72.邪竜、二人目の孫と戯れる(※攻撃を受ける)
お世話になってます!
リュージは目覚めると、自分の部屋に、見知らぬ幼女がいた。
突如として出現したその幼女は、【ベルゼバブ】を名乗った。
驚くリュージに、母が部屋をぶち破ってやってきた。
幼女が、自分が産んだとわかると、母の態度は一変。
話はそこから数分後。
「はぁ~~ん。かわいいですー!!!」
「ええい! 離せ! はなさぬか-!」
リュージの部屋にて。母カルマは、娘(暫定)であるベルゼバブを、ぎゅーっと抱っこしていた。
「えへへっ♪ 緑色の髪も真っ白な肌も、翡翠の目もかわいいですねー」
リュージはベルゼバブを良く見やる。
年齢はルコと同じくらいだろうか。まだ10にもいかない幼女である。
深緑の短い髪の毛。前髪を伸ばし、右目だけを隠している。頭の上からは、蜂のような触覚がにょきっと生えている。
真っ白な体に、ぷにっと柔らかそうな肌。とても先日襲ってきた化け物とは思えないほど、可愛らしかった。
「ええい離せこのぬすっとじゃりゅーが!」
ばしっ! とベルゼバブが、カルマの手を振り払う。ベルゼバブはたたたっ、と駆ける。
ベッドに乗っかり、腕を組み、偉そうにふんぞり返る。
「われを誰とこころえる! まおーしてんのーの1人、後方を守るベルゼバブであるぞ!」
格好をつけているつもりだろう。しかし……。
「あの……ベルゼバブ、さん?」
「なんじゃユート?」
「ユート……? いや、僕はリュージだけど」
ベルゼバブがリュージを見て言う。……前もこの子、名前を間違えていたような気がした。
気にはなったが、まあ昨日今日あったばかりだ。名前を正確に覚えて無くても仕方ないだろう。
「えっと……その、とりあえず……」
リュージは、地面に落ちている毛布を拾い上げる。そしてベルゼバブの体に巻き付けながら言う。
「風邪引くから、これでも羽織ってて」
「~~~~~!」
そう、ベルゼバブは全裸だったのだ。全裸の幼女が偉そうにふんぞり返って、自分が魔王四天王だ! と言い張っていたのである。
ベルゼバブは羞恥で顔を真っ赤にすると、その場にうずくまる。
「ほいっと」
カルマがすかさず、【万物創造】スキルを発動。ファンシーな服が出現し、ベルゼバブの体を覆った。
「これで恥ずかしくないですよ、【バブコ】♪」
「ば、バブコ~?」
ベルゼバブが素っ頓狂な声を上げる。
「な、なんじゃそのへんてこりんな名前は!?」
眉間にしわを寄せて、ベルゼバブが叫ぶ。一方でカルマはニコニコとしながら言う。
「だぁってあなたはもうベルゼバブじゃなくて、お母さんの超ラブリー大天使長・りゅー君の娘なのですよ?」
母が孫を見ながらにっこりと笑う。
「あなたとベルゼバブは別人です。ならば名前をつけないとと思ったのです。バブコ♪」
「…………」
ベルゼバブがうつむく。ぶるぶる、と肩をふるわせる。
「ふ、ふ、ふざけんなー!」
ベルゼバブが額に血管を浮かべながら、気炎を上げる。
「われはベルゼバブ! 魔王四天王がひとり、ちゅーおーベルゼバブじゃ! その名は魔王様より与えられた名。それを……バブコだと……」
ぶるぶる、とベルゼバブ……バブコが怒りで体を震わせる。
「われをぐろーするのも、大概にしろよこのおろかものどもがー!!!」
バブコの右目が赤く光る。
バッ! とバブコが右手を振るう。すると右手が黒くなる。そしてばらばらに分解される。
……よく見ると、それは小さな、無数の虫だ。
「あ、あれはこの間の!」
以前、赤んぼうとなった母を狙って、ベルゼバブがやってきた。そのときに使って見せた力。肉体を虫を変え、操る能力。
「死ねー!」
バブコがカルマに向かって、右手を振るう。黒い虫の大群がカルマに押し寄せる。
どごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
虫が母にぶつかった瞬間、激しい爆音と、そして爆風が起きる。
「わあぁ!」
リュージは腕で顔を守り、目を閉じる。
「ふーーははは! どうだわが【爆炎虫】のいりょくは!」
バブコが邪悪に笑っている……つもりだろうが。幼女姿だと、なんだろう、そこまですごみを感じない。
「母さん! だいじょ」「あ、はい大丈夫ですよ」「……だよね」
そこには母が普通に立っていた。爆発を受けても平気そうだ。体はおろか、服すらにもダメージが見られない。
「ええい、ばけものめ! これはどうだ!」
バブコが両手をパンッ! と付き合わせる。すると両手から別の虫が出現する。
ぶぅうううううううん! と、大量の蜂が出現した。
ばちっ、ばちっ、と蜂の体には、青白い電気が纏っている。
「ゆけ! 雷針虫よ!」
雷を纏った蜂が、母に押し寄せる。母の体に、ぶすぶすぶす! と蜂の針が刺さる。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!!
激しい電流が母の体にほとばしる。
「か、かーさーーーー」「はぁい♪」「あ、うん……ですよね」
電流が流れても、母は平気そうだ。にっこにこしていた。
「お母さんのために、電気マッサージしてくれたのですね♪ バブコは優しい! さすが優しさの化身、りゅー君の娘です!」
どうやら激しい電流さえも、母に痛みを与えることはできないようだった。
それもそのはず。母は最強の邪神王を食らい、そのステータスを手に入れているのだ。ちょっとやそっとの攻撃は、通じないのである。
「さ、さすがはわが王の力……。そのてーどでは傷1つつかぬかー!」
バブコが瞠目する。額に汗をかく。
「さぁバブコ♪ それにりゅー君も。朝食ができてます。1階におりましょう♪」
母がバブコに近づいて、ぎゅーっとハグする。
「こうなったら……奥の手じゃ!」
バブコの体が真っ黒になり、ばらばらになる。無数の蟲となり、空中で集合していく。
「な、なんだ……!?」
リュージは目を見張る。
虫の集合体はどんどん大きくなっていく。やがてそれはひとつの……カブトムシの形になっていく。
体表は金剛石でできていた。見上げるほどの大きなカブトが出現する。
「あ、あれは前にぼくらが倒した金剛カブト!?」
夏前のリュージが苦労して倒した、ボスモンスター……のように見えるが、ちょっと違う。
「ふははー! これは金剛カブトの上位種! ヘラクレス金剛カブトじゃあ!」
天井をぶち破るほどの、巨大なダイヤモンドのカブトムシが出現する。
ツノは3本あり、金剛カブトよりも体がデカイ。
ヘラクレス金剛カブトは、天井を突き破り、上空へとすっ飛んでいく。やがて……。
ぶううううううううううううううううううううううううううううううううううん!!!!
と飛翔音を立てながら、上空から落下してくるではないか。
リュージたちのいる部屋を目がけて、巨大なダイヤモンドのカブトムシが落ちてくる。
鋭い3本のツノが、カルマの体を狙っていた。このままでは落下して、母の体が串刺しになってしまう。
「か、母さん! にげっ」
「よいしょー」
びょんっ! とカルマが飛び上がる。
人間姿のまま、カルマが空中で、
「よっと」
楽々と、ヘラクレス金剛カブトのツノを受け止める。すさまじい質量から繰り出された落下攻撃。
だとしても、母は平然と、カブトムシのツノを空中でキャッチしていた。
「もう、バブコってば! おばあちゃまと遊ぶのはいいですけど、さすがにこれは危ないですね。こんな危ないおもちゃは、ぽいっです」
カルマはカブトのツノを持ったまま、ぐるんっ! と体を回転させる。
「そぉおおおい!!!!」
びゅぅううううううううううううううううううううううん!!!!!
カルマがカブトを、大空へと向かって投げ飛ばす。見上げるほどの巨体が、あっという間に星になる。
「変身!」
カルマがその状態で、邪竜の姿へと変化。空中に見上げるほどの巨大なドラゴンが出現する。
【まあ大丈夫だと思いますが、だめ押しに】
ぐぐっ……! とカルマが体をのけぞらす。母が何をするのか……リュージには察しがついた。
「な、なんじゃあ……」
リュージの隣で、ベルゼバブ……バブコが瞠目している。
どうやらカブトは、ベルゼバブの体から作られただけであり、ベルゼバブ本体ではないみたいだ。
「バブコっ!」
リュージはバブコの体に飛びつく。
「な、何をするのじゃ!」
「伏せてっ!!!」
リュージはバブコの小さな体に覆い被さる。
「耳を閉じて口を開けてっ?」
「な、なぜわれがめーれーを……」
「いいからっ!」
バブコは不承不承といったかんじで、リュージに言われたとおりにする。
上空を見上げる。母が体をのけぞらし、そして……。
ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
母の口から、極太のレーザーが発射される。
あれは母の得意技、ドラゴンのブレスだ。
破壊の光線は、凄まじい衝撃と音を発生させながら、遥か上空へとぐんぐん伸びていく。
ブレスは恐らく、ヘラクレス金剛カブトにぶち当たったのだろう。リュージからは見えなかったが、たぶん当てたと思う。
母は邪竜から人間の姿へと戻り、華麗に着地を決める。
「よっと」
ぱちんっ! と指パッチンすると、吹き飛んだ家具やら天井やらが、一瞬にして元通りになった。
「…………」
リュージはバブコから体をどける。
バブコはカルマの姿を見ながら、茫然自失していた。
「け、けたはずれのチカラじゃ……。あ……」
ぶるっ、とバブコが体を震わせる。
「だ、大丈夫バブコ?」
リュージが気遣わしげに、バブコを見やる。
「み、みみみ、みるでないわっ!」
バブコが顔を真っ赤にして、自分の下半身を手で押さえる。
「どうしたの? 一体何が……」
そこで、気付いた。バブコの座っている当たりに、水たまりができていることに。
「バブコ……」
「べ、べつにわれはびびってお漏らししたのではないからなっ! ち、ちがうからなっ!」
……どうやらそういうことらしい。
「えっとその……母さん」
「はい? ああ!! ば、バブコがおもらしをしてます!!! ごごごご、ごめんねお母さんのせいだよね!?」
すると……じわり、とバブコの目に涙が貯まる。そして、
「い、いうなよぉ~……。ばかぁ~……」
しくしくと泣き出したではないか。
「はぁああああああああ!!! どどどど、どうしようどうしよう! お母さんが孫を泣かせてしまいましたぁあああ! あぁあああああああごめんなさぁあああああああああああいお詫びに腹切るからぁああああああああ!!!」
母は大混乱だった。こういう不測の事態に弱いのが、母カルマである
「母さん、落ち着いて。切る必要ないから」
一方でリュージは、比較的落ちついた状態で、1階へ降りて、雑巾と新しい下着を取ってくる。
床の掃除をしたあと、バブコに新しい下着を着せる。
「とりあえずお風呂いこうか。ね?」
「………………うん」
リュージはバブコを抱っこして、風呂場へと向かうのだった。
次回もよろしくお願いします!




