151.息子、母の様子がおかしいと気付く【後編】
風呂から上がった後、リュージは着替えてリビングへ行く。
カルマが台所に立ち、空いた皿を洗っていた。
「母さん」
「あらりゅーくん。お風呂もうでたの?」
「う、うん……」
カルマは作業に戻る。
……妙だった。
いつもだった風呂に乱入してきたり、風呂から上がってきたリュージの髪をタオルで吹いたりするのに。
別に、それらは、一般家庭ではごく普通のやりとりだ。
しかし超過保護な母がすることで、違和感が目立つ。
あまりにも、態度が急変しているからだ。
「どうしました? ぼーっとして?」
「あ、ええと……お皿洗うの、手伝うよ」
いつもだったここで『息子がお手伝いをー!』とハイテンションに答えるカルマ。
しかし……。
「いえ、いいですよ。もう終わりますし」
「そ、そう……」
カルマはカチャカチャと食器を洗う。
手持ち無沙汰のリュージは、その様子をイスに座ってみていた。
「……いつも通り、じゃ、ないよね」
母のいつも通りとは、一般の基準から言えば異常に当たる。
世の中の【普通】という尺度に収まらないのが、過保護ドラゴン・カルマなのだ。
しかし今はどうだろう。
本当に、びっくりするくらい普通の母だった。
これで、母がまともになったと思うひともいるだろうが。
しかしリュージの視点では、そうは写らない。
長く、このカルマアビスという邪竜
とともにいたリュージだからこそ、気づけることがある。
「ねえ、母さん。……どこか、悪いの?」
ぴたっ、とカルマが手を止める。
「なにを、言ってるんですか?」
笑顔のカルマが、振り向いて言う。
「お母さん元気ぴんぴんですよ? 悪いところなんて1つもないない」
「……無理しないでよ」
りゅーじはカルマのそばに行く。
ビクッ! とカルマが肩を震わせた。
「母さん変だよ」
「変なのはいつもですよ」
「そうじゃなくて! 母さんは、無理すると逆に明るく振る舞うの、僕知ってるんだよ?」
カルマはリュージから、目線をそらす。
「ねえ母さん、どうしたの? どこか具合でも悪いんじゃないの?」
カルマはたまに、仮病を使う。
たいしたことないのに騒ぎ、リュージに甘えようとする。
しかし一方で、本気でつらかったり苦しかったりするときは、いっさいリュージに、そのことを伝えないのだ。
息子が心配するからと。
「ははっ、なにを言ってるんですか。考えすぎですよ、りゅーくん」
濡れた手をタオルで拭いて、カルマがその場を後にしようとする。
「まってよ! まだ話が……」
リュージがカルマに、手を伸ばそうとした、そのときだ。
パシッ!
カルマが、その手を払ったのだ。
「え……?」
「ご、ごめんねりゅーくん! 痛くなかった?」
「あ、……え? あ、うん……平気」
ほぅ、とカルマが安堵の吐息をつく。
「とにかく、お母さん大丈夫ですからね。心配しないで。ね?」
それだけ言って、カルマはその場を後にする。
違和感だけが、リュージのなかに残ったのだった。
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