35.真実の書
魔術棟に戻って来たシェルは早速自分の部屋にいってしまった。
美野里も手早くシャワーを浴びると早めに報告書類を書くためにペンを持って今回の真相を書き綴った。
なるべく感情的にならずに真相だけを書くように努めた。
それでも書きながら今まで自分たちが行って来た魔獣殲滅だが元を正せば彼らは自分たちと同じ人間だったかと思うとペンが度々止まってしまう。
「はあぁー考えちゃうよね。」
美野里はある程度書いてから最後にの章に彼らを元の人間に戻す方法について書くかどうか迷った。
そこに珍しく王宮の外で騒ぐ民衆の声が風に乗って聞こえて来た。
どうやら彼らは無事魔獣討伐が出来たことを喜んで叫び声をあげているようだ。
窓辺に寄って各部屋に揺れる光を見ているといきなりバンという音とともにシェルが入って来た。
「もううるさくて眠れない。」
ドン。
良い音を立ててシェルが高級そうな酒瓶をテーブルに置くと持って来たグラスにそれをなみなみと注ぐと美野里にそのグラスを押し付けて来た。
「シータも飲みなさいよ。真面目に報告書を書いていると今回の件は嫌になるから飲みながら書きなさい。」
飲んでたら書けないと思ったが珍しくこれ以上書くきにならなかった美野里はグラスを受け取ると席を立って傍にあったふかふかの椅子に腰かけた。
少し窓外を眺めてからグイッとお酒を煽った。
喉が焼けるような強いお酒が流れていく。
「うっ・・・これ結構強い。」
「まあそれくらいじゃないと飲めないでしょ。」
普通は逆なんじゃないという思いを込めてシェルを見ればなんでかシェルは外の喧騒をジッと見ていた。
「ねえシータ。あなたは聖女とか英雄とかに興味ある。」
「唐突になんのことを言ってるのかわかりませんが物語的に好きかと言われれば別に好きではないですね。」
「あら以外。普通英雄とか聖女みたいな特別ってあこがれるでしょ?」
「特別って普通じゃないってことでしょ。それって大変だからってことなんじゃないですか。」
「まあ、そうね。」
「なら遠慮します。」
「そう・・・そうね。さすがシータだわ。じゃこれは特別よ。」
そう言ってシェルはもっと高そうなお酒を出すといつの間にか空になっていた美野里のグラスに注いだ。
今度は芳醇な香りがグラスから湧き上がってくる。
「これ高そうですけどどうしたんですか?」
「うーんここにまだ戻って来ないショウと飲もうと思って持って来たんだけどまだ戻ってないみたいだから優しい私はシータのところに持ってきたわけ。」
優しいじゃない気がするけどこの芳醇さは今まで飲んだことないわぁ。
二人でグイグイ飲んでいるうちに瓶の中身は空になっていた。
「シータ。言い忘れたけど魔獣を人に戻す方法ならもう禁書に指定されている”真実の書”に書かれているからいまさら書かなくても大丈夫よ。じゃ私はちょうどほろ酔いなんで部屋に戻るは。」
シェルはそれだけ言うと空瓶をそのままにして部屋を出て行った。
美野里は空になった瓶を空間魔法で瓶置き場に放り込むと戻って最後の章に一筆書き添えた。
魔獣を人間に戻す方法は”真実の書”にすでに書かれています。




