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40.有意義な休暇?

 美野里みのりは”出来上がった報告書は私が届けるからもう休暇とっていいわよ。”と珍しく殊勝なことを言って来たシェルの言葉に一瞬耳を疑ったもののたいぶ疲れてもいたのでシェルにそれを一任した。

 すぐにその出来上がった報告書を渡し王宮を出ると、数が月ぶりに王宮外に借りている大衆浴場が併設された長屋に戻った。

 そこはこの王都では珍しく純和風な造りで周辺にある食事処も和食風な店が軒を連ねていた。

 美野里みのりが数か月ぶりにそのメイン通りを歩いていると憶えていてくれたのか何人かの店の女将に声を掛けられ残り物を頂いた。

「ありがとうございます。」

 美野里みのりは丁寧に頭を下げると会う人会う人にお互い様だから気にするなと温かい声を掛けて貰えた。

 なんだかホッと心が温かくなる。

 ここ数か月は死ぬほど色々あった。

 もっとも向こうの世界では死んでいるので死ぬほどという言葉は当てはまらないかもしれない。

 美野里みのりは一旦平屋の長屋の一番端にある自分が借りている部屋の引き戸を開けると貰った残り物を小さな台所にある大きな冷蔵庫に放り込むとベッド脇にある小さな洋服ダンスから着替え用の服を取り出し、それを持ってこの長屋の反対側にある大衆浴場に向かった。

 ここを何で知ったかというと王都に連れて来られて右も左も分からない時、シェルに気分展開になるわよと連れて来られた時だ。

 あまりのなつかしさに絶対ここに住みたいと固く決心した。

 すぐに行動を起こした私に目を丸くするシェルがいたが無視して喰いつかんばかりに頼み込むとここを紹介して貰った。

 あとで知ったのだがこの周辺なシェルの血族が所有している物件とのことだった。

 それにしてもこの王都周辺とは明らかに違うものをどうやって作ったのか、いやこのような建物を何で知っていたのかそっちの方が不思議なのよね。


「まあシータちゃん久しぶりね。」

 そんなことを考えているうちにいつの間にか大衆浴場の入り口に着ていた。

 そこで黄色の髪を上品に括った巨乳のおばさんと小さな赤毛の女の子がタオル片手に通りに出てきたところ出くわした。

「あっお久しぶりです。」

 この巨乳のおばさんはこの周辺の監督役をしている人だ。

 オバサン曰く”シェルは私の遠い親戚なのよ”とのことだった。

 本当かどうか確認したわけではないのでわからないが人柄はとてもいい。

 今も隣にいる娘は引き取り手がなかったのを聞いて彼女が引き取って育ていると食堂の女将さんたちが教えてくれた。

「あらこれからなの。今空いているから良かったわね。」

 美野里みのりは”ありがとうございます。”と頭を下げるとすぐに暖簾をくぐって脱衣所に入った。

 確かにそこには誰もいなかった。

 美野里みのりは今がチャンスだとすぐに真っ裸になるとタオルが置いてある棚の引き戸に魔力を流して真新しいタオルを取ると浴室の取っ手にこれまた魔力を流して入った。

 この大衆浴場はすべての機能を魔力で賄っている代わりに入る時も魔力での支払いが必要になる。

 なので貴族だろうが平民だろうが魔力がないものがここに入る時は魔力代わりになるものを持ってくるか魔力を持っているものと一緒に入るしかない。


 最初は不公平に思えたので食堂の女将さんに聞いてみるとこの世界では子育て中の女性はどんな人間でもその期間は例外なく魔力が高くなるようで女性にとっては公平なところよと笑っていた。

「むしろかわいそうなのは男どもかしら。でもあいつらは真っ裸で川で行水も出来るし問題ないわね。」

 そう言って思いっきり背中を叩かれた。

 あの時は痛くて涙目になっていたな。


 美野里みのりはそんなことを想い出しながら体を洗って湯船に浸かるとたっぷりとお湯を堪能してから通りに出た。

 今日はさっき頂いた残り物で済まそうと自分の部屋に向かっていると向かいの通りから聞いたことがある声が聞こえて来た。

「うわーん!ノルマさんがノルマさんがァ~。」

「おい、諦めろ。団長相手じゃ無理だって!」

 ジョッキを抱えながら泣き喚く男を慰める同僚が数人、メイン通りの道路脇に置かれたテーブルにいた。

 ヤバイ。

 美野里みのりは咄嗟に引き返そうとしたがすでに遅かった。

 酔っていたはずの克也(かつや)になんでか気がつかれ目線があった。

「あれ?なんでシータがここにいるんだぁ?」

 なぜ君はそんなに酔っているのに気がつくんだ。

 心の中で突っ込んでいると彼の同僚にも気がつかれた。

「「「シータ。」」」

 三人の男の目線が逃げようとしていた美野里みのりを捕らえた。

 さすが腐っても騎士。

 すぐに美野里みのりは捕獲されテーブルで泣き喚いている克也(かつや)の隣に座らされていた。

「キイテクレ、シータァ~・・・ノルマさんがァ~・・・。」

 遠い目をした美野里みのりの肩を今まで一緒に飲んでいた男たちが力強く叩くと

「「「こいつの話を聞いてやってくれ。俺達これから可及的速やかに行かなければならないところがあるんだ。」」」

 彼等はそう言い放つと隣のテーブルに座っていた巨乳な女性の面々と連れだって何処かに行ってしまった。


「ちょ・・・。」

 我に返った時にはすでに遅かった。

 美野里みのりは今度は酔ってべろんべろんになった克也(かつや)を押し付けられた状態でどうしようか途方に暮れた。

 なんでこんなことになってるの?

 確か有意義に休暇を過ごすはずがなんでこんな状態に?

 そうよ。これからすぐに王宮に魔法で転移出来・・・ないんだった。

 シェルに連絡すれば・・・。

 いやいや違う形でお持ち返されるってことはある意味同級生を売ることになる。

 ダメよいくらなんでも良心の呵責に苛まれちゃう。

 諦めた美野里みのりは素直に身体強化魔法を使って克也(かつや)を背負うと自分の部屋に向かった。

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