を扱うためにプロテクターが邪魔だったのだ。

 澪は一騎が使わないなら、自分も不要ということで非装着。ただし、彼に説得されて指先から手首を分厚い手袋で守っているが。

 ラルゴとノアは時速十五キロから二十キロで走行し、突発的に飛び出してきたゾンビやエンジン音を聞き付けたRZに突撃されたりしないようにという対応。


 裏門までもう少しというところまでで、二回だけWZ集団と遭遇。計画で決められた迂回ルートを通って、彼らは戦闘を回避した。


「一騎、もうすぐで到着なのだよ。 フックガンは持ったか?」

「あぁ。 もしもゾンビの団体さんが来るようなら、フックガンでどこかの建物に張り付いて実銃のMP7A1を使う」

「一騎、もしも地上戦で囲まれそうになったら遠慮なく、このショットガンを使うのだよ!!!!」


 運転を梓に任せているから、創太は助手席から腕を伸ばして一騎にイサカM37改を渡した。


「地上で囲まれたら、その段階で作戦失敗だっての」

「いいや、ショットガンを使えば切り抜けられるのだよ!!!!!」

「音で余計に集まるだろうが!!!!」

「はいはい、二人とも到着だから静かにしてね」


 梓の言葉を聞いて、二人は気持ちを切り替える。既にエンジン音を聞いて集まり出したゾンビが、裏門に入ったばかり

の二台へと接近を開始。

 鉄柵は左右に全開状態であり、移動させる必要がなかった。これは中村班による作業も省略されて、署内へ入る前と入ってからの安全確保に時間が割ける。


「計画通りに署内へと入ろう。 葉加瀬くん、梓さん、俺たちがウォーターサーバーを運び出す間、護衛を頼む」

「任せるのだよ」

「任せてください」

「武藤くん、澪さん。 ゾンビの数が増えてきて、パチンコ玉を使いきりそうになったら、ノアに一ケース乗せてきた。 そこから補充してくれ」

「了解です。 では運び出しを頼みます」


 一騎の言葉に中村が頷き、彼の班が先行して署内へと入っていく。それを見届けた一騎と澪は、少しずつでも集まり始めたゾンビへと視線を向ける。


「澪、最初はパチンコ玉の節約だ。 オレが警棒で頭を叩いて数を減らすが、多くなってきたら合図するから車内から撃て」

「うん」

「ジャーキー、澪を任せたぞ」

「ワン!」


 一騎はジャーキーの返事を聞いて、裏門へと入ってきた八体のWZへと迫る。


「ゥゥゥウ゛ウ゛ウ゛!!!」

「ァァァア゛ア゛ア゛!!!」

「腐敗臭が強すぎだろ。 せいっ! おらっ! はあ!」


 一騎は伸縮警棒をカチンと伸ばして、WZへと走りその頭目掛けて振り下ろしていく。


「ァァァア゛ア゛!!」

「ゥゥウウ!」

「ゥゥゥルア゛ア゛ア゛ア゛!!」

「ヴァァア゛ア゛ア゛!!」

「勘弁しろっての。 殺すだけじゃなくて、車を出す時に邪魔にならないように退()かす手間を考えろよな」

「ウウウアアア」

「ゥゥゥア゛ア゛ア゛!!」


 一騎の愚痴ににも聞こえるような口調に、ゾンビたちは唸っての返事をするだけ。一体ずつ確実に頭部を破壊しながら、彼は門の外へと少しだけ出た。

 一騎が動いたことで、彼の存在に気付いたゾンビ三体が手を伸ばして迫ろうとする。


「ゥゥゥウ――」

「黙ってろ」


 唸り声を上げようとした瞬間には、一騎が思いきり頭部に警棒を振り下ろして静かにさせた。一騎はゾンビが放つ悪臭に鼻を摘まみたいのを我慢して、殺したばかりのゾンビの足を掴んで警察署を囲む塀の一部へと重ねていく。


『こちら創太、一騎、応答するのだよ』

「一騎だ。 どうした?」

『一階にゾンビの姿はほとんどなし。 早速一台のウォーターサーバーを確保したのだよ。 これから一旦戻る』

「了解。 こっちは数が少なかったから、警棒で頭を潰して掃除した」

『了解なのだよ』


 無線連絡を終えた一騎は、ラルゴの後部座席に置いておいたTARー21改とマガジンベストを着た。


「どうするの?」


 彼が自分の装備を装着し始めると、窓を少しだけ開けて警戒していた澪が質問を発する。この際、ジャーキーが両前足で鼻を覆っていたのは、腐敗臭が原因だ。

 至近距離でゾンビの頭を殴っていたから、一騎の服に腐敗臭が染み込んでいる。そのせいで、少しだけジャーキーは距離を置いて離れてお座りした。


「創太たちが、一台目を確保したから戻ってくる。 もしも、後ろにゾンビを引き連れていた場合は射殺して安全確保だ」

「門周辺は?」

「周辺のゾンビは片付けておいた。 もし、次に集まってくるとしたら、積み込みのためにトランクを開閉させるから、その時の音の大きさによって集まり出す」

「うん」


 澪からの質問に一騎が答えた直後、出入り口から創太たちが姿を現した。中村と班員の一人がウォーターサーバーを前後で持っている。残りの二人の班員は、ノアのトランクをそーっと開けた。


「一階にはどれくらいのゾンビがいたんだ?」

「そんなにいなかったわね。 七体だけだったわ」

「だが、上に続く階段からは、かなり強烈な腐敗臭がしていたのだよ。 あれは上の階に間違いなくゾンビ集団がいるのだよ」


 一騎が頷いた直後、彼は澪に袖を引っ張られて少しだけ創太たちから離れる。


「どうした?」

「少なくない?」

「ゾンビが?」

「そう。 それに静かすぎる」

「……確かに」


 澪は上戸森警察署に到着してから、遭遇したゾンビの数が少なく、あまり唸り声が聞こえてこないことに嫌な予感を抱いていた。


「なんだか怖い」

「怖い?」

「そう。 嵐の前の静けさ」


 一騎は澪の「嵐の前の静けさ」という言葉を聞いて、確かに静かすぎると感じた。


「中村さん」

「なんだ?」

「ゾンビの唸り声って、上の階から聞こえましたか?」

「あぁ。 それに腐敗臭も強かったが」


 中村からの返事を聞いて、一騎は段々と不安になり始めた。澪は隣で「なんだか不気味」と小さく呟く。二人はなんだか、このままだと窮地に陥るような予感を感じている。


「慎重に、でも慌てず急いで」

「どういうことだ?」


 澪からの突然の言葉に中村は困惑したようだ。だが、トランクを閉める音を聞いて、中村はすぐに思考を切り替えて創太たちと一緒に、署内へと戻っていってしまう。


「澪、すぐに撃てるようにセーフティーを外しておけ」

「そうする」


 一騎からの指示を受けて、澪はすぐにセーフティー解除。そして、ラルゴの窓を開けて門の方へと銃口を向けた。一騎は無線機を落とさないようにマガジンベルトに装着して、ラルゴの屋根へと上がる。

 もし急にゾンビが一斉に押し寄せてきても、少しでも多く早く射殺することができるようにと。





 警察署内に戻った創太たちは、慎重な足取りで階段を少しずつ上がっている。一階よりも強烈な腐敗臭で、マスクしないと鼻で呼吸するのも困難なくらいだ。

 彼らが慎重なのは、火薬確保のために花火工場に行った時の経験があるからだ。ゾンビいないところに腐敗臭なし。これを経験則としているから、腐敗臭が強いということはゾンビの数も多いと判断しているのだろう。


「ゥゥウ゛ウ゛ウ゛」

「ァァァア゛ア゛ア゛」

「グゥゥウ゛ウ゛ウ゛」

「ゥゥゥア゛ウ゛ア゛」

「ァァァウ゛ウ゛ウ゛」


 一階と二階の中間にある階段の踊り場で、創太と中村はゾンビの唸り声を聞いて足を止めた。それと電気が止まっているから、二階部分が暗くてゾンビの位置を特定しにくい。


「中村、このまま上がるのは自殺行為だと思うのだよ」

「俺もそう思う。 だが、ここにずーっと待機している訳にもいかない」

「ゥゥウウウ」

「ァァァラアアア」


 ゾンビの唸り声の方が大きく、創太たちが普通に話しても問題ない。だが彼らは用心として、耳に無線機直結のイヤホンを入れた状態で会話していた。


「賛成なのだよ」

「中村さん、葉加瀬くん。 これを」

「百均でも売っている光る棒なのだよ」

「なるほどな。 一時的な光源として使える」

「進むしかないか」

「その通りなのだよ」


 創太と中村は横から差し出された光る棒を一本ずつ受け取ると、同時にパキャっと音をさせて曲げる。中に入っている薬剤が反応を起こして色を発し始めた。創太は黄色で、中村のは薄緑色。


「梓、僕の近くに。 決して離れるのではないのだよ」

「ちゃんと守ってよね」

「自分でも身を守ることを考えるのだよ。 それっ!」


 創太は梓を招き寄せると、手にしていた光る棒を踊り場から投げ込める方向へと投擲。


 ――トン! 

 ――コロコロコロコロ


 棒は一体のゾンビの頭に命中。そのまま落ちたところを別のゾンビが蹴ったことで、光る棒は奥へと転がっていく。


「今だな」

「慎重に突入なのだよ」


 中村は静かに階段を上がり、ウォーターサーバーが置いてある少年係科の方へと顔を覗かせた。


「ゥゥゥウウウ」

「ァァァアア!!」

「ァァァア゛ア゛ア゛!!」

「ィィィイ゛イ゛イ゛!!」

「どうなのだよ」

「カーテンが開いて、外から明かりが差し込んでいるんだろう。 廊下側には中に入れなかったゾンビばかりだ」


 創太は少年係科の方へと視線を向けてから、自身が光る棒を投げた方向へと視線を向ける。梓は光る棒に引き寄せられているゾンビと、窓から差し込む明かりに群がるゾンビに何度か視線を往復させた。


「先にあっちのゾンビだけでも射殺しない? そうすれば、三階のウォーターサーバーを取りに行くときに少しは安全確保がされて安心できると思うのよ」

「その考えには同意するが、あまりパチンコ玉を消費したくないのだよ」


 創太が消費を気にするのは仕方ない。なにせ光る棒の方向だけでも、ゾンビで覆われたわずかな光源を頼りにして数えると軽く四十体はいる。

 それに発砲音はゾンビの唸り声が消してくれるだろうが、頭部や足を破壊をされて倒れる音までは無理。もし、倒れた音を聞き付けて、一斉に振り返ったりしたなら唸り声も大きくなってしまいかねない。

 そうなったら、これからウォーターサーバー確保に向かおうとしている少年係科のゾンビたちが波のように押し寄せてくるだろう。


 そして、階下のゾンビの唸り声を聞いた上階のゾンビたちまで降りてくる可能性がある。そうなったら、数マガジンを消費するのは避けようがない。


「葉加瀬くん、俺は梓さんの考えに賛成だ。 ウォーターサーバーを運び出す時に、後ろから迫ってこられたら逃げ場がなくなってしまう」

「……わかったのだよ」


 創太は中村の言葉に頷いて、梓と一緒に光る棒側のゾンビに銃口を向ける。セーフティーを解除し、彼は中村に頷いて見せた。


「頼む」

「梓、発砲なのだよ」

「試射練習したんだから、絶対にムダ撃ちしないわ」


 ――バシュ、バシュシュ、バシュシュシュ

 ――トシュ、トシュシュシュシュ

 ――ドシャ!

 ――ドサ!!

 ――バタン!!


「ゥゥウウウ」

「ァァァア゛ア゛ア゛!!」

「ラァァァア゛ア゛」


 何体かのゾンビが血と脳を盛大にぶち撒いて、見事に音を立てて倒れる。その瞬間、その音を聞いたゾンビたちが一斉に振り返ってしまった。


「厄介なのだよ!」

「一斉に!?」

「ゥゥウウウ」

「ァァァァアアア」

「ヴァァア゛ア゛ア゛!!」

「グゥゥア゛ア゛ア゛!!」

「ブゥゥウ゛ウ゛ウ゛!!」

「ギャォォオ゛オ゛オ゛!!!」


 九体を射殺したところで、ゾンビたちが一斉に創太たち目掛けて歩き出す。


「梓、落ち着くのだよ」

「でも!」

「落ち着くのだよ。 見たところRZはいない。WZだけなら焦らずに撃てば、問題ないのだよ」

「そ、そうね。 わかったわ」

「俺たちも発砲を開始する。 ある程度の数を減らしたら、さっさとウォーターサーバーを確保してノアに積みに降りるぞ」

「「「了解!」」」


 ――バシュ、バシュシュシュシュ!

 ――トシュシュシュシュシュシュ!

 ――パシュシュ、パシュシュシュシュシュ!!

 ――ドシュン、ドドドドドドシュシュシュン!!

 ――パシュン、パシュシュシュン、パシュシュシュシュン!!


 創太と梓はWZの頭を集中的に狙って発砲し、確実に数を減らしていく。射殺しても、すぐ後ろから出てくるゾンビの数に梓は涙目だ。


 ――絶対にゾンビになりたくない! あれの仲間入りなんて絶対にお断りなんだから!!


 梓は声に出して叫ばない代わりに、心の中で絶叫するように叫ぶ。創太は平然と撃っているが、隣の梓から焦りのようなものを感じ取っていた。


「梓、そろそろリロードしておくのだよ」

「まだ残っているけど?」

「僕と同じゾンビを撃ったりしているから、余計なパチンコ玉を消費しているのだよ」

「え!?」


 創太は梓のUZI改に残りパチンコ玉を表示するカウンターを付けていた。それが示す残りが11発まで減っていたから、彼はリロードを促したのだ。


「ゥゥゥルア゛ア゛ア゛!!」

「ァァァウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!!」

「ヴァァァア゛ア゛ア゛ア゛!!」

「ィィィイ゛イ゛イ゛イ゛!!」

「ヴァア゛ア゛ア゛ガ!!」

「誰がバカだよ!!」


 ゾンビの一体の唸り声が、バカと言っているように聞こえたらしく、中村班の一人がツッコミをするみたいに反応。たまたまバカと聞こえただけなのだが、真剣に射撃しているだけに一人が思わず返事をしてしまった感じだ。


「くそっ! どんだけいるんだっての」

「確かに多すぎるな」

「焦るな、慌てるな。 確実に自分の正面ゾンビに集中して撃つんだ」


 創太と梓の二人と背中合わせのような状態で、中村と彼の班員は少年係科から出てくるゾンビを撃っている。彼らは既に出てきたゾンビだけでなく、出てこようとしているゾンビも撃っていた。

 ウォーターサーバーは少年係科に入る出入り口二つのうちの奥の方にある。そこからもゾンビが出てきて、撃っても撃っても数が減らないことに焦りを抱き始めていた。


「確実に一体ずつ仕留めんだ」

「中村、手伝うのだよ」

「助かる!」


 この時、創太と梓は自分たちの担当する、光る棒側のWZを全て射殺し終えたところ。創太はXM8改のリロードを素早く済ませて、中村班の援護射撃を開始。少年係科と廊下を合わせゾンビの死体の数からして、六十体を超えていた。


「どれくらいなのだよ?」

「さっぱりわからない。 とにかく、まだまだ出てきそうだ」

「こんな時こそショットが――――」


 ――バシン!!


 創太がショットガンと言おうとしたのを察した梓は、思いきって左手で彼の頭を叩いた。無理もない。創太はショットガンに関する時だけは、大声になり熱弁を始めてしまう。

 そうなったら、上階のゾンビだけでなく外でゾンビを相手している一騎と澪にも負担を掛けてしまうと判断を下した故の行動だった。


「落ち着かせようと冗談を言おうとしただけなのだよ」

「創太くんの冗談は私たちをゾンビにしそうだから、射撃に専念してもらえますか!!」

「むむ。 仕方ないのだよ」


 梓に叱られて創太は少しだけシュンとした。その直後、バタバタとなにかが落ちてくる音がして、振り返った梓が信じらなれないと言いたそうな表情を浮かべる。


「ゥゥウ゛ウ゛ア゛ア゛!!」

「ォォォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」

「ギィィィイ゛イ゛イ゛!!」

「さっき射殺したのに!?」

「僕ら六人が一ヶ所にいるのを察知して、上階から降りてきたのだよ」


 実際にゾンビたちは、発砲音や彼らの会話が聞こえて降りてきたのではない。生存者の存在を、新鮮な肉の気配を感じて降りてきたのだ。


「リロード」

「こっちもだ」

「ゾンビが出てこなくなった。 殺し終えたようだ」

「だったら、早くウォーターサーバーとタンクを確保するのだよ。 上階からゾンビが降りて来はじめたのだよ」

「了解だ」


 中村班はゾンビが完全に出てこなくなったかを確かめてから、少年係科の中へと入っていく。この時、中村たちは気付いていなかったが、彼らは126体のWZを射殺していた。


 ――バシュ、バシュシュシュ!!

 ――トシュシュシュシュシュ!!


 その間にも上階から降りてきたゾンビたちは、少しずつではあるが数を増やして迎撃射殺中の創太と梓へと近付いていた。創太は梓の二つ目のマガジンの残りパチンコ玉を確認しながら、無線機を操作する。


「一騎、こちらは二台目のウォーターサーバーを運び出すところなのだよ。 そっちのゾンビ状況は?」

『少しずつだが、数が増えてきてるな。 ほとんどがWZばかりだから問題はない』

「了解なのだよ」

『中村さん、予備タンクの回収って同時進行可能ですか?』

「できるとは思う。 だが、正直に言ってゾンビ数が多いと射撃二人だけじゃ難しいな」


 創太の真後ろから中村と班員一人が、前後に立ってウォーターサーバーを運び出してきたところ。創太と一騎の無線連絡が始まった時点で、待機状態にしてあった無線機が連絡可能状態にシフトしていたのである。


『了解です。 一回、戻ってきてから予備タンクの回収と積込をして、三台目のサーバー確保ってできそうですか?』

「三台目?」


 当初の計画ではゾンビの数によっては、必要分のみの回収という話になっていた。余裕があれば三台目もという話の流れではあったが、中村としてはあまり危険を犯したくない様子だ。


『はい。 三台目に関しては、石田さんたちのところに届けようかと思ってます』

「なるほど。 浄水器の確保連絡がまだだったな」

『えぇ。 失敗したか、あるいは外からでもわかるくらいにゾンビが多くて諦めた可能性があるので』

「わかった。 一度ウォーターサーバーをノアに運び込む。 その後に予備タンクだ」

『お願いします』

「任せておけ。 お前らもいいな?」

「はい」

「大丈夫だ」

「やってやるさ」


 創太と梓、中村班の二人が接近するWZたちを次々に射殺しながら、少しずつ前進して階段まで戻る。そして急ぎ足で階段を降りて、一騎たちがゾンビの侵入阻止をしている裏門に到着。

 創太がノアのトランクを開けて、中村たちはウォーターサーバーを運び込んだ。創太はトランクを閉めると、ラルゴの屋根から、入ってくるWZを射殺中の一騎に声を掛ける。


「予備タンクを集めてくるのだよ」

「頼んだぞ」

「ワンワン!」

「任せるのだよ」

「それと、タンクを運ぶための台車は見つかったのか?」

「まだなのだよ。 なければ持って運ぶから心配なしなのだよ」

「わかった。 気を付けてな」

「姉さん、注意してね」

「もちろんよ。 ジャーキー行ってくるわね」

「ワオン!」

「武藤くん、タンクは君たちの車に運び込んで問題ないかい?」

「大丈夫です」

「了解した。 さぁタンク回収だ」


 一騎からの返事を聞いた中村は、自分の班員と創太たちを急かして警察署内へと戻っていく。それを一騎はチラリと確認してから、裏門に侵入してきたゾンビ射殺に意識を傾けた。

 創太は一騎が自分たちに視線を瞬間的に向けたのを感じながら、二階へと上がっていく。


「備品倉庫はどこなのだよ」

「こっちだ」


 創太の言葉に班員一人が先行。中村班の二人が、階段を上がりきったところで足を止めて、三階から降りてこようとするゾンビの射殺を開始した。

 創太、梓、中村、中村の班員一人は、少年係科の奥にある備品倉庫と書かれた場所に到着。


「鍵は?」

「普段なら施錠されているが、ゾンビ発生時を考えれば開いてるだろう」


 創太の問いに中村が答えて、そっとドアノブを回して倉庫のドアを開けた。


「暗い。 でも、臭いは……しない?」

「梓、腐敗臭に鼻が慣れきっているのだよ。 だから臭いがしても気付けないのだよ」

「マンションに戻ったら、絶対に一時間くらい入浴してに臭いを落とすわ」


 中村は投げずに持っていた光る棒を、慎重に中へと転がした。緑色の光源が突如として発生した形だが、彼らがしばらく待っても物音どころか、光源に集まろうとするゾンビの姿さえなし。


「一応、安全そうだな」

「そうだな。 もう一本を渡すから、それで台車とタンクを見つけてくれ」

「お前は?」

「少年係科の方から懐中電灯を持ってくる」

「正解だな。 光る棒よりも、もう少し倉庫内を明るく照らせるだろう」


 中村は班員である同期から受け取った光る棒をパキャっと曲げてから、慎重に中に入って台車とタンクを探し始める。創太は梓を連れて、倉庫内に転がり入れられた光る棒を回収。

 それを使って三人で台車とタンクを見つけ出すべく、急ぎ足で倉庫内を移動開始。六階の武器保管庫より中は広く、ところ狭しと棚と荷物が積まれている。途中で懐中電灯を見つけてきた中村の同期が加わり、四人で倉庫内を捜索。


「タンクがあったのだよ」

「台車も発見した」


 創太がタンクを見つけると、それに被せるように中村の同期からも声が上がった。


「しかし、驚いたよな」

「なにがなのだよ?」

「タンクの水が腐っていない」

「それはそうでしょうね。 だってここ、ひんやりと冷えているもの」


 梓の言葉に中村と同僚が驚いて目を丸くした。少しも動かずにいて、ようやく冷えていることに気付く。


「本当だ」

「タンクを保管するから、日差しで暖かくならないように断熱材が使ってあるのかもね」


 梓の考えは的中している。創太も知らなかったが、上戸森警察署は設計段階からウォーターサーバーとタンクを使うのを考慮されていた。

 日差しでを緩和するだけではなく、元から日陰になりやすい場所に作られていたのだ。台車四台が見つかり、ロープでタンクがガチガチに固定された。

 一台に30リットルのタンクが五つ、つまり150リットルの台車が二台。合計で300リットル。残り二台の台車には保存水と水やお湯を入れるだけで調理完了のパック料理と、乾パンにビスケット、クッキーに様々な種類のアメが入った箱だ。


 創太たちはすぐさま台車を押して、階段まで戻り創太と梓の援護射撃によってタンクが乗った台車を中村班の四人が一階へと運ぶ。三往復目で四台の台車を降ろし終わってすぐさまラルゴへと彼らは向かった。


「武藤くん、トランク開けるから揺れに注意してくれ」

「了解です」


 中村は一騎に一声掛けてから、トランクを開けて台車をそのまま乗せた。積み込み終えると、すぐさまトランクを閉めて創太たちは署内へに三台目のウォーターサーバーを取りに行くのだった。

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