79.邪竜、孫2号が家族になって喜ぶ
孫二号こと、バブコが急に居なくなった。
カルマは自分のスキル、最上級転移を使用。
バブコの元へ転移すると、犬っころに襲われそうになっている孫を発見。
犬はまあ軽く小突いて倒した。無事孫を救い出せ……のだが。
早朝の森の中。
「きゅ~…………」
なぜだか知らないが、孫二号がひっくり返って、目を回していた。
「バブコ! バブコ! しっかりしなさい、バブコっ!!」
カルマが孫を抱き起こす。バブコは目を回して気絶していた。
「あぁあああああどうしましょう! まいりとるプリティエンジェルりゅーくんの大事な! 大事な孫を傷物にしてしまったぁああああああああ゛ーーーーーー!!!」
カルマは動揺しまくっていた。
「ええい回復魔法を! ありったけの回復魔法をば!!!!」
カルマは自分が持っている回復魔法を、バブコにかけまくる。
体力をマックスまで回復させる魔法だけじゃなく、死者を蘇生させる魔法や、状態異常を全回服する魔法。
ありとあらゆる光魔法(回復魔法のこと)を使用しまくった。だが……。
「ひぃいいいいいいいい!!! ば、バブコの顔色が優れませんっ!」
あわあわ、と慌てるカルマ。
「どうなっているのですかっ? 回復魔法をあんなにかけたのにっ! お、お母さんが未熟なのがいけないのですかっ! アア教えて神さま!」
神と書いて息子と読む。カルマにとっては常識だ。
さてカルマのリアクションのせいで、いまいち緊張感に欠けているわけだが。
現状、かなりマズい状況だ。
魔族は魔力を動力にしている。魔力が切れると動けなくなるだけでなく、その存在を維持することさえも、難しくなる。
魔族は、身体のすべてを魔力で補っている。ゆえに膨大な量の魔力を持っているが、裏を返すと、膨大な量の魔力がからになると、身体は消滅してしまうのだ。
現にバブコの身体からは、さぁああ…………と光る粒子が発生していた。
魔族の身体をいじしていた魔力が完全に切れ、身体が分解しかけているのだ。
「あ゛ーーーーーーー! りゅーーーーーーーーくーーーーーーーん! たぁーーーすけてぇーーーーーー!!!」
カルマが神に祈った、そのときだ。
「母さーーーん!!!!」
森の入り口から、息子の声がするではないか。カルマの耳が息子の声をキャッチした瞬間、ぱぁ……! と晴れやかな気持ちになる。
「りゅーくん!」
孫が大変な状況。この状況でやってきた息子は、まさしく救いの神だった。
「あありゅーくん! どうしましょう! どうしましょうッ!」
動揺するカルマ。息子は近くへやってくると、
「どうしたの? 母さんが大騒ぎした後、慌てて転移して、何事かと思ってやってきたけど……」
家でバブコが居なかった後、家中をひっくり返して(文字通り)バブコを探した。
だがバブコが見つからず、息子の助言を元に、転移してここへやってきた次第。
しかしそうなると、どうやって息子が、ここへやってきたのか説明つかない。カルマはあの場からテレポートで、一瞬でここへ来たのだから。
……まあ、息子は最強に賢いので、いなくなった孫の場所も、すぐにわかったのでしょう! さすがりゅーくん! 賢い格好いい素敵よきゃー♡
……と、ここまで1秒。邪神を喰らって強化された頭脳(だいたい無駄)は、ここまでの高速思考を可能にするのだ(無駄だが)。
「そうだ大変なんです! バブコが! バブコが死にそうなんです!」
「バブコがッ? 大変だ! すぐに病院……って、あれ?」
そのときだった。
息子がバブコを見て、首をかしげる。
「母さん。バブコ、なんか普通そうなんだけど……?」
「えっ?」
息子が指し示す先、バブコの寝顔がある。その顔は、さっきまでと違って穏やかだった。
「ほ、本当です……。それに、魔力も、いつの間にか元通り……」
からっけつだったバブコの魔力が、フル充電されていた。魔素に還りかけていた身体も、今はしっかりとしている。
息子が来た途端、バブコはピンチから脱することができた。
「りゅーくん……」
カルマは息子を見やる。息子は安堵のため息をついて、孫の頭をなでていた。
「……。あなた」
「ん? なに?」
カルマは息子に近づく。そして……。
「あなたが、神ぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
カルマは泣きながら、息子のことを、むぎゅっと抱きしめた。
カルマの豊満なバストに、リュージがうまる。
「か、母さんやめてよっ……!」
「あありゅーくんはすごいですすごいです! やはりりゅー君は何でもできるスーパーりゅーくんです! もうほんとすごいよりゅーくん! あなたは人一人救えるほどの奇跡を使える、まさに奇跡の存在ですよぉーーーーーーーーーー!!!」
孫が助かったことを喜び、そして息子が神だったことを再認識して、さらに喜ぶ。
もうリュージはいけない子だ。いるだけで自分を、こんなに喜ばせるのだから。
「りゅーくんありがとーーー!」
「か、母さん……やめてってば! もうっ! 大きな声出さないでよっ! 誰かにこんなとこ……むぎゅー」
息子が何かを言っていたけど、カルマは愛しいリュージを、力一杯抱きしめるのだった。
☆
神が神の力を振るったことで、孫のピンチを脱した数分後。
カルマはバブコたちを連れて、転移スキルで、自分の家に戻っていた。
バブコをベッドに寝かせ、その隣で看病するカルマ。
そして孫は、30分もしないうちに、目を覚ました。
「……ここは?」
「バブコっ? 良かったぁ……」
カルマは目覚めた孫の身体に、覆い被さる。
「むぎゅっ!」
「ああ……本当良かったです……。あなた、死にそうになっていて……なってて……うわーーーーーーーーーーーーーん!!」
カルマは子供のように泣く。もし大事な息子の、孫が死んでしまったらと思ったら……。
悲しみで余裕で死ねる。
深い悲しみは、大粒の涙……否、津波のような涙となって、
ざっぱぁあああああああああああああああああああああん!!!
「うわぁあああああああああ!」
大量の水が、孫を押し流そうとする。
「た、助けてぇ……」
「はぁっ! す、すすみません!」
カルマは孫を回収。火の魔法を使って、涙をすべて蒸発させた。
「まったく……おぬしは相変わらずとんでもない女だの……」
「うう、面目ないです……。自分の力、制御できなくて……」
邪神をくって最強になったはいいが、それを上手くコントロールできていなかった。感情が高ぶったときなど、こうして持て余した力が暴走してしまうのである。
「バブコ、ごめんなさい。怒りました?」
カルマは恐る恐る、孫に尋ねる。ここで怒ったとか、嫌ったとか言われたら、余裕で死ねる。
最強の邪神すらも凌駕する力を持った存在ではあるが、メンタルは割と豆腐なのだ。
さてカルマの言葉に対する、バブコのリアクションはというと……。
「……怒っておらぬわ」
という、意外な返答だった。
「おぬしが規格外なのは、ここ数日でよーーーーーーくわかったしな」
「うう……すみません……」
小さな子を前に、大きな女の子が、しょぼんとうなだれる。
その姿を見たバブコが、一瞬だけ……ほんの一瞬だけだが、
「ふふっ」
と笑ったように、見えたのだ。
「い、今笑った!? 笑いました!?」
カルマは記録の水晶(映像を記録できる、超希少なアイテム)を取り出して、孫の笑顔を、録画しようとする。
「わらっとらんわ」
バブコはすぐに、不機嫌な顔になる。そしてそっぽ向いてしまった。
「笑いましたよね!? もう一度! 録画してなかったのでもう一度お願いします! わんもあプリーズ!」
カルマはバブコに、記録の水晶をぐいぐいと当てる。
「ええい騒々しい! 静かにせんかっ!」
かーっ! と犬歯を向く孫。
「あーん♡ とってもキュートですよバブコっ! ほらっ! ほらっ! お母さんの方を見て! こっち向いてほらもう一回かーってやってー!」
カルマは孫のかわいい場面を取りたくって、記録の水晶を向ける。
だがバブコはへそを曲げてしまったらしい。布団に潜り込んでしまう。
そのときだった。
「母さん? バブコ目を覚ましたの?」
息子が騒ぎを聞きつけて、やってきたのだ。
「りゅーくんっ」
カルマは立ち上がり、愛する息子を正面から抱擁する。
「だからっ! すぐ抱っこしないでってば!」
「あら、ごめんなさい。駄目だとわかっているのですが、身体が勝手に動いてしまうんですよ」
うふふ、と笑うカルマ。しかし息子から離れない。息子が顔を赤くして、ぐいっと身体を押しのける。
「バブコ。体調はどう? 平気?」
リュージがバブコのとなりへとやってくる。
「……おかげさまでな」
ちらっ、と少しだけ、バブコが布団から顔を出す。
「その表情とってもかわいい! 保存したい! こっち見てー!」
「母さん、ちょっと黙ってて」
「ふぁー……い」
息子に怒られた……。つらたにえん、と思いながら、カルマがおくにちチャックする。
リュージはバブコのとなり、ベッドに腰を下ろす。
「君が無事で良かったよ」
ほほえむ息子、最高です……。と心の中で尊い……尊い……と涙を流すカルマ。
「……なあ、リュージよ」
少し考えた後、バブコがリュージに尋ねる。
「なに?」
「……おぬしは、どうしてわれを心配するのだ?」
バブコの質問に、リュージも、そしてカルマも首をかしげる。
どうしてバブコを心配するのか? そんなの、カルマの答えも、そしてリュージの答えも、決まっていた。
そんなの……。
「君が……僕の家族だからだよ」
カルマも、息子と全く同じ答えだった。
それを聞いて、バブコが目を細める。
「……家族?」
「うん。だって、君は僕が……その、産んだ? んでしょ」
息子は男だ。子供を産むわけないし、ましてこんなおっきな子供を、うめうわけない。
人間は赤ん坊を産む。だがバブコは、10歳児くらいだ。
確かに異常事態だとは思う。けど息子はほら、神だからね。と得意げに笑うカルマ。
その一方で、孫と息子が真剣に話している。蚊帳の外のカルマ。でもふたりが楽しそうだから、オッケーです。
「きみを育てる義務が、僕にはある。君みたいな小さな子を、無責任に放り出せないよ」
「……しかし、われはおぬしと、おぬしの恋人と、そしておぬしの母親の命を狙ってきたのだぞ?」
確かにベルゼバブは、赤ん坊になったカルマを殺して、魔王のチカラを奪おうとしてきた。
「おぬしはそれをどう思っておるのじゃ? おぬしの大事な人を、殺すところだったんじゃぞ?」
「……そう、だね」
リュージは目を閉じて、そして言う。
「確かに……シーラと母さんを、危ない目に遭わせたのは……許せないよ。けど……君にも何か、事情があったんでしょ?」
リュージが目を開けて、じっ……と孫を見据えて言う。
「母さんは、確かに邪神王の力を奪った。主人の力を取り戻すために戦った。それはわかるけど……じゃあどうして、力を取り戻したかったの? 魔王や邪神王みたいに、世界を滅ぼす気だったの……?」
リュージの言葉に、しばらくバブコは答えなかった。だがややあって、
「……そんな気はない」
とバブコが答えた。
「われは……われは、単に返して欲しかった。それだけじゃ。大切な人の、大切なものだから」
それを聞いたカルマは、申し訳ない気持ちになった。返してやりたい気持ちも山々だけど、自分が孫に食われる必要があった。死ぬ必要があった。
それはできない相談だ。だって、カルマは息子たちを残して、先に死ねない。家族を守る義務が、自分にはあるから。
さて。
バブコの返事を聞いた、リュージはというと……。
「……そっか。やっぱりね」
ふっ……、とリュージは淡くほほえんだ。
「僕わかっていたよ。君が、本当は優しい子だって」
リュージは慈愛に満ちた表情を浮かべる。そして、孫の頭をよしよしとなでる。
「数日一緒に過ごしてわかったよ。きみはそんな悪い子じゃないって。あの日僕らを襲ったのだって、何か理由があってのことだって」
「……ふん」
孫は嫌がるそぶりはみせない。ただ、されるがままになっている。
「君が優しい子だって、今確信を持てたよ。だから、僕はハッキリ言うよ」
リュージはバブコに手を伸ばす。
「君は僕たちの、家族だよ」
バブコが、差し出された手を見やる。
「…………」
「君は、嫌かも知れないけど。けどできれば、一緒にくらそ? そしたら、今日みたいなことがまたあってもカバーできると思うし」
だから一緒に居ようよ、とリュージが言う。さとい息子のことだ。バブコが家を出た理由もわかっているのだろう。
その上で、息子は孫の身を案じているのだ。庇護がないと生きていけない、幼い子を、放っておけないと。
「…………ふん」
バブコは、小さく鼻を鳴らす。
「リュージよ」
バブコはリュージを見上げる。
「おぬしも……カルマアビスと同じで、変わったやつなんじゃな」
小さく、ほんの小さくだが、しかしバブコは、しっかりと笑ったのだ。
「へ、変? そ、そうかな?」
「うむ。へんだ。そうとうな変わりもんじゃよ、おぬしは」
そう言ってケタケタと笑うバブコ。
「あぁん♡ 孫が笑ってますよう♡ これはしっかり記録するべし-!」
カルマは記録の水晶を持って、地べたに這いつくばりながら、孫の様子を録画する。
「おぬしは何を地べたにころがっとるんじゃ……?」
「ローアングルからの笑顔が素敵だからですよ! あーすてき! ああ尊い!」
カルマは記録を取りまくる。息子はそれを見て「ごめんね、こういう人だから」と苦笑している。
孫も……ため息をついた後、笑った。
「リュージ」
「ん?」
「ん」
バブコが、小さな手を、リュージに向ける。それを見てリュージが笑って、手を取る。
「よろしくね、バブコ」
「うむ。よろしくな、リュージ。それと……カルマアビス」
イヤイヤそうに、バブコがカルマを見て言う。カルマは嬉しかった。
「はぁ~~~~~ん♡ バブコがっ♡ お母さんの名前呼んでくれたよぉ~……うれしいよぉ~~~~~~~~♡」
最上級の笑顔を浮かべて、カルマは息子と孫二号を抱きしめる。
「家族がたくさんっ! お母さんとっても嬉しいですーーーーーーーー!」
こうして、正式に孫二号が、カルマ一家の一員になったのだった。
これにて7章終了。次回8章へと続きます。
コミカライズ、書籍化の作業は順調に進んでいます。なるべく早く読んでもらえるよう、僕らも精一杯がんばります!
ではまた!




