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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
14/54

13.火薬確保


 ゾンビ発生から一週間が経過した朝。この一週間、一騎は毎日のように澪に起こされて、洗顔して口を濯ぎ朝食という流れを取っていた。

 しかし、この日は朝食の場に今日に限ってのみ加わった顔がある。それも三人だ。707号室のリビングにあるテーブルは四人用サイズの物で、ここに追加で三人が座ると七人に。

 そんなスペースなどないのに、石田、中村、鳥越は肘がぶつかる距離まで密着するような状態で、一騎たちがちゃんと座れるように場所を確保した。


 ジャーキーは、目の前にドッグフードがあっても、それを食べようとはしない。一騎か、澪からの「よし」が出るまでは大人しく待つ。

 この日の朝食は、ご飯、納豆、ほうれん草のお浸しにジャガイモの味噌汁。


「食べながらになりますが、話を聞かせてください。 用件はわかっていますけどね」

「それで構わない」

「わかりました。 いただきます」

「「「「「「いただきます」」」」」」


 一騎の問いに石田は頷いた。そして一騎に続くように復唱して彼らは、各々の食べたい品に箸を伸ばしていく。しばらく無言で食事が進められていたが、全員が残り半分になったところで石田が話を切り出した。


「今日の午後に、上戸森イーグルマンションへと向かおうと思う」

「賢明な判断です。 二十人を超える人間が一ヶ所に集まっている以上、ゾンビたちは群がって来ますからね」

「一週間でそれを実体験したからこそ、武藤くん、葉加瀬くん、御巫のお嬢さん方に迷惑を掛ける訳にはいかない」

「わかってもらえて嬉しいですよ。 しかし、そのことを告げるだけなら、わざわざ食事を一緒にする必要がないと思います」

「あぁ。 移動する前になにか手伝えることがないかと思って聞きに来たんだ」

「お手伝い?」


 石田が言った手伝いという言葉に、澪が首を傾げる。なにを手伝うのか、どうして手伝うのか。それが明言されていないから当然か。それに中村がはっきりと答える。


「このマンションに一週間も滞在させてくれたことに対する感謝をしたいんだ。 それと向こうへ移る時に、飲料、食料に医薬品、着替えなどの物資も提供してもらっているからね」

「手伝いですか。 澪、梓さん、なにかありますか?」

「ない」

「私もないわ」


 昨日の視力実験を終えた時点で、一騎たちは石田たちがイーグルマンションに向かう際に、必要な物資をある程度提供するということで話をしていた。それに対する恩返しのようなもの。


「僕は火薬が欲しいのだよ」


 一騎が創太に視線を向けると、彼は即答した。創太がどうして火薬などと言ったのか。これは本人から説明がなくても、石田たち以外の三人は即座に理解する。


「シェルに入れる火薬か」

「そうなのだよ。 ショットガンを作ったのに、火薬がないから試射することもできない」

「ぶっ! ショトガンまで作ったのか!?」

「汚い」

「中村さん、口の中の物を飛ばさないでくださいね」


 創太の口から出たショットガンという単語に、中村は盛大に味噌汁を吹き出す。霧状になった味噌汁を前に、一騎と澪の行動は素早かった。

 まだご飯の残っているお碗と、味噌汁が入っていたお椀をそれぞれ掴むとすぐにテーブルから後退したのだ。そして澪からの「汚い」発言。梓も注意を促しながら、布巾を持ってきて、中村が吹き出して汚れてしまったテーブルを拭く。


「も、申し訳ない」

「注意」

「射線じゃなくて助かったのだよ」

「いやいや、ショットガンまで作っていたとは思いもしなかったよ」

「あれ? 創太の部屋で銃を作ってもらった時に見たんじゃ?」

「隠していたのだよ。 火薬なしではショットガンの威力はないに等しいのだから」


 一騎と澪はテーブルに戻り、お碗とお椀を戻しながら会話を再開する。同時に一騎はジャーキーに待てをしたままだったことを思い出した。


「ジャーキー、よし」

「ワフン」


 一騎から許可が出ると、ジャーキーは嬉しそうに尻尾を振ってドッグフードを食べ始める。


「一騎はなにかないのだよ?」

「……んく。まだまだあるけど、パチンコ玉は補充しておきたいな。 使いきってから回収に行くのは、集団に囲まれた時に無防備になるから」


 創太に話を振られた時、一騎は味噌汁を飲み干したタイミングだった。彼は「ごちそうさま」と澪と梓に伝えてから、自分が手伝ってほしいことを告げた。


「火薬とパチコン玉の両方は難しいな。 どっちかでゾンビ集団と遭遇した場合、マンションに戻ってくるだけでも時間を使うはずだ」


 一騎の言葉に鳥越は申し訳なさそうに言った。彼自身、その危険性を認識していたからこそ、頷くだけでしかない。ここで視線は石田へと集中する。

 どっちを選択するのか、その判断を全員が石田に決定させるつもりだ。


「火薬……だな。 パチコン玉に関しては我々も必要だが、上戸森イーグルマンションの近くに新規オープン直前のパチスロがある。そこで補充としよう。

 それと両方を手伝えない代わりに、中村か鳥越の班を護衛として残していこうと考えている」

「護衛、ですか。 ゾンビがどれだけの人の数に集まってくるのか気になるし、オレからもお願いしましょう。澪、梓さん、どうかな?」

「賛成」

「確かに私と澪の腕じゃ、ちゃんとした射撃は難しいから心強いわね」

「では中村班を残そう。 三班は連れていくが、問題ないか?」

「不馴れな場所に向かうなら、当然の判断かと」

「感謝する」


 朝食が終わると、一騎、創太は一班の中村班、二班の鳥越班と一緒に市内にある花火工場へと向かうことで話をまとめた。そして、すぐに出発の準備を開始する。

 澪と梓は残った警官たちと避難民に提供するのを確約した物資確認とパトカーや彼らの車への積み込みのために、マンションに残ることとなった。





 四十分後、一騎、創太、中村班に鳥越班は上戸森市内にある花火工場の駐車場に到着していた。一騎は創太の運転するプリウスから降りる。二台のパトカーから警官たちが降りてくるが運転手として一人が必ず車内に留まる。

 創太はエンジンを切るが、プリウスから降りようとせずに十分に注意して中へ入るようにとドアを開けて一騎に告げた。全員がマガジンベストを着用し、最低でも予備だけで200発用意している。


「それでは、入りましょうか」

「あぁ」

「回収しよう」

「警戒は厳重に。 ゾンビは発見した時点で、逐一報告を入れるように」


 中村が一班と二班、それぞれの班員に指示を出す。そして視線は一騎へと向けられる。


「工場内部のどこに火薬があるかわかりません。 また、ゾンビはいつ機械の影から出てくるかも、残念ながら予想不能です。

 なので、注意しながら慎重に進みます。 かなり大きい工場だけにWZだけじゃなくRZもいるはず。 お互いをカバーしながら、焦らず確実に探しましょう」

「「「「了解」」」」


 一騎は無線機で創太に、花火工場内部に入ることを告げるとMP7A1改をしっかりと抱えて小走りに事務所へと向かっていく。彼は慎重にドアノブを回して、ゆっくりと押すと抱えるのではなく、いつでも発砲できるように構えた。


「内部探索を開始します」


 今回、工場内に入るのは一騎と警官を合わせて七人。人数を分けて探索をしないのは、万が一にも襲われた場合の対処を考慮してとなっている。

 一騎は静かに扉を完全に開けて、音もなく滑り込むようにして事務所内へと入った。これに続くのは中村班で、その次が鳥越班。


 一騎たちはデスクの下にも、注意を払いながら散乱している紙の資料を拾い上げて、軽く目を通す。彼らが必要としているのは、火薬保管倉庫の場所だ。

 彼らは知らないが、残念なことに事務所内に火薬を保管している場所に関する情報は一切ない。第三者が勝手に持ち出したりしないようにするため。

 そんなことを知らない彼らは、しばらくデスクにある資料や紙にも目を通していったが結局はわからず。仕方なく一騎たちは気持ちを切り替えるようにして、事務所内を出てあちこちを探し回ることに。


「とりあえず、加工場を最優先で探しませんか?」

「そうだな。 本当なら保管倉庫を見付けたいところだが」

「この時期でも、気が早い場所から花火製作の依頼があると同僚から聞いたことがあるぞ」


 警官たちは頷き合うと、一騎を囲むようにして事務所から廊下に出て、更衣室と書かれたドアの方向に向かって彼らは歩き出す。


「保管倉庫の鍵を持っている従業員が、出勤してきていればいいんだがな」

「それは同感です。 ただ、ゾンビ化していなければいいなと思いますよ」


 鳥越の言葉に一騎が返答をしている間に、彼らは更衣室前に到着した。


「総員、セーフティー解除。 開けろ」


 中村の言葉に警官たちは従い、セーフティーを解除するといつでも撃てるように構えた。一騎は既に構えてトリガーを引くだけなので、もし飛び出してきても即発砲可能状態になっている。


 ――キイイィィイ


 周囲が静かなだけに開閉音が、あまりにも大きく聞こえてしまう。知らず知らず全員、ゴクリと唾を飲み込む程だ。十分に警戒しながら、中村班が突入。


 ロッカーを開けて、中を調べては閉める。これが数分間続いて、最初に突入した警官が中村に報告。


「クリアです。 ロッカー内にゾンビが隠れていることも、鍵がないのも確認しました」

「了解」


 ゾンビの姿も死体も、鍵もなし。すぐに次へと向かう。一騎たちは廊下を進んでいき、複数の扉を開けては内部を確認して閉めるを繰り返していく。

 工場内に入って十三分後、ついに一騎たちは第一加工場とプレートが掛かった場所に到着する。鳥越班が扉を開けて内部へと先行。一通り見て回っている間に、一騎と中村班が火薬を探すことに。


「開けろ。 中村班は武藤くんを護衛しながら、火薬を探してくれ」

「了解」

「武藤くん、俺たちから離れないようにね」

「わかりました」


 鳥越と中村からの指示を受けて、一騎が頷く。そして盛岡が第一加工場の扉を慎重に押し開けていく。


 ――ギィイイイイ


 工場内に入って開けた扉の中で、現状において音が大きく聞こえる状態だった。


 ――ギキイイイィ、ギギギギ、ギイイイイィィィ


 あまりにも音が大きかったせいで、盛岡は途中で開けるのを止めてさらに慎重に少しずつ押した。しかし、聞こえる音の大きさに変動はなし。

 覚悟を決めたような表情で、彼は思いきって扉を開けた。完全に開けきった時、工場内ではまだ嗅いだことがなかった腐敗臭で満たされていた。


「うぷっ」

「くせぇ」

「鼻が……もげる」

「窓を探して開けないとな」


 あまりの腐敗臭に全員の足が止まる。それでも、鳥越は自分の班員を促して、中へと入った。


「ゥゥウウ」

「ァァァア゛ア゛ア゛」

「ゥゥゥウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ア゛」


 鳥越が入ったのと同時に奥の方からゾンビの唸り声。鼻を摘まんでいた盛岡も踏み込んで、即座に銃を構える。もう一人の班員は、鳥越と盛岡と同じように構えたが銃口は正面や下ではなく上の方向を向けて。


「ゥゥウ゛ア゛」

「ヴァァラア゛ア゛」

「ゥゥウウ゛ウ゛ウ゛」


 ――バシュ! ドチャ!!

 ――カシュン! ドチュ!

 ――パシュ! ビシャ!

 ――ビシュン! ドシャ!


 唸り声が聞こえたと同時に、奥から高所で使うような作業着を来たWZや、作務衣のWZに、作務衣の上に大きめのエプロンをしたWZなどが出てきた。

 そして出てきたと同時に、頭へとパチコン玉を食らって脳と血、それと眼球を床や近くの壁にぶちまけて死んでいく。射殺する瞬間を見ていた一騎は、ふと違和感を覚えてたった今、殺されたばかりのゾンビへと視線を固定。


「どうんしたんだい?」

「頭を撃たれたのに、飛び散った血の量が少ないと思いませんか? それに色も赤ではなく薄黒い」

「え?」


 鳥越は中村と一騎の会話を聞き、他にゾンビがいないかを警戒しながら射殺したうちの一体へと歩み寄る。そこで彼は確かに一騎の言った通りだと確認。

 何枚かのポケットティッシュを取り出し、屈んで血の上に乗せてみると血がティッシュに付着する範囲や広がる速度が少なくて遅いのを見た。


「確かに武藤くんの言った通りだ。 血の量は少ないし、既に固まり始めているぞ」

「ゥゥゥウ゛ウ゛ウ゛!!」

「ガァァァ゛ア゛ア゛」


 鳥越が確認を行った直後、また唸り声が。彼はすぐに立ち上がって、銃口を正面に向けながらゆっくりと自分の班と一騎たちのいる場所まで後退してくる。


 ――ドスーーーン!!

 ――ガシャーーーン!!


 二つのあまりにも大きな音が第一加工場に響き渡る。音の正体は、二階通路の柵から一階へと落ちてきたゾンビの音だ。一体は床にそのまま落下。

 もう一体は積み上げられていたプラスチック容器を、周囲にばら蒔きながら落ちてきた。


「ゥゥゥウ゛ウ゛」

「ァァァア゛ア゛ア゛ウ゛」

「ガァァァア゛ア゛」

「ウルゥゥゥウ゛ウ゛」

「ラァァァア゛ア゛」


 あまりにも音が大きかったせいか、加工場内のあらゆる場所からゾンビの唸り声。


 ――ガシャ、ガシャガシャ、ガッシャーーーーン!!


 派手な音と同時に室内に四ヶ所あったうちの扉の一つが壊れる。扉が外れる音と倒れた音に続くようにどれだけ入っていたんだと、誰もが言いたくなるほどのゾンビが。軽く四十体は超えていた。


「射殺するだけなら時間は掛からないが、派手な音だったからな。他のゾンビ共が集まってくるかもしれない。 ここは放置して、別の加工場を探しに向かうぞ」


 中村の言葉に全員が頷いて、自分たちが開けて入ったばかりの扉の外へと出る。そして、すぐに扉を閉めて一騎たちは小走りで動き始めた。


『一騎、大きな音が聞こえたが、どうしたのだよ!?』


 歩き出して早々に、車内待機中の創太から一騎の無線機へ通信が入った。


「音が聞こえたのか?」

『そうなのだよ。 なにがあったのだよ?』

「第一加工場を調べていたら、WZと遭遇。 これを鳥越さんの班が処理したら、今度は二階通路からゾンビが落下。その音によって、他のゾンビたちが別の扉を破壊して出てきたんだ」

『隠れていたのか?』

「噛まれたか、食われた人間が外から追ってくるゾンビから逃げるために隠れたんだろう。 他の人間と隠れたまではよかったが、そのままゾンビ化して他の生存者を襲った。

 大体こんなところだろうと思う。 まだ火薬が見つからないから、調べ回っている最中。 外の様子はどうだ?」

『こっちではゾンビの姿は見えないのだよ。 危険と判断したら、今回は火薬を諦めて逃げてくるのだよ』

「わかった」


 ――ドーーーン


「ゥゥウウ」

「ァァァアア」


 ――バシュン!

 ――パシュ!!


『一騎、大丈夫なのだよ!?』

「問題ない」


 一騎と創太の通信中に、備品室とプレートに書かれた扉が外れてゾンビが二体。すぐさま中村班によって射殺される。創太は無線機越しに聞こえた音に驚いた様子で、慌て気味に一騎へと確認する。

 答えた彼は備品室から漂ってくる腐敗臭に、鼻を摘まんで小走りで離れていく。この後、彼らは工場内のあちこちを移動しながら、慎重に扉を開けて中を確認。

 ゾンビに出てこられて、即射殺を何度か繰り返しながら一階部分を調べ終わり、二階へと上がっていく。


「あった」

「あったぞ」

「あったな」

「あったって?」

「発見だ」

「「「「「火薬だ!!!」」」」」

「静かにしてください」

「「「「す、すいません」」」」


 彼らが二階に上がって、南廊下を進んでいた途中で火薬保管倉庫と書かれた場所を発見。これを見て警官たちは、嬉しそうに声を上げた。

 その直後に、冷静に行動していた一騎から注意を受けて、一斉にシュンとした感じに。


「鍵が開いてるといいんですけどね」

「やってみよう」


 ――ギイィ


 鍵は掛かっておらず、しかも今まで一番静かに開かれた。だが、ここでも腐敗臭あり。ただし、複数のゾンビからではなく、一体だけだ。


「突入する。 中村班は俺たちが中を調べる間、階段からゾンビが上がってこないように見ていてくれ」

「了解。 気を付けろ」


 鳥越班が中へと入っていき、しばらくしてから発砲音があった。彼らはつくづく思っただろう。実銃じゃなくてよかったと。


「クリア。 黒色火薬に無煙火薬の二種類だ。かなりの量があるぞ」


 中村は自分の班員に廊下警戒を指示して、一騎と一緒に中へと入った。そこには、プラスチック容器やダンボール、既に癇癪玉に詰められた状態の物などが。


「なんとしても運び出すぞ」

「そうだな。武藤くんと俺で、ゾンビが来た場合は射殺する。 お前らは火薬を持てるだけ持ってくれ」

「ちょっと待った。 台車が四つある。これに乗せれるだけ乗せて、残りの人員でゾンビ射殺だ」

「鳥越さん、癇癪玉をいくつか渡してください」

「どうしたんだ?」

「ゾンビの数が多すぎて、射殺するのが大変な場合に投げて別の場所へ誘導します」

「そういうことか。 とりあえず三つ渡しておく」

「ありがとうございます」


 一騎は渡された癇癪玉をマガジンベストの予備空間へ、そっと入れる。途中で爆発したりしたら大変だから。鳥越たちが、台車に火薬の入った容器やダンボールを限界まで積み、火薬の確保完了。


「では車まで急いで戻りましょう」

「おう」

「ゾンビに噛まれたくもないし、食われたくもないからな」


 一騎と中村、盛岡がゾンビ射殺組で、中村班と鳥越班の残りメンバーが運搬係に。


「いいですか?」

「いいぞ」

「出発します」


 中村が先頭に立ち、一騎は中間で殿(しんがり)は盛岡。階段を降りる時だけは、一騎と運搬係で階段下へと協力して降ろしていく。


 ――ガキャーーーーーーン!!


「ヴァァァア゛ア゛」

「ァァァア゛ア゛ア゛」

「ゥゥウウウ」

「ガァァァアア」

「ウォォォォオ゛オ゛」


 階段を降りきって、搬入口から出ようと移動を開始した直後、WZの集団が第一加工場の扉を破壊して一騎たち目掛けて向かってくる。


「創太、車を搬入口まで移動させてくれ。 WZの団体が迫ってきた」

『搬入口なのだな。 すぐに向かうから、持ちこたえるのだよ』

「わかった。 中村さん、盛岡さん」

「あぁ」

「射撃開始だな」

「俺たちも車が到着するまでは、一緒に撃ってやるさ」


 鳥越と彼の班員の一人が台車を押さえたままで、五人がそれぞれの得物を向けて迫ってくるWZへと射撃開始。


 ――バシュ!

 ――バシュン!

 ――カシュ!

 ――カシュン!

 ――パシュ!

 ――パシュン!

 ――バシュ、バシュバシュ!


 火薬を一切使っていないからこその、抑えられた発砲音。次々と彼らはWZを撃つが、従業員や事務員だけでなく、学生やサラリーマンに主婦などの姿も。

 一体どこからこれだけ集まってきていたのか。射撃中の五人がそう思うほどの数だ。


 ――バシュ、バシュン!

 ――カシュ、カシュ、カカカシュン!

 ――パシュ、パシュパシュ、パパパパシュン!


 一騎たちが近付けさせまいと連射するが、WZは途切れそうにない。まるで、迫り来る波を無意味に撃っているような状態にしか見えない。

 ゾンビの死体が最低でも七十二体を超えた頃から、誰もカウントをしなくなった。


「早くシャッターを開けるのだよ!!」


 リロードをしていた一騎に、搬入口まで車を運転してきた創太が声を掛ける。中村は搬入口のシャッターを開けるべく、開閉ボタンを押すが全く反応しない。


「くそっ! どうにかして開けないと!!」


 中村は何か方法がないかと視線を巡らせると、そこには大型の発電機があった。彼は発電機まで走っていき、燃料が入っているのを確認。

 シャッターの開閉ボタンの下に垂れているコンセントを確認。発電機を起動させると、派手なドドドドドド!! と音を発生させてしまう。


 ――バシュ、バシュシュシュシュ、バシュン!

 ――カシュ、カシュ、カカカシュン!

 ――パシュ、パシュパシュ、パパパパシュン!


 中村はシャッターに付いているコンセントを確認すると、そこにはアンペア指定がある。そのアンペアを選択して、コンセントを発電機に。そしてシャッターの開閉ボタンを押した。


 ――ジリリリリリリリリリリリリ!!


 開閉ボタンから上に二、三メートルの高さにあったベルが鳴り響きながらシャッターを左右へと開かせていく。


「火薬を車へ!!」

「「「「了解!!!」」」」


 鳥越たちが火薬を乗せた台車を、バックして来たプリウスとパトカーのトランク部分へと押して走る。


「一体、どこからこんなに集まってくるんだよ!!」

「知るかよ! そんなことよりも撃ち続けろ!!」

「っくそ! このままじゃ持ってきたパチンコ玉を全部使っても、その数を上回られたら食われちまう!!」


 一騎たちが向かってくるWZをひたすら撃って、少しでも時間を稼ごうとするが、シャッターの開閉が終わるまで鳴り止む気配のないベルの音が周囲のゾンビを呼び寄せてしまっている。

 WZは射殺された他のゾンビの死体を乗り越えながら、まっすぐに一騎たちへと迫る。WZたちは開閉ベルの音に引き寄せられ、車に火薬を乗せるために動いている人影へと向かおうと前進。


 一騎たちが少しでも数を撃って、噛まれたり食べられたりするリスクを下げようとするも多すぎた。しかも、リロードをしている最中は、空のマガジンを予備マガジンを取り出した空きスペースへと入れる作業をするせいで、距離が少しずつ縮まっていく。


「止まった!!」


 五分以上も鳴り続けていたベルが止まった。完全にシャッターが左右に開いたことで、開閉を知らせる役目を終えたのだ。中村の叫びにも似た声を聞いた直後、一騎はMP7A1改から手を離す。


「飛んでけええええぇぇぇぇぇ!!!!」


 一騎は大きな癇癪玉を一つ握ると、高く遠くへと全力投擲した。彼がまっすぐに投げなかったのは、命中や落下した場所から一騎たちの姿をはっきりと見れると困るからだ。


 ――バーーーーーーーーーーン!!!!!


 癇癪玉が落ちて、見事な爆発音を響かせたのは工場の屋根部分。爆発音と同時に一騎たちは、発砲と積み込みを中止してエンジンも停止する。WZたちもピタリと足を止めて、唸り声も上げずに視線を上へと向けていた。


「ゥゥウウウ」

「ァァァアアアア」

「ヴァアアァァア゛ア゛」

「ウ゛ウ゛ウ゛」


 しばらく静まり返っていたが、WZたちは爆発音の聞こえた屋根の方向へと向かうべく引き返していく。


「今のうちです」


 姿が完全に見えなくなった直後、一騎は小声で中村たちに告げた。彼らは一斉に頷くと、見事な連携で台車に乗せていた火薬を、車内へと運び込んだ。

 そして積み込みが終わり、全員が乗車した頃。一羽のカラスが屋根へと舞い降りる。そして、チョイチョイと歩き出したことによって、金属を爪で引っ掻くような絶妙に嫌な音が。

 その音源へとWZたちが、なんとしてでも音源にたどり着こうとしている間に車は発進した。


「ヴァアアァァァアアア!」

「ゥゥウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!」

「グゥゥゥア゛ア゛ア゛!!」


 彼らの乗るプリウスとパトカーが走り出した瞬間、エンジン音を聞いたゾンビ三体が唸り声を上げる。まるで逃がさないぞ、とでも言いたげに。


 ――パキーーーン

 ――バリーーーン

 ――ガシャーーーン


 二階のガラスを叩き割って、三体が地上へと落ちる。グシャっと骨が砕ける音がしたのに、立ち上がった三体は去っていこうとする一騎たちの乗る車を追い始めた。


「RZ、三体確認」

『了解!』

『了解、後部座席の窓を開けて、射殺しておく』


 一騎は音を聞いた時点で振り返っていて、RZ三体を視認。彼が無線機でパトカーへと伝えると、一番後ろを走っていた鳥越班が窓を開けて発砲。

 両足を吹き飛ばされても、両腕で這ってでも追おうとするRZたちの頭を撃った。追ってくるゾンビがいなくなったのを誰もが認識して、急いでマンションへと帰っていく。




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