表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/51

39.近衛師団長(キャッチ)は両刀使い!

 なんとかブラッドリイから解放された近衛師団長キャッチはヨレヨレになりながらも、これでやっと休みが取れるという希望を胸に自分が住む部屋に向かって歩いていくと後ろから聞き覚えのある声に呼び止められた。

近衛師団長キャッチさま。待って下さい。」

 ちょうど兵士見習い独身寮の日当たりの悪い北側で近衛師団長キャッチは振り向いた。

「ノルマさん。なんでまたこんなところに?」

 ノルマは近衛師団長キャッチに近づくと深々と頭を下げた。

「ごめんなさい。」

「ちょっ・・・いきなり頭を下げないでください。どうしたんですか?」

「今さっき王宮でおじいちゃんとすれ違ってさっきの件を聞いたんです。だから・・・グスッ・・・。」

 ノルマは堪え切れなくなって泣き出してしまった。

「ほんとうに申し訳ありません。私のせいなんです。」

「いや、これはノルマさんのせいでは・・・。」

「いえ、私が近衛師団長キャッチさまを好きになったばかり・・・。」

 ノルマは思わず自分の本音をしゃべってしまい真っ赤になった。

「えっ!」

 近衛師団長キャッチはいきなり告白されてしまい呆気に取られた。

「あ・・・あのいいんです。近衛師団長キャッチさまに好きな人がいるっていう話は聞いているんです。でも・・・わたし諦めきれなくてあのーそれで・・・。」

「俺に好きな人?いえ、いませんけど。」

 近衛師団長キャッチははっきりとそれについては否定した。

 今まで仕事が忙しすぎてデートと呼べるものどころか異性とゆっくり話すことさえ出来ていない。

 なので好きになった女性はいなかった。

「あのー無理しなくてもいいんです。王宮で噂になっていますから。」

「噂って一体誰とですか?」

「えっと本妻がシェルさまで愛人があのーショウさんって有名ですから。」

 ちょっと待て。

 それって両方ともおと・・・男じゃないか。

 なんでそんな変な噂になっているんだ。

 いやだぁー。

 その噂、誰か止めてくれ。

「あのーでもそれを聞いても私、諦めきれなくてそれでもいいから好きでいても・・・。」

 ノエルが下を向いて告白している間に近衛師団長キャッチは我に返るとノルマの両手をガシツと自分の両手で掴み上げるとそれを彼女の顔の高さまで持ち上げて力説した。

「言っておきますけどノルマさん。俺は男が好きなわけじゃないですから。誰が何と言おうと僕は女性が好きなんです。」

「えっ・・・好きって・・・えっ・・・えー。そ・・・それじゃ私と付き合ってくれるんですか?」

「だから女性が好きなんです。」

 どうも平行線過ぎているような二人の会話は”兵士見習いの独身寮”から何人もの見習い兵士に見物されていた。

 ”おい、見ろよ。団長キャッチが女性の手を握って何かいってるぜ。”

 ”あっ見てみろ。今抱きしめた。羨ましい。”

 ”団長キャッチは男だけじゃなく女性もいけるのか?”

 ”おい、見てみろキスしてるぞ!”

 羨ましさと嫉妬が相俟ってこの日の密会ならぬ会話はすぐに王宮中に広まった。


 二人はひとりしきり自分たちに都合がいい会話を展開するともうすぐ仕事に戻らなくっちゃならないというノルマが走り去って行くまで平行線のまま続いた。

 近衛師団長キャッチは最後にノルマが自分を指差して恥ずかしかったのか曖昧な感じで”好きなんですね”と言ったのを彼女が指摘したのは”女の人が好きなんだ”と理解してくれたと勘違いしたままそこで会話は終わった。


 やっと自分のことを理解してくれたと安堵の息を吐いた近衛師団長キャッチは無事自分が住んでいる王宮近くの自宅でゆっくり休暇を過ごした。

 数日後、王宮に戻ってくると噂は尾ひれがついて修復困難なものになっていた。

 さらに多数の目撃者である見習い兵士が余計なことを言いふらしたため、近衛師団長キャッチが仕事に戻って来た時には実家から早急に結婚して責任を取るようにとの書類が届いた。

 そして、それを見たブラッドリイは杖を片手に今にも突撃して来ようとしたがそれに気がついたノルマが必死にそれを止めようとしてくれた。

「ちょっとおじいちゃん。待ってまだそんなことしてないから。噂は本当な部分もあるけど・・・けど大丈夫だから。」

「なにぃー。本当のこともあるだとぉー。許すまじ近衛師団長キャッチ。儂が引導を渡してやる。」

「おじいちゃん。興奮しないでそんなことしたら私、未亡人になっちゃうよぉー。」

「未亡人ということはやはり・・・。」

 ブラッドリイは杖を高く振り上げた。

 二人の会話を聞いているうちに近衛師団長キャッチはいい加減に面倒になってきた。

 なんだってこんな騒ぎになっているのか理解不能だったがわかるのはこの婚姻届けにサインすれば一応杖を振り回そうとするブラッドリイ様はとめられるだろう。

 近衛師団長キャッチはサラサラをきれいな字で書類にサインをすると自分の祖父を必死に止めているノルマに渡した。

「えっ、近衛師団長キャッチさま。」

 いきなり書類を渡されたノルマは書類を手に怪訝な顔をしてそれを眺めて固まった。

 固まってから少ししてわれに返ったノルマは近衛師団長キャッチのシャツを掴むと大慌てで詰め寄った。

「な・・・なんでこれにサインしてるんですか?」

「私ではご不満でしょうか。」

「ふ・・・不満なんかあああありません。」

 ノルマはそれだけやっと返すと貰った書類に自分の名前を書き込むとそのまま制裁を止めようとしていたブラッドリイを置いて”婚姻届けを出してきます。”と嬉しそうな声で叫ぶと王宮に駆けて行った。


「こ・・・婚姻届けだと・・・ちょっと待つんだノルマァ~。」

 ブラッドリイも王宮に向かった孫の後を追った。


 しかしノルマはどうやったのか。

 近衛師団長キャッチの予想に反して無事に”婚姻届け”を王に提出してしまった。


「くそっ。さすが儂の孫じゃわい。」

 婚姻届けの書類提出を阻止出来なかったブラッドリイはシェルの執務室でブツブツと愚痴を呟いていた。


 シェル曰く

「今度の砦改修隊のメンバーにノルマさんも入れようかしら?」

 ブラッドリイに出したお茶を自分でも飲みながらこれから取り掛かる砦改修隊のメンバーを頭の中で編成していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ