42.精神的慰謝料!?
克也と美野里の二人が長期休暇から王宮に戻るとすぐにシェルに呼び出された。
「どうしたのシェル、まさか魔獣?」
「なんだ。まさかまた魔獣か?」
「あらあら二人とも開口一番にそれ?」
「「他になにがある(んだ)のよ。」」
「もちろんあながち間違っていないけど王都中に広がっている噂は知ってるかしら。」
「「噂?」」
「まさかまったく知らないの?あなたたち何してたの休暇中。」
「えっと部屋の掃除と食い倒れ。」
シェルは呆れ顔で美野里を見たあと克也に視線を向けた。
「えっ俺。いや同僚と色々だな。」
「ふーん何を色々か気になるけどいいわ。ここにはシータもいることだし聞かないでいてあげるわ。」
「おい、俺は別に疚しいことはしてない。」
「いいわよ。育ち盛りだもの性欲処理も大変よね。」
「性欲ってちょっと待て。失恋したばかりでそんなことするか!」
「あらあら無理しなくてもいいのよ。」
「無理してない。それにそんな大金、見習い兵士が持ってる訳ないだろ。」
「ま・・・まさか一般の素人娘に手を出したの?」
シェルが芝居がかった声で目を見開いた。
「だから手なんか出してないって。」
「あらあら場を和ませようとしてるだけなのに怒鳴らないで頂戴。」
「でっ本当の理由はなんなの?」
いい加減に二人の掛け合いに呆れた美野里が会話をぶった切った。
「シータはせっかちね。でもいいわ単刀直入に聞くわ。真実の”英雄と聖女”はその座を奪われたことをどう思っているのかしらってことが聞きたいんだけど?」
「英雄ってなんだ?」
「聖女って誰のこと?」
シェルは予想してたとは言え二人の会話に頭が少しばかり痛くなった。
「あんまり馬鹿な発言はしないで頂戴。本来なら聖女はシータのことだし英雄はショウ、あなた達二人のことよ。」
「「はぁあなんでまた?」」
「なぜなら私たちが魔獣の発生源を根絶したんだから名前が挙がるならこっちにならなくちゃおかしいでしょ。」
「でも一応裕也たちも魔獣を倒したんだから別にいいんじゃないか?」
「あーら、彼らが倒したのは私たちがこっちに来るまでに先に来ちゃったほんの少しの塊じゃない。倒した数を考えてもこっちが倒した数が断然多いわよ。」
「「・・・。」」
「まっそんな訳でそれについてお二人の意見を伺いたいんだけど。」
「意見って言われても別に有名になりたいわけじゃないし特にないかなぁ。」
「俺もあんな風に毎晩襲いかかられたくはないわ。」
「えっ何、その話?」
「何ってなんでか独身寮に忍び込んで来る侍女がここ最近急に増えて、悲鳴をあげた裕也が他の見習い兵士に部屋を譲ってもらったら、それを知らないでその部屋に忍び込んだ侍女が数十人くらいいて、そこに忍び込まれた見習い兵士が独身から妻帯者に大勢なってるらしい。」
「それ聞いて羨ましいって思わないの?」
「なんで羨ましいって思うんだ。俺は別に女性に襲われたいとか思わないぞ?それどころか不穏な空気を察した聖剣に叩き起こされてここ何日もまともに眠れなくて最悪だ。」
「へえー聖剣にそんな能力があるなんて初めて聞いたわ。ブラッドリイ様が喜びそうなネタね。」
「ちょっと待て。そんなこと知られると爺さんに追いかけ回されそうで嫌なんだけど。お願い今の話はナシで聞かなかったことでお願いします。」
「まあ事情はわかったわ。ならこの精神的慰謝料請求は私だけでいいわね。」
「「精神的慰謝料!」」
「そうよ。真実とかけ離れている噂を放置してるんですもの本当の貢献をしたものとしてはそれについて物申さなくちゃダメでしょ。」
「ちなみにおいくらくらいが相場でしょうか?」
美野里がサッとシェルの背後に回ると彼が持っている書類に目を通した。
そこには新築の領主館が現金でマルッと買えそうな値段が書かれていた。
「ちょっ・・・ちょっと待ったぁー。本当にその額請求出来るの?」
「アラこれでも安いくらいだからすぐに通るわよ。」
美野里はシェルの肩を揉みながら猫なで声で話しかけた。
「あのーシェル。さっきの話は撤回するわ。私もその書類に名前を入れて頂戴。」
「おいおい。なんで急にそうなるんだ?一体いくらんだよ。」
訝しんだ克也がその書類を覗き込んだ。
「シ・・・シェル。俺もその話に乗らせてくれ。」
「アラアラ二人とも急にどうしたのかしらって言いたいけど一緒に討伐した仲間だから入れてあげる。」
二人はそれから無言で色々と要望を言って来るシェルに心の中では悪態を吐きながらもつきあった。
二人は半信半疑になりながらも数日で自分の手元に転がり落ちて来た大金に噂を流した人間を拝んだ。
噂を流した人ありがとう。
美野里は早速貰った大金を空間魔法で仕舞ったがそれが出来なかった克也は彼女にお願いして自分の分を預かってもらった。
「別に預かるのはいいけどほしいときはどうするの?」
「取り敢えず必要になったら声を掛けさせて貰うよ。」
「分かったわ。でもどうせなら空間魔法を覚えれば?」
「うっ・・・そのうちに。」
その後も何度か試して見たがなんでか克也は空間魔法だけは上手く出来なかった。
だが後で裕也にこっちの世界にも銀行らしきものがあると教えてもらったのだがその時は違う意味でそれは必要にならなかった。




