172.それぞれの戦い【中編】
一方でルコとバブコは、ベリアルの待つであろう場所へ向かって歩いていた。
「…………」
バブコは隣を歩く褐色幼女を見やる。
普段ぼうっとしている彼女だが、今は緊張しているのだろう。
なにもしゃべらず、口をきゅっと閉じている。
「ルコよ。そう緊張するでない」
バブコは立ち止まり、ルコの手を握る。
「るぅ。きんちょう。してぬ」
ぷるぷる、とルコが首を振る。
「いや、おぬしめっちゃ手に汗かいてるんじゃが……」
「してぬ。してぬ」
ぷるぷるぷる、とルコが首を振る。
「嘘をつかずともよい。ベリアルの強さが桁外れであることは、わしら四天王がよく知っておるからな」
彼我の実力差に、圧倒的なまでの差があることは先刻承知済みだ。
それでも、ルコたちはこの道を選んだ。
「みんな。やるべこと。ある。るぅたち。おうえんする。それ。しごと」
「……そうじゃな」
カルマは息子を助けるという使命。
チェキータたちは世界を救い、過去との決着をつけに行く。
それぞれが抱える者がある。
その手助けを、ルコたちはしたいと思った。
「わしらには……何もない。かつてのわしらはただ破壊するだけのむなしい存在じゃった」
「けど。ぱぱ。かるま。あたえてくれた。たくさん。たくさん」
カルマたちとであってから、二人の運命はガラッと変わった。
あの親子が救ってくれた。
最低で最悪な日々から、すくい上げてくれたのだ。
「ああ、わしらが今度は返す番だ」
バブコはルコとともに、通路を進んでいく。
やがて……玉座の間へとやってくる。
「ここか」
「ばぶこ。あそこ。おおきな。マユ」
玉座の上に、真っ白なマユが、天井に張り付いている。
その奥からベリアルの魔力を感じた。
「破壊するぞ」
「! まって!」
そのときだ。
ずどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!
天井から、何か巨大なものが落ちてきたのだ。
「ハッ……! やはり、一筋縄ではいかぬか」
「よるむんがんど。どうして……?」
そこにいたのは、世界蛇【ヨルムンガンド】だ。
「地上にいる奴を転送したのか、あるいはあらかじめ2匹作っていたのか……。いずれにしろ、あの化け物を倒さぬ限り、ベリアルを止めることはできぬようじゃな」
バブコは両手を広げる。
彼女の周りに、無数の爆炎虫たちがまとわりつく。
ルコは目を輝かせ、念動力を高める。
「ばぶこ。こわい?」
「ハッ……! まさか。そんなわけなかろう」
バブコは敵をにらみつけて言う。
「化け物なんぞ、毎日のように見ていたわ。あの最強ドラゴンと比べたら、こんなやつ、トカゲに等しいわ!」
だっ……! とバブコとルコは、ヨルムンガンドへ向けて駆けだしたのだった。




