46.役に立たない遠見魔術
翌朝も持って来た料理で簡単に済ますとすぐに障壁を守る守備隊の拠点を出発することになった。
「じゃ行くわよ。」
シェルがここに来てから苦虫を噛みつぶしたような顔のアランにニッコリ微笑むと出発の号令を出した。
昨日ここで別れた二人は最初からアランの代役としてここに残る手はずだったようで、すぐに一緒に行くのは無理だと頑なに拒否していた彼の願いはシェルにより却下された。
お陰でシェルはここに来て非常に上機嫌だ。
今はアランの隣を並走している。
「アラン。」
「なんだ?」
「そんなに一緒に東の砦に行くのが嫌なの?」
「別に。」
「そんなに嫌なら魔法で東の砦まで行こうか?」
アランはバッと顔を横にいるシェルに向けた。
「そんなことが可能なのか?」
「アランが協力してくれるなら可能・・・。」
「いやいい。」
アランは急に背中を走った寒気に咄嗟に否定の言葉を紡いでいた。
「あら急にどうしたの?」
「なんだかわからないが寒気がした。」
”流石アランね。なんでわかったのかしら?”
”なあ、ちなみにどんな方法なんだ?”
彼等の後ろを走っていた克也が興味本位で聞いて来た。
”昨日のキスと同じよ。相手の思考を鮮明に読めば出来るわ。”
”どうやって鮮明に読むんだ?”
”だから体液を体に・・・。”
”まさかそれってベッドですることか?”
シェルは後ろを振り向いて嬉しそうに頷いた。
克也は呆れ顔でシェルを見てから二人の念話で顔を真っ赤にしている美野里の傍を離れて馬をアランの傍に進めると彼の肩に手を置いた。
「アラン隊長。」
「なんだい、ショウ君。」
「人生一歩一歩が一番です。」
彼のナゾな言葉にアランはよく意味が分からないなりに素直に頷いた。
彼等はそれから数度食事休憩をはさんでから次の障壁を守る守備隊の拠点に着いた。
「アラン、ここの守備隊長は知り合い?」
「ああ。昔一緒の隊にいた男だよ。」
「なるほどね。でっアランから見てどんな男かしら。」
「どんなって言われてもな・・・。まあしいて言うなら気が小さいせいか慎重すぎるほど慎重な男って所だな。」
「成程ね。」
シェルが納得した所で障壁を守護している守備隊員が四人の前に来て隊長室まで案内してくれた。
ここの障壁内にある隊長室は木で作られていた。
隊員がノックをすると部屋の中から神経質そうな男の声が聞こえて来た。
「入りなさい。」
四人はここまで案内してくれた隊員に促され部屋の中に入った。
そこには兵士というよりは文官の用に線の細い男が机に積まれた書類に埋もれていた。
「やあ久しぶりだね。キモイ。」
名を呼ばれ少しばかり書類から顔を上げた男がメガネを手でクイッと上げてから彼らにサッと視線を向けるとまたすぐに書類に視線を戻した。
「おい、キモイ。せめて仕事の書類から目を離してこっちの顔を見て話さないか?」
「このクッソ忙しい中に何をたわごとを喚いているんですか。それよりアラン。あなたは仕事をどうしたんですか?なんでここにいるんです?」
「いやあー色々あって前線基地に移動になるらしいんだ。」
「ああ、東の砦ですね。お気をつけて、話が以上ならここで退出をお願いします。」
アランは悲しそうな顔で四人を見てから彼らを外に連れ出そうとした。
それなのにシェルは三人に先に出ているように言うとここの守備隊長に何かの封筒を渡した。
渡された隊長は目を白黒させてから手渡された手紙を隅から隅まで読むとその手紙を燃やしてしまった。
「でっ返事は?」
キモイは初めて書類から視線を離すと椅子から立ち上がってシェルの前に立つと彼の手に小さな小瓶を渡した。
「これは?」
「先程の書類に書かれていたものです。敵の探知魔法はあなたたちがここを出た時点で破壊しますので大丈夫です。」
シェルはキモイの言葉に小さく頷くと部屋を出る扉に向かった。
シェルが扉を出る寸前彼は一言呟いた。
「非常に残念です。」
シェルはキモイの呟きに何も返さないまま三人が待つ部屋に向かった。
「シェル遅かったのね。」
「まあね。一応彼にもアランが守護していた障壁が違う人物になったと手紙を直接渡さなくっちゃならなかったからね。間違って攻撃されちゃ困るし。」
「攻撃?」
「ああ、そうか。シータは知らなかったね。キモイは遠見術が得意なんだ。」
「なんだそれ?」
「読んで字のごとく遠くが見れる魔術さ。」
「まさかここからアランがいた障壁を守護する場所も見えちゃうの?」
「彼が一回でも行った場所なら可能だよ。」
「そりゃあすごいな。」
「まあ確かにすごいけど見れるだけでそこに転移出来る訳じゃないからそれほど便利でもないかなぁ。」
アランが急に三人の会話に入って来た。
「そうね。」
シェルは悲しそうな表情でアランの言葉に相槌を打った。
しんみりした空気に耐え切れなくなった克也が思わず食事にしないかと提案した。
「確かにお腹は空いたかしら。」
シェルの珍しい素直な発言に違和感を覚えながらも美野里が空間魔法で案内された部屋の隅にあったテーブルに食事を次々に出した。
「これは凄いな。」
アランは思わず並べられた食事にゴクリと喉を鳴らした。
「当然よ。魔術棟で開発された異世界料理の数々なんだから。さあ冷めないうちに食べましょ。」
シェルはそういうと傍に会った椅子に腰かけて早々と食事を食べ始めた。
「そうよね。」
いつもは一言文句を言ってから食べ始めるシェル変な行動に美野里は首を傾げながらも食べ始めた。
四人は異世界料理を堪能した後、早々と二段ベッドに横になると明日の出発に備えた。




