168.邪竜、息子を救出に向かう【中編】
カルマに、リュージの真実を知られてしまったチェキータ。
涙を流し謝罪する彼女を、カルマは優しく抱きしめた。
「怒ってないの……?」
「何に怒るというのですか。国が邪竜を危険視していることはわかってましたよ。爆弾を放置しておくのはおかしいなと思っていましたから」
チェキータはカルマを見上げる。
驚くほど、穏やかな表情をしていた。
「息子を、軍事に利用された……怒ってるのだと思ってたわ」
「まあ……ね。私にも思うところはあります。けど……違うのでしょう?」
カルマは微笑む。
「りゅーくんからはそんなそぶりを一切見せていなかった。つまり計画を知らされていないどころから、計画から遠ざけられている節すらあった。あなたが……私たちを、悪意から遠ざけていてくれたんですね」
深々と、カルマが頭を下げる。
「あの子と私を守ってくれて、ありがとう」
「カルマ……」
チェキータは瞠目した。
以前のカルマであったら、リュージを軍事利用したと怒り散らし、世界すら滅んでいたところだろう。
そして、たとえ相手が長年連れ添った友人であっても、手を上げたに違いない。
「……あなた、本当にカルマ?」
「失礼な女ですね。私は私ですよ」
屈託なく笑う彼女は、確かに自分の知るカルマアビスだ。
だが以前とは比べものにならないくらい……穏やかな雰囲気を身につけている。
「チェキータ。私はあなたを責めるつもりは一切ありません。だからそんな、おびえた表情をしないでください。ね?」
にこりと笑うカルマアビスに、チェキータは、ぽろり……と目から涙をこぼした。
「う……ぐす……ごめんねカルマ……黙っててごめんね……」
「泣かないでくださいよ。いいんですって。いつもありがとう。感謝してます」




