177.息子、立ち上がる【中編2】
「愛って……なにさ?」
「あなたを愛おしいと感じる心です」
カルマはリュージを抱き寄せて、その黒髪を優しくなでる。
「りゅーくん。あなたをこうして抱いているとね、心がふわふわと暖かくなるの。あなたがそばにいるだけで毎日が幸せなの。あなたは私にとっては大切でかけがえ無い、愛おしい存在なの」
母は、リュージを見て笑う。
「りゅーくんも……そう思わない?」
じわり……とリュージの心に、暖かなものが流れ込んでくる。
「……僕もだよ」
そう、リュージも同じだ。
母がそばに居るだけで心が温かくなるし、幸せになれる。
カルマはリュージにとってのかけがえのない存在なのだ。
「私たちにはきちんと、親子の愛が存在する。なら私たちは本当の親子よ。たとえそこに血のつながりがなくても、あなたが作り物だとしても」
母が笑って続ける。
「私たち親子の愛と絆は、本物じゃないですか」
……リュージは、崩れ落ちそうになるほどの、安堵を覚えた。
それは自分の存在が、確固たるものへと変わったから生じる安心感だろう。
「……僕は」
ほおを伝う暖かな涙を感じながら、母に言う。
「僕は……母さんの息子で、いいの?」
母はニカッと笑うと、大きくうなずく。
「当たり前じゃないですか。私の息子はあなたをおいて他に居ない。あなたは、最高の息子です」
「母さん……う……ぐす……うわぁああああああああああああああん!」
リュージは母の体をきつく抱き返す。
「母さんごめんね! 酷いこといっぱい言ってごめんね!」
「良いのよ。大丈夫、あれは私のことを思ってわざと酷いことを言っていたのよね。私はちゃんとわかっていますよ」
リュージは……わかった気がした。
母親とは、どんな存在であるかを。
たとえ、息子との間に何があろうと、どんなことをされようと。
大空のような広い心と、羽毛のような柔らかな愛で包み込んでくれる。
それが母親であり、それが親子の愛と言うことに。
……すなわち、目の前に居るこの人が、自分の本当の母親なのだと。
たとえ血がつながっていなくとも、たとえ、この親子関係が……誰かの手によって意図されたものだとしても。
今カルマに感じているこの愛おしさが親子の愛であり、今目の前に居る愛おしい存在が母なのだと。
リュージはそう……理解したのだった。




