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冒険に、ついてこないでお母さん! 〜 超過保護な最強ドラゴンに育てられた息子、母親同伴で冒険者になる  作者: 茨木野
7章「2人目の孫編」

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79.邪竜、孫2号が家族になって喜ぶ



 孫二号こと、バブコが急に居なくなった。

 カルマは自分のスキル、最上級転移ハイパーテレポーテーションを使用。


 バブコの元へ転移すると、犬っころに襲われそうになっている孫を発見。


 犬はまあ軽く小突いて倒した。無事孫を救い出せ……のだが。


 早朝の森の中。


「きゅ~…………」


 なぜだか知らないが、孫二号がひっくり返って、目を回していた。


「バブコ! バブコ! しっかりしなさい、バブコっ!!」


 カルマが孫を抱き起こす。バブコは目を回して気絶していた。


「あぁあああああどうしましょう! まいりとるプリティエンジェルりゅーくんの大事な! 大事な孫を傷物にしてしまったぁああああああああ゛ーーーーーー!!!」


 カルマは動揺しまくっていた。


「ええい回復魔法を! ありったけの回復魔法をば!!!!」


 カルマは自分が持っている回復魔法を、バブコにかけまくる。


 体力をマックスまで回復させる魔法だけじゃなく、死者を蘇生させる魔法や、状態異常を全回服する魔法。


 ありとあらゆる光魔法(回復魔法のこと)を使用しまくった。だが……。


「ひぃいいいいいいいい!!! ば、バブコの顔色が優れませんっ!」


 あわあわ、と慌てるカルマ。


「どうなっているのですかっ? 回復魔法をあんなにかけたのにっ! お、お母さんが未熟なのがいけないのですかっ! アア教えてりゅーくんさま!」


 神と書いて息子と読む。カルマにとっては常識だ。


 さてカルマのリアクションのせいで、いまいち緊張感に欠けているわけだが。


 現状、かなりマズい状況だ。


 魔族は魔力を動力にしている。魔力が切れると動けなくなるだけでなく、その存在を維持することさえも、難しくなる。


 魔族は、身体のすべてを魔力で補っている。ゆえに膨大な量の魔力を持っているが、裏を返すと、膨大な量の魔力がからになると、身体は消滅してしまうのだ。


 現にバブコの身体からは、さぁああ…………と光る粒子が発生していた。


 魔族の身体をいじしていた魔力が完全に切れ、身体が分解しかけているのだ。


「あ゛ーーーーーーー! りゅーーーーーーーーくーーーーーーーん! たぁーーーすけてぇーーーーーー!!!」


 カルマがリュージに祈った、そのときだ。


「母さーーーん!!!!」


 森の入り口から、息子かみの声がするではないか。カルマの耳が息子の声をキャッチした瞬間、ぱぁ……! と晴れやかな気持ちになる。


「りゅーくん!」


 孫が大変な状況。この状況でやってきた息子は、まさしく救いの神だった。


「あありゅーくん! どうしましょう! どうしましょうッ!」


 動揺するカルマ。息子は近くへやってくると、


「どうしたの? 母さんが大騒ぎした後、慌てて転移して、何事かと思ってやってきたけど……」


 家でバブコが居なかった後、家中をひっくり返して(文字通り)バブコを探した。


 だがバブコが見つからず、息子の助言を元に、転移してここへやってきた次第。


 しかしそうなると、どうやって息子が、ここへやってきたのか説明つかない。カルマはあの場からテレポートで、一瞬でここへ来たのだから。


 ……まあ、息子は最強に賢いので、いなくなった孫の場所も、すぐにわかったのでしょう! さすがりゅーくん! 賢い格好いい素敵よきゃー♡


 ……と、ここまで1秒。邪神を喰らって強化された頭脳(だいたい無駄)は、ここまでの高速思考を可能にするのだ(無駄だが)。


「そうだ大変なんです! バブコが! バブコが死にそうなんです!」

「バブコがッ? 大変だ! すぐに病院……って、あれ?」


 そのときだった。


 息子がバブコを見て、首をかしげる。


「母さん。バブコ、なんか普通そうなんだけど……?」

「えっ?」

 

 息子が指し示す先、バブコの寝顔がある。その顔は、さっきまでと違って穏やかだった。


「ほ、本当です……。それに、魔力も、いつの間にか元通り……」


 からっけつだったバブコの魔力が、フル充電されていた。魔素に還りかけていた身体も、今はしっかりとしている。


 息子が来た途端、バブコはピンチから脱することができた。


「りゅーくん……」


 カルマは息子を見やる。息子は安堵のため息をついて、孫の頭をなでていた。


「……。あなた」

「ん? なに?」


 カルマは息子に近づく。そして……。


「あなたが、神ぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」


 カルマは泣きながら、息子のことを、むぎゅっと抱きしめた。


 カルマの豊満なバストに、リュージがうまる。


「か、母さんやめてよっ……!」

「あありゅーくんはすごいですすごいです! やはりりゅー君は何でもできるスーパーりゅーくんです! もうほんとすごいよりゅーくん! あなたは人一人救えるほどの奇跡を使える、まさに奇跡の存在ですよぉーーーーーーーーーー!!!」


 孫が助かったことを喜び、そして息子が神だったことを再認識して、さらに喜ぶ。


 もうリュージはいけない子だ。いるだけで自分を、こんなに喜ばせるのだから。


「りゅーくんありがとーーー!」

「か、母さん……やめてってば! もうっ! 大きな声出さないでよっ! 誰かにこんなとこ……むぎゅー」


 息子が何かを言っていたけど、カルマは愛しいリュージを、力一杯抱きしめるのだった。



    ☆



 むすこが神の力を振るったことで、孫のピンチを脱した数分後。


 カルマはバブコたちを連れて、転移スキルで、自分の家に戻っていた。


 バブコをベッドに寝かせ、その隣で看病するカルマ。


 そして孫は、30分もしないうちに、目を覚ました。


「……ここは?」

「バブコっ? 良かったぁ……」


 カルマは目覚めた孫の身体に、覆い被さる。


「むぎゅっ!」

「ああ……本当良かったです……。あなた、死にそうになっていて……なってて……うわーーーーーーーーーーーーーん!!」


 カルマは子供のように泣く。もし大事な息子の、孫が死んでしまったらと思ったら……。


 悲しみで余裕で死ねる。


 深い悲しみは、大粒の涙……否、津波のような涙となって、


 ざっぱぁあああああああああああああああああああああん!!!


「うわぁあああああああああ!」


 大量の水が、孫を押し流そうとする。


「た、助けてぇ……」

「はぁっ! す、すすみません!」


 カルマは孫を回収。火の魔法を使って、涙をすべて蒸発させた。


「まったく……おぬしは相変わらずとんでもない女だの……」

「うう、面目ないです……。自分の力、制御できなくて……」


 邪神をくって最強になったはいいが、それを上手くコントロールできていなかった。感情が高ぶったときなど、こうして持て余した力が暴走してしまうのである。


「バブコ、ごめんなさい。怒りました?」


 カルマは恐る恐る、孫に尋ねる。ここで怒ったとか、嫌ったとか言われたら、余裕で死ねる。


 最強の邪神すらも凌駕する力を持った存在ではあるが、メンタルは割と豆腐なのだ。

 さてカルマの言葉に対する、バブコのリアクションはというと……。


「……怒っておらぬわ」


 という、意外な返答だった。


「おぬしが規格外なのは、ここ数日でよーーーーーーくわかったしな」

「うう……すみません……」


 小さな子を前に、大きな女の子が、しょぼんとうなだれる。


 その姿を見たバブコが、一瞬だけ……ほんの一瞬だけだが、


「ふふっ」


 と笑ったように、見えたのだ。


「い、今笑った!? 笑いました!?」


 カルマは記録の水晶(映像を記録できる、超希少なアイテム)を取り出して、孫の笑顔を、録画しようとする。


「わらっとらんわ」


 バブコはすぐに、不機嫌な顔になる。そしてそっぽ向いてしまった。


「笑いましたよね!? もう一度! 録画してなかったのでもう一度お願いします! わんもあプリーズ!」


 カルマはバブコに、記録の水晶をぐいぐいと当てる。


「ええい騒々しい! 静かにせんかっ!」


 かーっ! と犬歯を向く孫。


「あーん♡ とってもキュートですよバブコっ! ほらっ! ほらっ! お母さんの方を見て! こっち向いてほらもう一回かーってやってー!」


 カルマは孫のかわいい場面を取りたくって、記録の水晶を向ける。


 だがバブコはへそを曲げてしまったらしい。布団に潜り込んでしまう。


 そのときだった。


「母さん? バブコ目を覚ましたの?」


 息子が騒ぎを聞きつけて、やってきたのだ。


「りゅーくんっ」


 カルマは立ち上がり、愛する息子を正面から抱擁する。


「だからっ! すぐ抱っこしないでってば!」

「あら、ごめんなさい。駄目だとわかっているのですが、身体が勝手に動いてしまうんですよ」


 うふふ、と笑うカルマ。しかし息子から離れない。息子が顔を赤くして、ぐいっと身体を押しのける。


「バブコ。体調はどう? 平気?」


 リュージがバブコのとなりへとやってくる。


「……おかげさまでな」


 ちらっ、と少しだけ、バブコが布団から顔を出す。


「その表情とってもかわいい! 保存したい! こっち見てー!」

「母さん、ちょっと黙ってて」

「ふぁー……い」


 息子に怒られた……。つらたにえん、と思いながら、カルマがおくにちチャックする。


 リュージはバブコのとなり、ベッドに腰を下ろす。


「君が無事で良かったよ」


 ほほえむ息子、最高です……。と心の中で尊い……尊い……と涙を流すカルマ。


「……なあ、リュージよ」


 少し考えた後、バブコがリュージに尋ねる。


「なに?」

「……おぬしは、どうしてわれを心配するのだ?」


 バブコの質問に、リュージも、そしてカルマも首をかしげる。


 どうしてバブコを心配するのか? そんなの、カルマの答えも、そしてリュージの答えも、決まっていた。


 そんなの……。


「君が……僕の家族だからだよ」


 カルマも、息子と全く同じ答えだった。


 それを聞いて、バブコが目を細める。


「……家族?」

「うん。だって、君は僕が……その、産んだ? んでしょ」


 息子は男だ。子供を産むわけないし、ましてこんなおっきな子供を、うめうわけない。


 人間は赤ん坊を産む。だがバブコは、10歳児くらいだ。


 確かに異常事態だとは思う。けど息子はほら、神だからね。と得意げに笑うカルマ。

 その一方で、孫と息子が真剣に話している。蚊帳の外のカルマ。でもふたりが楽しそうだから、オッケーです。


「きみを育てる義務が、僕にはある。君みたいな小さな子を、無責任に放り出せないよ」


「……しかし、われはおぬしと、おぬしの恋人と、そしておぬしの母親の命を狙ってきたのだぞ?」


 確かにベルゼバブは、赤ん坊になったカルマを殺して、魔王のチカラを奪おうとしてきた。


「おぬしはそれをどう思っておるのじゃ? おぬしの大事な人を、殺すところだったんじゃぞ?」


「……そう、だね」


 リュージは目を閉じて、そして言う。


「確かに……シーラと母さんを、危ない目に遭わせたのは……許せないよ。けど……君にも何か、事情があったんでしょ?」


 リュージが目を開けて、じっ……と孫を見据えて言う。


「母さんは、確かに邪神王の力を奪った。主人の力を取り戻すために戦った。それはわかるけど……じゃあどうして、力を取り戻したかったの? 魔王や邪神王みたいに、世界を滅ぼす気だったの……?」


 リュージの言葉に、しばらくバブコは答えなかった。だがややあって、


「……そんな気はない」


 とバブコが答えた。


「われは……われは、単に返して欲しかった。それだけじゃ。大切な人の、大切なものだから」


 それを聞いたカルマは、申し訳ない気持ちになった。返してやりたい気持ちも山々だけど、自分が孫に食われる必要があった。死ぬ必要があった。


 それはできない相談だ。だって、カルマは息子たちを残して、先に死ねない。家族を守る義務が、自分にはあるから。


 さて。


 バブコの返事を聞いた、リュージはというと……。


「……そっか。やっぱりね」


 ふっ……、とリュージは淡くほほえんだ。

「僕わかっていたよ。君が、本当は優しい子だって」   


 リュージは慈愛に満ちた表情を浮かべる。そして、孫の頭をよしよしとなでる。


「数日一緒に過ごしてわかったよ。きみはそんな悪い子じゃないって。あの日僕らを襲ったのだって、何か理由があってのことだって」


「……ふん」


 孫は嫌がるそぶりはみせない。ただ、されるがままになっている。


「君が優しい子だって、今確信を持てたよ。だから、僕はハッキリ言うよ」


 リュージはバブコに手を伸ばす。


「君は僕たちの、家族だよ」


 バブコが、差し出された手を見やる。


「…………」

「君は、嫌かも知れないけど。けどできれば、一緒にくらそ? そしたら、今日みたいなことがまたあってもカバーできると思うし」


 だから一緒に居ようよ、とリュージが言う。さとい息子のことだ。バブコが家を出た理由もわかっているのだろう。


 その上で、息子は孫の身を案じているのだ。庇護がないと生きていけない、幼い子を、放っておけないと。


「…………ふん」


 バブコは、小さく鼻を鳴らす。


「リュージよ」


 バブコはリュージを見上げる。


「おぬしも……カルマアビスと同じで、変わったやつなんじゃな」


 小さく、ほんの小さくだが、しかしバブコは、しっかりと笑ったのだ。


「へ、変? そ、そうかな?」

「うむ。へんだ。そうとうな変わりもんじゃよ、おぬしは」


 そう言ってケタケタと笑うバブコ。


「あぁん♡ 孫が笑ってますよう♡ これはしっかり記録するべし-!」


 カルマは記録の水晶を持って、地べたに這いつくばりながら、孫の様子を録画する。

「おぬしは何を地べたにころがっとるんじゃ……?」

「ローアングルからの笑顔が素敵だからですよ! あーすてき! ああ尊い!」


 カルマは記録を取りまくる。息子はそれを見て「ごめんね、こういう人だから」と苦笑している。


 孫も……ため息をついた後、笑った。


「リュージ」

「ん?」

「ん」


 バブコが、小さな手を、リュージに向ける。それを見てリュージが笑って、手を取る。


「よろしくね、バブコ」

「うむ。よろしくな、リュージ。それと……カルマアビス」


 イヤイヤそうに、バブコがカルマを見て言う。カルマは嬉しかった。


「はぁ~~~~~ん♡ バブコがっ♡ お母さんの名前呼んでくれたよぉ~……うれしいよぉ~~~~~~~~♡」


 最上級の笑顔を浮かべて、カルマは息子と孫二号を抱きしめる。


「家族がたくさんっ! お母さんとっても嬉しいですーーーーーーーー!」


 こうして、正式に孫二号が、カルマ一家の一員になったのだった。 

これにて7章終了。次回8章へと続きます。


コミカライズ、書籍化の作業は順調に進んでいます。なるべく早く読んでもらえるよう、僕らも精一杯がんばります!


ではまた!

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