31.邪竜、【友人】の家に泊めてもらう【前編】
お世話になってます!
今回は前中後編となってます。
カミィーナを出て半日以上。
テクマ川を超えて、息子達一行は、王都シェアノへとたどり着いた。
大陸北部の都市シェアノ。
王の城のあるこの都市は、この国最大の人口密度を誇る。
人も物も集まるここは、毎日がお祭りのような賑やかさを醸し出していた。
夕方にシェアノへ到着したリュージ達は、そのまま宿へと直行した。
王都観光……としゃれ込みたいが、しかし今日はもうヘトヘト。
よって今日はすぐに床へ入り、明日に備えようとなった次第だ。
さて。
事件はリュージ達が、予約を取っていた宿に着いた時に起きた。
「部屋が1つしか空いてないですってぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
宿のフロントにて。
冒険者に変装したカルマが、絶叫する。
「宿はあらかじめ2部屋取っていたのではないのですか!? こっちは男女混成の冒険者ですよっ!? どうして1部屋しかないのですかー!」
カルマは血走った目で、受付嬢の襟首をつかみ、ぶんぶんと揺する。
「す、すみません~……」
「か、カーサン落ち着いてください。離してっ!」
「ぐ……ぐぬぬ……」
息子が落ち着けというのなら、たとえ怒り狂っていても冷静になる母。
ぱっ……と受付嬢から手を離す。
「あの……それでどうして予約が変更になったのでしょうか?」
リュージが受付嬢に尋ねる。
「すみません、こちらの手違いです。カミィーナのギルドからは冒険者の二人組が宿泊するから宿を……と連絡が来ていたのです」
「部屋を2部屋じゃなく、二人来ると連絡があったんですね?」と息子。
「はい。二人組の冒険者は、同性の方が多いのです。まさか異性同士の二人組とは思ってなくて……」
宿側は勘違いしたわけだ。
同性の二人組なら、同じ部屋に泊まるだろうと。
「確認不足ですよっ! まったくもうっ! 何をやっているのですかっ!」
カルマが食ってかかる。受付嬢はペコペコと頭を下げていた。
「あの、今からもう一部屋とることって可能でしょうか?」
受付嬢が表情を曇らせる。
「それがもう満室でして……。予約していた一部屋しかご案内できないのです」
「そう……なんですか」
「はい。それと他の宿にも部屋のあきがないかを確認取ったのですが、どこも満室で、今から2部屋を用意できる宿はないそうです……。本当に申し訳ございません……」
消え入りそうな声で、受付嬢が言った。
「いえ、気にしないでください。誰だってミスしますし」
ただ……と困った顔でリュージが、シーラと、そしてカルマを見てくる。
特にシーラを見て、リュージは顔を赤くしてうつむいた。
シーラも同様で、顔を真っ赤にして、もじもじとしている。
母は思った。
ラブコメの波動を感じると。
禁止! 不純異性交遊は禁止-!
カルマは絶叫したかった。年頃の男女が、同じ部屋で、同じベッドで! 寝るなんてー!
とカルマは動揺しまくっていた。
「あ、あの……そのぉ……」
シーラがおそるおそる手を上げる。
「しーらは、その、馬車で寝ても良いのです。だから……」
「そんな! だめだよシーラ! 風邪引いちゃう!」
焦ったリュージがかぶりを振るう。
カルマとしても、まあ、シーラにも風邪を引いても欲しくはないので、馬車はやめて欲しかった。
「で、でもぉ……しーらは、その……りゅ、リュージくんと同じ部屋でなんて……は、はずかしくって……」
両手で顔を隠すシーラ。息子も同様に恥ずかしそうにうつむいている。
いかん。これはまずいぞ。どうにかしないと……!
このままでは息子とその友人の少女が、同じ部屋で寝て、同じベッドで寝て、そしてゴールインしてしまう!
それはダメだ。絶対にダメだ。まだシーラを息子の嫁にふさわしいと、認めた訳ではないのだ。
同じ部屋で、なんとしても、寝かせるわけにはいかない。
どうする……シーラを魔法で性転換させるか?
いやそれだとさすがマズい。
何か……何か他に手はないか……。
何か……と考えた末に、カルマ、天啓を得る。
宿がダメなら……別の場所に泊まれば良い!
何も宿だけが泊まるところじゃない!
ここ王都には、あるではないか。
泊まれる場所が、他にも。
「リュージさん。シーラさん。別の場所に泊まるのはどうでしょう」
「別の場所……ですか?」
「でも、でもでも、宿はどこも満室だってさっき……」
カルマは首を横に振る。
「私、王都に知り合いが住んでいるのですよ。その方の家に泊めてもらうのはどうでしょうか?」
カルマがふたりに尋ねると、「「知り合い?」」と首をかしげる。
「ええ。古い友人がここ王都に住んでいるのです。その人は私に対して、とっても大きな借りがあるんです。だから私の言うことなら、結構何でも聞いてくれるんです」
そう、【彼女】はカルマに対して、大きな恩がある。
なにせ勇者の代わりに、世界を救ったという、大きすぎる恩があるのだ。
【うち】に泊めてくれ、なんて些細な願い、聞き届けてくれるだろう。
「どうでしょう? その人の家、まあ結構広いので、空いてる部屋も多いでしょう。別々に1泊することくらいならできると思いますが……」
リュージは「ええと、良いんですか、そんな急に……」と遠慮している。
「遠慮する必要ありませんよ。急に私が尋ねていっても、彼女は快く会ってくれるでしょうし、快く部屋を提供してくれると思いますよ」
自信満々にカルマが答える。
「それなら……その、申し訳ないですけど……お願いしても良いでしょうか?」
カルマはこくり、とうなずく。
「ではアポイントを取ってきますので、リュージさん達はここでお待ちください」
息子達がうなずいたので、カルマはひとり、宿を出る。
「チェキータ。出てきなさい」
すぅ……っと、監視者エルフのチェキータが、カルマの前に出現する。
「ハァイ。カルマ。何か用事?」
「用事がなければあなたなんて呼びませんよ」
「つれないわねー。用事がなくても呼んでいいのよ~」
チェキータがなれなれしく腕を首に回してくる。
「それでお姉さんに何の用事?
「ちょっとアポイントを取ってきてください。泊まって良いかって」
「ふーん。いいけど、誰に?」
カルマは「決まってるじゃないですか。あなたの上司にですよ」と答える。
チェキータは首をかしげた後、何かに気付いた表情になり、ケラケラと笑い出す。
「あーっおっかしー。カルマ、あんたってほーんと、規格外よね~。図々しいっていうか」
「別に図々しくないでしょう。彼女は私にそれくらいの恩義は感じてるでしょう」
「ま、そーね。邪神を倒して世界を救ったものね」
わかったわ、とチェキータ。
「じゃあちょっとお姉さん、お城に行って聞いてくるわね」
「お願いします」
というと、チェキータはすぅ……っと姿を消した。
ややあって、カルマの前に、チェキータが姿を現す。
「おっけーだって」
「わかりました。ではりゅー君達とそちらへ向かいます」
カルマはその場を後にして、宿に戻る。
そして息子達を連れて、【彼女】の住む場所へと向かったのだった。
王の住む、お城へと。




