表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険に、ついてこないでお母さん! 〜 超過保護な最強ドラゴンに育てられた息子、母親同伴で冒険者になる  作者: 茨木野
11章「最終決戦編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

379/383

182.邪竜、息子の帰りを信じて待つ【前編】



 リュージがこの星を救ってから、半年が経過しようとしていた。


「ハァイ、カルマ」


 カミィーナにある、カルマたちの家に、チェキータがやってきた。


「また来たのですか? 暇なのですね、あなた」


 ふぅ、とカルマがあきれたように吐息をつく。


 だが以前のようにチェキータに対する刺々しさはなりを潜めていた。


 カルマはお茶を入れて、チェキータにティーカップを差し出す。


「暇じゃないわ。王国の騎士として、国の平和を日々守っているもの」


 チェキータは元王国騎士団長。


 娘の自殺をきっかけに団長を退役。

 監視者としてカルマを監視する役を担っていた。


 だがカルマアビスは邪神の力を失った。


 チェキータもまた、自分の心に刺さったとげが失った。


 だから、チェキータは騎士としてまた働き出したのである。


「街の人たちは、そのご様子はどうです?」


「そうね、半年も経てばさすがに、世界蛇ヨルムンガンドやベリアルによる恐怖も薄れてきてるわね。街の被害も、リューのおかげでゼロだったし」


 チェキータがリュージの名前を呼ぶと、少しさみしそうに目を細める。


 リュージが宇宙へと旅立っていった後、大きな爆発が遙か上空で起きた。


 彼の放った聖なる光は、ヨルムンガンドによって傷付いた大地を癒した。


 世界蛇の毒によって犯された大気も海も大地も、勇者の持つ浄化の力で元通りになったのだ。


 毒によって命を失った物たちもまた、息を吹き返した。


 かくしてメデューサたちの計画は、死傷者ゼロという、規模から考えればあり得ない結果となった。


 ……ただひとりの、犠牲を除いて。


「チェキータ。そんな顔、しないでください」


 ハッ……! とチェキータが顔を上げる。

 カルマは微笑んで、静かに紅茶をすする。

「りゅーくんは、帰ってきます。必ず」


「……そうね」


 とはいうものの、チェキータはリュージが無事だとは考えていなかった。


 チェキータたちと分かれた後、彼はひとり、落下する月を止めにいった。


 月にとりついていた邪神を破壊し、月は元の位置へと戻った。


 汚されたこの星は元に戻り、邪悪なる神は滅びた。元の平和を取り戻した。


 だが……一番の功労者であるリュージは、未だ帰ってこない。


 さすがに半年経っても、何の音沙汰もなければ、嫌でも考えてしまう。


 リュージは、戦いの末に死んでしまったのだと。


「死んでいませんよ」


 カルマは、チェキータの心を見透かしたように言う。


「私たちの息子は、約束を破るような子じゃないでしょう?」


「カルマ……」


 この子は、あの日からずっと信じ続けている。


 リュージが約束を守り、無事ここへと帰ってくることを。


 いつ帰ってきても良いように、この半年間ずっと、三食毎回彼の分までつくっている。


 リュージの部屋はいつだってピカピカに掃除されていた。疲れた息子が安眠できるよう、常にシーツは新品同様。


 それはすべて、リュージがカルマとかわした約束を、きちんと守る。


 そう固く、カルマが信じているからだ。


「帰ってくるわ。必ず、りゅーくんは」


 そう告げるカルマは、普段以上に優しい笑みを浮かべていた。


 だがチェキータには、泣きそうになるのを、必死になって我慢している子供にしか見えなかった。


 そんなカルマのことを、チェキータは優しく抱きしめようとする。


 だが……やめる。


「わかったわ。わたしは信じる。あなたが信じた、息子のことを」


 チェキータは立ち上がると、玄関へと向かう。


「ハグしないのですね」


「優しくするだけが母親じゃないのよ?」


「釈迦に説法ですよ。ほら、いったいった」


 しっし、とカルマが手を払う。


 チェキータ微笑むと、きびすを返して玄関を潜る。


「カルマ。……泣きたくなったら、いつでも呼んでね」


「不要です。子供じゃないんですから」


「それもそうね。じゃ、カルマ」


 チェキータはフッ……と煙のように消えた。


 あとにはカルマだけが残される。


 からになったティーカップをもって、台所でそれを洗う。


「…………」


 台所には、リュージの使っていた食器が、まだおいてある。


 彼のお箸も、お気に入りのマグカップも。

 息子が使っていた日用品は、すべて取っておいた。


「ねえ……りゅーくん。いつになったら……帰ってくるの?」


 カルマは震える声で、ここにいない息子へ向かって言う。


「あなたが出て行って、もう半年になるわ。シーラとルトラは冒険者としてのランクを、どんどん上げていっている。この間Aランクになったわ。このままじゃ置いていかれちゃうわよ?」


 カルマは、肩をふるわせる。


「ルコとバブコは、最近学校に通うようになったの。あなたのような強くて賢い子になりたいからって。早く帰ってこないと、娘たちは卒業式を迎えてしまうわ」


 カルマの手が、止まる。


「……ねえ、りゅーくん。もう、」


 もう、帰ってこないの?


 ……弱音を吐きそうになるのを、カルマがグッとこらえる。


「私、泣かないわ。絶対に泣かないもの。だってあなたが帰ってくるって、信じてるもの。信じて……るから」


 その場にしゃがみ込む。

 そして……小さくつぶやく。


「早く帰ってきてよぉ……りゅーくん……」


 カルマは鼻をすする。

 だが涙は決して流さなかった。


 泣いてしまうと言うことは、リュージの死を受け入れてしまうことだから。


 それは、息子の言葉を、帰りを、信じることをやめることになるから。


 ややあって、カルマは立ち上がる。


「もう……そろそろ半年。もう……駄目なの、りゅーくん……?」


 と、そのときだ。


 ドガァアアアアアアアアアアアアアン!


「な、なに!?」


 カルマは目を白黒させる。


 急に、家の壁が破壊されたのだ。


「けほこほ……着地失敗しちゃった。着地点間違えちゃったみたい……」


 もくもくと立ち上る土煙の向こうに……カルマは見た。


 そこいたのは、黒髪の少年。


 愛しい愛しい、ひとりの男の子。


 そう、そこにいたのは……。


「りゅー、くん……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ