175.エルフ、決して希望を諦めない【中編】
チェキータがメデューサに近づいてくる。
ぐ……っと力を込めるが、立ち上がれない。
それほどまでにダメージが深刻だった。
「無駄なのに、どうして立ち上がろうとするの?」
メデューサは両手を広げる。
そこに【窓】が開いた。
窓からは、別の場所が移っている。
どうやら遠くのものを見る千里眼のような魔法らしい。
窓には、白髪の魔神がいた。
その足元に、ルコたちがボロ雑巾のように転がっている。
「見て、美しいお姿でしょう? 邪神王ベリアルは、完全に復活したのよ?」
「…………」
「これで終わる。最強無比のかの邪神に、誰もかなうものはいないわ。……対抗手段は、使い物にならないしね」
対抗手段、つまりカルマおよびリュージのことだろう。
「…………」
ぐぐっ、とチェキータがまだ立ち上がろうとする。
そして、メデューサを見上げる。
メデューサはエルフの目を見て、不快そうに顔をゆがめる。
「……どうして、そんな目ができるのかしら? 理解できていないのかしらね」
白髪女は足を振り上げて、チェキータの頭を踏み潰す。
「いい? あなたたちは負けたの? 邪神王は完全に復活したの? わたくしたちの完璧なる勝利なの? なのに、どうしてまだそんな希望に満ちた目を向けているの!?」
メデューサは苛立っていた。
おそらく、チェキータたちが絶望に歪むその顔を、見て楽しもうとしていたからだろう。
「……負けて、ない」
ぐっ……とチェキータは目だけでメデューサを見上げる。
「……【アタシ】たちは、負けてない」
「ハッ! 強がりも大概にしなさい!」
ガンッ! ガンッ! とメデューサが何度も、エルフを踏みつける。
「……アタシたちには、まだ希望がある」
希望。
それは、あの二人の親子のことだ。
「ははっ! あんな出来損ないどもに何を期待してるのか知らないけど、無駄よ!」
ガンッ……! とチェキータを強く蹴り飛ばす。
「あの竜も、あの勇者もどきも! ベリアル様が至高なる存在に至るための捨て石に過ぎないのよ!」
メデューサが邪悪なる笑みを浮かべる。
「あんな偽物どもでは、本物の強者である我々にかなうわけがない。偽物の親子。借り物の力。所詮すべては、ベリアル様に比べたらちっぽけなものなのよ!」




