44.秘密の会談
「どこに行くんだ?」
いきなり大広間からさっきシェルが消えた通路とは反対方向に歩いて行く美野里に後ろから追いかけながらも心配になって声を掛けた。
「こっちからだと遠回りになるから庭を突っ切っていくのよ。」
「いやいくら何でもそれ反対方向だろ?」
方向が違うという克也は植え込みの入り口で立ち止まった。
「いいから着いて来て。」
美野里は立ち止まった克也の手を取るとそのまま植え込みに入って魔術棟とは反対方向の生垣に突っ込んだ。
ガサッという音がして次の植え込みに出るはずが何でかそこには魔術棟が目の前に現れた。
「えっなんで?」
”あそこに見えている風景には幻術魔法が掛けられているの。だから見えてる景色がウソなのよ。”
”えっそうなの?”
”ちょっと魔力の強い人間ならすぐに見破れるわよ。でっそっちじゃなく、シェルの部屋はこっちね”
”なんで?”
”今逆から入っているから表と裏が逆になるのよ。”
「わかんねぇー。何それ。」
トントントン
頭を抱えて唸っている克也を放置すると美野里はドアをノックした。
”あら早かったわね。入って頂戴。”
部屋の中から念話で返事があったので美野里はドアを開けて部屋に入った。
まだ唸っている克也に一応声を掛けると我に返った彼も部屋に入って来た。
「ちょうど今栓を開けた所よ。」
シェルはそういうとグラスに注いでくれた。
トクトクトク。
グラスに泡が立ちいい香りが漂って来る。
「「いっただっきまーす。」」
二人は早速グラスを傾けるとそのまま傍にあったソファーに各々腰を降ろした。
「うーん。美味しい。」
「でもなんか摘まむものがほしいなぁ。」
「ああ、それなら大丈夫よ。」
トントントン
ちょうどいいタイミングで扉にノックがあり、ワゴンを押した人物が入って来た。
「おい、シェル。何で先に飲んでんだ?」
「あーら、遅かったじゃない。ほい。」
”王太子がなんで摘まみを持って現れるんだ?”
”知らないわよ。そんなこと”
美野里は内心焦りながらも王太子の為に席を一つずれた。
王太子は美野里が空けてくれた席に座るとシェルがグラスを手渡した。
「でっどうなの?」
「あまりよくない状況だな。」
王太子はグラスの中身を一気に飲み干すとカタンとグラスをテーブルに置いた。
「はぁあ面倒ね。じゃ砦再建に賭けられる時間は?」
「なるべく早くしろとしか言えん。」
二人の会話を王太子自ら持ってきてくれた摘まみを食べながらも美野里は心の中で色々と試案していた。
”うーん。やっぱり分割かしら。”
「なによシータさっきからブツブツと分割分割って?」
「「分割?」」
摘まみを手に持った克也と王太子が同時に聞いて来た。
「えーとですね。私が住んでいた世界には家を建てるのにユニット工法なるものを使って建てる家もあったなぁーと思ってですね。それを使えないかと・・・。」
「そうかユニット工法かそれいいかも。」
克也がすかさず相槌を打って来た。
「ユニット工法ってなによ。」
「要は各部材 (ユニット) をどこかの工場で生産して,現場でそれらをつなぎ合せて住宅を建設することなんだ。そうすれば現場で作る工期の短縮がはかれる。でも確か反面で綿密な輸送,施工計画が必要なんじゃなかったかなぁ。」
「輸送ですって、それなら問題ないわよ。それこそ空間魔法ですっぽり切り取っちゃえばいいんだから。」
「よし。それなら王家主導で工事の人員をこっちで多量に使って砦の城郭を組み立てて行こう。」
「そうね。それならこっちが北の砦に移動をしている間に各ユニットを作って貰って、出来次第空間魔法で現地に運んで組み立てればそれで問題解決だわ。」
「えっとシェル。その空間魔法で運ぶ人間ってまさか・・・。」
「ウフッ。もちろん・・・ワタシとあ・な・た。」
シェルはそう言うと人差し指で可愛く美野里を指名した。
「ゲッなんでそんな大変なことをしなくっ・・・。」
「うむ。そうだな。では一回運ぶごとにこれくらいは出そう。」
王太子はそういうとサラサラとテーブルに置かれていたメモ用紙に一回の報酬額を提示してきた。
美野里はその提示された額を見て目を見開いた後、確約書を貰えるように交渉した。
「では確約書が出来た暁には。」
王太子はニッコリとイケメンスマイルで右手を美野里に差し出してきた。
「もちろん喜んでお手伝いさせて頂きます。」
美野里も確約書さえもらえれば喜んで手伝うと笑顔で応えた。
それを見ていた克也は念話で美野里にいくら提示されたのか聞いてみた。
”一ヶ月で新品の領主館一軒分よ。”
”うん、そりゃ喜んでだよな。”
納得して黙り込むとシェルが持って来た酒を手酌で注ぐとそれをグイッと飲み干した。
「魔術師って高級取りなんだなぁ。」
克也の呟きはシェルに聞こえたらしく突っ込まれた。
”あら知らなかったの。将来は妻に養って貰ったらウフフフ・・・。”
その考えにあまり抵抗のない自分に逆に克也は驚いた。
”あれ何で彼女に養ってもらうって考えに抵抗ないんだ?”
俺ってヒモ体質!
いやそれ男として情けなさすぎだろ。
シェルは隣で青くなったり赤くなったりする克也を見ていい加減彼女に惚れてるって気づけばいいのにと思ったがそれを言ってしまうと面白くなさそうなので黙っていることにした。
うふふふ・・・。
なんだかまた一波乱ありそうで楽しみだわ。
シェルは気分よくおかわりを自分のグラスに注いだ。




