162.邪竜、その身を差し出す【中編】
突如として来訪した、魔王四天王のひとりメデューサ。
「私の力を……取り除くですって?」
カルマは警戒しながら、メデューサを見やる。
「そう警戒しないで。わたくしは善意で、あなたたち親子を救おうとしているの」
「……どういうことですか?」
メデューサは地上へと降り立つ。
「今、息子リュージの勇者の力によって、あなたは死の危機に瀕している。それは理解できて?」
カルマは思い出す。
リュージに掴んだ瞬間、凄まじい電流が走った。
本来、傷つけることができないはずのカルマの体。
しかしそれをリュージは破り、カルマの体に甚大なダメージを与えた。
「今、あなたは立っているのがやっとの状態よ。勇者の力はどんどんと増している。明日にでもあなたは死んでしまうでしょうね。……このままでは」
「何か打開策があるのですか?」
「ええ、もちろん。簡単なことよ。あなたの体からベリアル様の力を抜き取ればいい」
「邪神王の力を……? そんなことが可能なのです?」
メデューサはにんまりわらってうなずく。
「ええ、簡単よ。ものの数秒で手術は終わるわ。そうすればあなたは、もう近づいても傷つくことはない」
だったら……とカルマは二つ返事をしようとする。
「待て、カルマ」
それを制止したのは、母マキナだった。
「メデューサ。貴様、取り出したベリアルの力、どうするつもりだ?」
マキナは油断なく、メデューサを見やる。
「それはもちろん、本来の持ち主へと返還しますわ」
「……それはつまり、邪神王にその力を返すと言うことか?」
邪神王ベリアル。
かつてカルマが殺した神の名前だ。
「もちろん、あなたのおっしゃるとおりですわ、マキナ」
「……勇者の遺体を使い、この世にベリアルを復活させたのか」
にやり、とメデューサは笑う。
「よくわかりませんが、さっさとベリアルの力を取り除いてください!」
カルマは悲痛なる叫びをこぼす。
「私はこんな力、いりません!」
「カルマ!」
マキナはカルマの腕を引っ張って言う。
「そんなことをしてみろ! この世界は滅ぶぞ!」
マキナがカルマに言う。
それは、母親が子供を叱りつけるような……まあ実際そうなのだが、そんな感じがした。
「この女はベリアルを完全復活させる気だ! 貴様から邪神の力を抜いたら最後、ベリアルはこの世に完全に姿を現す! そうしたらこの世界は破滅するぞ!」
「それがなんだというのですか!!!」
カルマがマキナをにらみ付ける。
「りゅーくん以外、私にとってはどうでも良いことです! あの子を悲しませる、苦しませるくらいなら! こんな世界なんてどうでもいい!」
「ふざけるな!」
バシッ……!
マキナはカルマの頬を打つ。
「貴様……今の発言は、最低だぞ! この世界に暮らしているのは、リュージだけではない! あの子の友達も、娘も、恋人もこの世にはいるんだろう!?」
ハッ……! とカルマは気付かされた。
そうだ。
この世界には、たくさんの、息子にとって大切な人たちがいるのだ。
「それにおまえも! シーラやルトラ、ルコにバブコ! 大事なものができたんじゃなかったのか!? その全てを、おまえは自分のワガママで捨てるのか!?」
「そ、それは……」
カッとなったが、確かにその通りだ。
邪神が復活すれば、この星に住まう、シーラたちの命はない。
「…………」
「冷静に考えるんだ。メデューサの誘いに乗ってはいけない」
「け、けど……私……私は……りゅーくんに……また……」
と、そのときだった。
「ああもう、まどろっこしいですわねぇ。もう面倒なので、強硬手段といきましょうか」
パチンッ! とメデューサが指を鳴らす。
「! カルマッ! 危ない!」
マキナがドンッ……! とカルマを突き飛ばす。
直後、地面が揺れ、地の底から何かが顔を出した。
【そいつ】は……マキナの下半身を、食いちぎったのだった。
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