36.影の恋人!
「はぁあ疲れた。」
克也は最後の負傷兵を緊急病室になっている部屋に運び込んでから外に出た。
そこにノルマが魔法薬の瓶を抱えて走って来た。
「ノルマさん。」
「まあお疲れ様。よかったわここで会えて。近衛師団長さんとおじいじゃなかったブラッドリイ様からの伝言でこれ終わったらすぐに休暇にしていいってことだったわよ。」
「本当ですか。ならえっと俺終わるまで待ってますんで一緒に食事でも行きませんか?」
「あっごめんなさい。私この後もまだ仕事があるからまた誘ってね。」
ノルマは笑顔でそういうとそのままさっき克也が出て来た部屋に入って行った。
「ああ、お前じゃ無理無理。」
そこに後ろからグイッと襟首を掴まれ左側からはむさくてごついオッサンの太い腕が巻き付いた。
「ああ、諦めろ。ノルマさんは近衛師団長に惚れてるんだから無理だぞ。」
「ええ近衛師団長!」
「そうそう貴族は貴族同士。庶民は庶民ってな。よし俺が巨乳のねーちゃんがいるところに案内してやる。」
克也はなんでか気に入られた北門を守備する守備隊の面々に引きずらるようにそのまま大衆酒場に連れ込まれた。
「おい、酒と食事を持ってこーい。」
「あいよ。」
そこには確かに巨乳の面々がいた。
克也曰くねーちゃんじゃなくどう見てもおばちゃんだったが空気を読んで何も言わずに黙って美味しいものを鱈腹胃におさめた。
明け方近くに守備隊の面々と別れた克也は疲れた足取りで兵士見習いが住む寮に戻って来た。
寮の前で溜息を吐いていると目の前に近衛師団長が歩いて来るのが見えた。
かなり泥酔していた克也は座った目で足早に歩いて行くと近衛師団長に後ろから声をかけた。
「近衛師団長。」
近衛師団長はいきなり明け方に後ろから声を掛けられビクリとして振り向いた。
そこには酒臭い息を吐く克也がいた。
「どうした?」
「俺聞いたんです。近衛師団長がノルマさんを弄んだって。」
「おいおい。お前何を言ってるんだ?」
「もうノルマさんのお腹の中には・・・ウッ。」
「ちょっと待て、今のいいかた・・・。」
近衛師団長は後ろに冷気を感じてそちらを振り向いた。
そこには鬼の形相で近衛師団長を睨み付けるブラッドリイが杖を掴んでプルプルしていた。
「おまえ・・・お前はノルマに手を出してよしんば・・・ハラ・・・孕ませたのか。」
「いやいや、待って下さい。誤解ですってゴカイ。」
「ほう、やり捨てたと。」
「ち・・・違います。」
ビシッ。
近衛師団長が冷気を浴びてそれを咄嗟に避けると今まで彼が立っていたところが雷撃魔法で黒く焦げていた。
「ちょ・・・マジですかぁー。」
近衛師団長は諦めて戦略的撤退を試しみた。
「こら逃げるなぁー。諦めて儂の鉄拳を受けろぉー。」
「それ受けたら俺死んじゃうんでご遠慮します。」
二人は明け方でまだ薄暗い中なのに広場で鬼ごっこを始めた。
「うっ・・・あんなに仲がいいなんてぇー、酷過ぎだぁー。」
泥酔状態の克也はそのまま泣き喚きながら自分の部屋に駆け込んだ。
それを見ていた兵士見習い寮のみんなから克也は密かに近衛師団長の”影の恋人”と呼ばれるようになった。
ちなみに後日それを知った克也は必死に弁解したが誰一人信じてくれなかった。
噂って怖いコワイ。




