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41.ドッキドキ!

 克也(かつや)は見知らぬ和室で目が覚めた。

 目の前には障子があり自分はどうやら布団で眠っていたようだ。

 一瞬まだ”北の砦”での魔獣討伐中かと思ってしまったがそんな訳はない。

 慌てて起き上がると障子の向こう側から声がかかった。

「起きたなら朝風呂に入ってくれば。気持ちいいよ。」

 障子の向こう側からなんでか聞き覚えのある声にはっきりと目が覚めた。

 思わず自分の状態を見るとしっかりと昨日の服を着込んだままだ。

 なんでかホッとしてから布団から起き上がって障子を開けるとそこには丸ちゃぶ台があって、そこに座布団が置かれ小さなダイニングキッチンがその向こうに見えた。

 そこでは現代日本と変わらないレンジが置かれていてちょうどチーンという聞きなれた音が鳴って見知った人物がそこからカップスープを取り出すところだった。

「何か食べてからお風呂入りに行く?」

 何か食べてからと言われて自分が空腹であることを自覚した。

 克也(かつや)は温めたスープとパンを丸ちゃぶ台に置いて食べ始めた美野里みのりに何と声を掛けていいか分からずその場で固まった。

 まったく話しかけても反応がない克也(かつや)美野里みのりは首を傾げた。

「もしかしてどこか体調が悪いの?」

「あっいや。そんな訳じゃないけど何で俺ここにいるんだ?」

「ああ、もしかして酔いすぎて覚えてない。」

 克也(かつや)は素直に頷いた。

 美野里みのりは温めたパンを齧りながらどこから話そうか考えた。

「うーん、結論を言うとこの近くにある大浴場でお風呂入って出て来た時に飲んでいるグループに捕まってあなたを押し付けられた。」

「えっとあまりにも端折られてるけどその押し付けた連中は何処に行ったとか聞いても?」

「たぶん巨乳のお姐さんのとこかしら。」

 美野里みのりはパンとスープで軽い食事を終えるとコーヒーを飲むためにサイフォンを取り出した。

 目を丸くして見ている克也(かつや)の目の前で鮮やかな手つきでコーヒーを入れる。

 コーヒーのいい香りが部屋中に満ちていく。

 コプコプという音がしてお湯が上のガラスにすべて吸い上げられると美野里みのりはランプの火を消してカップにコーヒーを注ぐと飲みたそうにしていた克也(かつや)にも出してくれた。

「目が覚めるわよ。」

「ああ、ありがとう。」

 克也(かつや)も座布団に座ると丸ちゃぶ台に置かれたコーヒーを飲み始めた。

「うまい。」

「でしょう。うんうん。」

「でも・・・なんでコーヒーなんだ。ここなら緑茶だろ」

 克也(かつや)は折角出してもらったのに言いづらそうにしていたが思い切って尋ねた。

「うーん。言ってることは正しいけどこの世界にある緑茶って見た目は緑茶なんだけどはっきり言って、値段のわりに不味いのよ。」

「そうなのか?そう言えば緑茶って見た憶えないな。」

「一応王宮に行けばあるけどあまりお勧めはしないわ。」

「ふーん。そういうもんか。ところで朝風呂ってさっき言ってたけど王宮でも王族以外は普通シャワーだろ?」

「フフフ。なんとこの近くに大衆浴場があるのよ。だから朝風呂入ってくればって言ったの。」

「そりゃ魅力的だけど俺今すっからかんだから無理だわ。」

「それなら大丈夫よ。ここの大浴場の支払いお金じゃなく魔力だから。」

「はぁあ魔力?」

 克也(かつや)は勧められるまま大浴場に行って見た。

 そこは現代日本の某浴場と同じように男女の暖簾が入り口に掛けられていた。

 そのまま男と書かれた暖簾をくぐり中に入るとすぐに脱衣所になっていてそこにはタオルだけではなく下着まで置かれていた。

 克也(かつや)は教えて貰った通り、タオルが入っている棚に手を触れると少し魔力を失った感覚の後にタオルが一つ出てきた。

「へえー、本当に支払いが魔力なんだ。」

 克也(かつや)はそのタオルを持って洋服を脱ぐと浴槽に続く引き戸に手を触れた。

 さっきより多く魔力を吸い取られる感覚の後、引き戸が開けられるようになった。

 浴室の中はまさに現代日本の銭湯を彷彿させる湯気とところどころに岩と緑色の植物が置かれていた。

「へえー露天風呂か。」

 克也(かつや)は軽く外で体を洗うと湯気でよく見えない露天風呂に足を踏み入れた。

 朝のヒンヤリした空気に温かいお湯。

 こっちに来てからはあの異世界空間以外はいつもシャワーばかりだったので何とも気持ちいい。

 肩まで浸かって頭にタオルを乗せ、ボウとしていると隣に人がいるのに気がついた。

 一応挨拶するととんでもない人物と鉢合わせしたことに気がついた。

「あら、ショウじゃない。朝風呂で一緒なんて運命かしら。」

 そこには髪が濡れないように頭にタオルを巻いたシェルが岩一つ向こう側にいた。

「シ・・・シェルがなんでここに。」

「あーらぁ、シータに聞かなかった。ここ周辺は私の血族が管理しているのよ。でもこんなに朝早く入りに来たのは久し振りかしら。」

「げっ!なんでこっちに来ようとする。」

 克也(かつや)は思わず聖剣を構えるとジリジリと浴室の唯一の出口である扉まで下がった。

「あらあら別に無理じいなんかしないわよ。」

 シェルが呟いた時はすでに克也(かつや)は浴室を脱出すると昨日の服を着て銭湯を出ていた。

 朝風呂で疲れを癒すはずが入る前以上に疲れた。

 なんでだぁー。

 克也(かつや)美野里みのりにお礼もそこそこに自分が今住んでいる見習い兵士用の独身寮に飛んで帰った。


 真っ青な顔で帰って来た克也(かつや)は先に戻っていた同僚にきっと夜の営みを失敗して落ち込んでいると勘違いされ大いに仲間に慰められた。


 くそっ。

 いつかお前らをシェルが入っている時間帯の朝風呂に招待してやるからな。

 克也(かつや)は密かに復讐を誓った。

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