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冒険に、ついてこないでお母さん! 〜 超過保護な最強ドラゴンに育てられた息子、母親同伴で冒険者になる  作者: 茨木野
11章「最終決戦編」

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177.息子、立ち上がる【後編】



 確固たる自分を取り戻したリュージ。


「さぁりゅーくん、涙を拭いて。一緒にいきましょう」


 カルマはリュージの抱擁を解いて、手を引いて言う。


「行くって……?」


「私と一緒に世界を救うのです」


 そうだ……今世界は、ヨルムンガンドやベリアルのせいで、大変なことになっているのだった。


「世界を救うなんて……無理だよ」


「どうしてですか?」


「だって……僕は……無力だから」


 せっかく立ち直ったリュージだったが、また心が沈んでしまう。


「僕は……勇者様から力を引き継いだのに、全然ダメダメなんだ。僕なんかが行ったところで……足手まといにしかならないよ……」


「そんなこと……」


「そんなことあるよ。……母さんだってよく知ってるでしょう? 僕は弱いんだ。何もできない、無力なガキなんだ。どうして、僕みたいな味噌っかすに……勇者様は力なんて授けたんだろ……」


 リュージは母を弱々しく見上げる。


「ねえ母さん、母さんがなんとかしてよ……。僕がいても何もできないよ」


 と、そのときである。


 パシッ……!


 ……と、誰かが、リュージのほおをぶったのだ。


「え? ……え?」


 リュージは、目を丸くする。


 自分のほおをぶったのは、誰であろう、自分の母だったのだ。


「甘えたことを、言うんじゃありません」


 ぽかんと、リュージが口を開く。


「いいですかりゅーくん。あなたはすごい子。何でもできる子です。そんなふうに自分を卑下しないで。自分を悪く言わないで。あなたならできる」


 力強く母が言う。


 嘘偽りのない言葉を投げかけてくる。


「あなたにはすごい力がある。それは世界を救う力。けどそれを持つあなたがそんな弱気では、正しく発揮されない力です」


 カルマは優しくも、しかし厳しい表情で言う。


「あなたが世界を救うのです。いつまでも母がなんとかしてくれると、甘えていていけません」


 ……リュージは驚いた。


 あの、いつも息子に甘い母が。


 今、息子のほおをぶっただけでなく、厳しい言葉を投げかけてくる。


 今までだったら、そんなこと一度もしたことがなかったのに。


 ……けれど、不思議と嫌じゃなかった。


 厳しさはつまり、自分への信頼の裏返しだから。


「あなたにはできる。自信をもって」


 母の言葉がリュージを励ます。


 体に力がわいてきた。


 それは自分の存在が確立されたこととの安定感。


 そして何より、自分にはできるんだという、みなぎる自信。


 今、彼の体は、かつて無い程に気力に満ちていた。


「母さん……」


 リュージはその手に、聖剣を出現させる。

 そして、真っ黒な空間を、切り裂いた。


 キンッ……!


 ずぉおおおおおおおおお!


 メデューサの張った結界が、今の一撃で破壊されたのだ。


「僕……不思議なんだ。何でもできそうな気がするんだ!」


 母の瞳に映るリュージの眼には、先ほどまであったおどおどとした少年はいない。

  

 凜とした表情の、男がそこにいた。


「当たり前です。だってあなたは最強わたしの息子なんですよ。なんだってできて当然です」


「うん!」


 リュージはカルマの手を握る。


 そしてふわり……と体を浮かせた。


 浮遊魔法。

 リュージには、使えなかった、勇者が持つ力の一つ。


「さぁ、行きましょう!」


「うん、行こう!」


 リュージは輝く流星となって、その場から凄まじい早さで立ち去る。


 勇者誕生、その瞬間であった。

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