166.息子、捕まる【中編】
カミィーナ郊外にて。
突如出現した謎の巨大な蛇を前に、リュージは困惑した。
「あら、坊や。ごきげんよう」
「メデューサ……」
蛇の頭にのっていたのは、先ほど真実を告げた白髪女性、メデューサだった。
「この蛇は……いったい……?」
「これは世界蛇ヨルムンガンド。この人間の世を終わらせるために作られし邪悪なる蛇よ」
「なっ!? なんだって!?」
リュージはそこで気づく。
ヨルムンガンドの通った後の大地が、死滅していることに。
「ひどい……」
通った後には草1本も生えず、澄んだ空は世界蛇の出す毒によって濁っていた。
「なんでこんなことするんだっ!」
「世界をあるべき姿に戻すためよ」
「こんな惨状があるべき姿だって!? ふざけるな!」
「いいえ、ふざけていないわ。だってこの世界はベリアル様の手によって、破壊され、死の星となるはずだったのよ。それをあのドラゴンが邪魔したから、こんな醜い世界になってしまった」
「醜い……だって……?」
メデューサは真顔でうなずいて、ゴミ山を見るような目で、無事である大地を見渡す。
「どこもかしこも生命の息吹を感じさせる……こんな醜い土地など、今すぐに壊すべきよ」
「ふざ……けるな!」
リュージは勇者からもらった聖なる剣を取り出す。
「みんなが生きてる、この星を汚そうとするなら……僕が許さないぞ!」
だっ……! とリュージは聖剣を携え走り出す。
勇者の力を受け継いだリュージは、疾風のごとく走り抜ける。
ヨルムンガンドの眼前までやってくる。
「この剣は勇者の剣……! おまえのような邪悪な存在には効果てきめんの聖なる剣だ! たぁ……!」
がきーん!
「なっ!? どうして!?」
聖剣ははじかれて、リュージの手から音いる。
いそいでそれを拾い上げ、何度も世界蛇に切りつけようとする。
がきーん!
がきーん!
がきーん!
「くそっ! どうして!? どうしてだよ!? なんでユートさんからもらった剣がきかないんだ!?」
世界蛇はその巨大な尾を、リュージの横っ面めがけて降る。
「くっ……!」
剣の腹でそれを受け止めようとするが、しかし軽々と、リュージは吹き飛ばされる。
「なんで……どうして……勇者の力を受けついただのに……」
夢の中で見た勇者ユートの力は、こんなものではなかった。
大地を砕き、魔王の攻撃を受けてもびくともしていなかった。
そんな彼と同じ力を持っているはずなのに、このざまだ。
「それはね、坊や」
メデューサがにぃ……と邪悪に笑って言う。
「あなたが勇者の力を、拒んでいるからよ」
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