179.エルフ、因縁にケリをつける【前編】
リュージとカルマ、そしてベリアルの最後の戦いが開始された、一方その頃。
魔王城内部の、研究室にて。
「バカな……あり得ない……あの偽物親子が、どうして復活したの……?」
白髪のヘビ女、メデューサは、驚愕の表情を浮かべていた。
世界蛇ヨルムンガンドを通して見えてくるのは、完全復活した邪神王ベリアル……だけでない。
彼の前に立ち塞がる、ひと組の親子がいた。
黒髪の少年、リュージ。
そして同じ色の髪の母、カルマ。
「何か愉快なことでも起きているのかしら……?」
満身創痍のチェキータ・デルフリンガーが、にやり……と笑う。
「あなたが不要と切り捨てたものたちが、予想外の力をつけて戻ってきたことが……そんなに意外?」
「黙れぇ!」
メデューサは図星をつかれ、怒りをあらわにする。
倒れ伏すチェキータに、蹴りを食らわせようとする。
だがエルフはそれを、バク転で華麗に回避してみせる。
そして懐から煙り玉を取り出すと、足下に投げつけた。
ボシュッ……!
「煙幕か! こざかしい!」
「予言してあげるわ、【お母さん】」
【チェキータ】の声が、どこからか響き渡る。
「あなたは、負ける。自分が見下していた、勝手にいらないと捨てたものたちの手によって」
ギリ……とメデューサは歯がみする。
大量の蛇を操作し、周辺にいるはずのチェキータに攻撃命令を出す。
だが本体が視認できぬ以上、蛇たちがチェキータを補足できるわけがなかった。
ふっ、と背後に人影を感じる。
「そこだぁ!」
メデューサは首に巻いてあった白蛇を伸ばし、背後のそいつにかみつかせる。
ザシュッ……!
奇襲をかけようとしたチェキータの首に、蛇が食らいついていた。
「これでおしまいよデルフリンガー! その毒は死毒! 耐性のないおまえは物の数秒で死ぬわ!」
勝ち誇った笑みを浮かべるメデューサ。
しかし……にやり、とチェキータは不敵に笑った。
「耐性はあるわよ……【お母さん】!」
「セヤァアアアアアアアアアアア!」
ザシュッ……!
メデューサは激しい痛みを感じた。
振り返り、そして目をむく。
「なっ!? で、デルフリンガーが……ふたり!?」
蛇がかみついているはずのエルフと、背後で一撃を食らわせたエルフ。
ふたりのチェキータが、そこにいたのだ。




