34.魔獣殲滅
王都が見える小高い丘の上にシェル達はやっと到着した。
彼らの視線の先には城壁に突っ込もうとする魔獣がウヨウヨしている。
「はあぁー。まだあんなにいるのかよ。」
「まあボヤかない。今日でもう終わりなんだから諦めなさい。」
「そうかよ。あーあれって。」
克也が見ている方向には魔獣を聖剣で倒している裕也と彼を襲うおうとする魔獣を攻撃魔法で倒す朱里がいた。
「おちゃーなんか危なっかしいなぁ。」
少しの間我慢して見ていた克也だがイライラしすぎて丘の上から彼らの所に聖剣を出すと駆けて行った。
「あらあら。なんやかや言いながら朱里ちゃんのことが気になるのかしらねぇシータ。」
シェルは自分の後ろにいる美野里がどんな反応を返すのか心底楽しそうに声を掛けて来た。
「何をそんなに期待しているのかわかりませんが私たちはあっちで戦っている近衛師団の方たちを助けたほうがよくないですか?」
美野里はそういうと魔獣たちに今にも食い殺されそうな近衛師団長たちを指差した。
「あらあら本当。あのままだと食べられちゅうわね。仕方ないわ。助けてあげましょう。」
シェルはそういうと魔獣に囲まれている近衛師団長たちの方に馬で駆けていく。
その間も彼らを囲む魔獣の輪がだんだんと狭まっていった。
「あらん。間に合わないかしら。」
それを見た美野里はシェルに捕まっていた手を離すと左手に”白の書”を出して魔獣の群れに魔法を放った。
彼等を囲んでいた魔獣たちが一瞬で白い炎に包まれ消滅した。
そこに遅れて駆けつけたシェルが近衛師団長に踏ん反り返って声を掛けた。
「危なかったわね近衛師団長。」
「シェルか。助かったよ。」
「あらあら何もしてない私にお礼を言って来るなんて嬉しいわ。」
「えっじゃ今のって?」
近衛師団長の視線がシェルの後ろに乗っている美野里に向けられた。
ずいぶん眺められてから一言呟かれた。
「さすが”白の書”を扱うものだな。」
「あらシータにお礼は?」
「ああすまん。あまりにも驚いてしまって、ありがとう。」
「いえ。」
美野里はそっけなく返事をしたがシェルはそれが面白くなかったようだ。
「シータ。もちょっと嬉しそうに返事したら。これでも王宮ではモテてるのよ。一応独身貴族的には一押しって言われてるんだから。」
「おい、一応は余計だ。」
二人が言い合いを始めてしまい彼の部下たちが呆れた含んだ視線を向けている。
そりゃそうだよね。
ここ魔獣討伐の真っただ中なんだから。
美野里が状況を無視している二人に何か言おうとするうちにまた魔獣に囲まれていた。
美野里は前にいるシェルの背中を突っついた。
「なによ煩いわねシータ。」
美野里は何も言わずに周囲にいる魔獣を指差した。
「あらまだいたの。仕方ないわね。右半分はシータがやって頂戴。左半分は私が受け持つわ。」
シェルの提案に美野里は頷くと馬から魔法を使って飛び下りる。
シェルも同じように下馬すると杖を出して美野里と背中合わせになった。
美野里が”白の書”を出して右半分の魔獣を消し去り、左半分はシェルの魔法で同じように消滅した。
近衛師団総がかりで行っていた討伐は二人が数分で片付けてしまった。
それを見た近衛師団の全員が二人を遠巻きにしている。
近衛師団長が気持ちはわかると頷きながらも美野里に声をかけた。
「助かったよ。シータさん。」
「いえ。」
「ちょっとちょっと、私にお礼は?」
シェルが近衛師団長の背中をトントンと杖で突っついてニコニコ顔で迫った。
「あ・・・あ・・・ありがとうシェル。」
「あーら。ちょっとしか心が籠っていないけど受け取ってあげるわ。」
近衛師団長の右手がプルプルと震えた。
彼の部下が慌ててシェルと近衛師団長の間に入り二人を引き離した。
「近衛師団長。討伐も終わったので帰還しましょう。」
確かに周囲を見る限りでは魔獣らしきものの姿はない。
「そうね。ほこり臭いし早く王宮でシャワー浴びたいわ。魔術師団長には宜しく言っといて。」
「ああぁーっておい。」
近衛師団長が我に返った時には空間魔法で出したドアを開け二人は先に王宮に戻っていった。
ドアがパタンと閉まった時やっと魔術師団長がこっちにやって来た。
「近衛師団長。シェルたちは?」
「シャワー浴びるって先に王宮に戻ったよ。」
「はぁあ戻っただと・・・これから討伐した後始末も手伝わないで何やってるんだ。」
「まあ、疲れてるんじゃろ。今回は大目に見てやれ。」
「ブラッドリイ様が甘やかすからですよ。」
「えー先に帰ったのかよ。俺置いてけぼり。」
そこに克也がやって来た。
「おお、良いところに来た。後片付け要員ならここにいるから問題なかろう。」
「ひでぃ。何気に俺得してないじゃん。」
「うむ、なら先に帰った二人に報告書を全部書かせてその分先に休みを取らせてやろう。」
ブラッドリイの提案に頷きながらも直属の上司に当たる近衛師団長を見た。
近衛師団長は何時も勝手に決めてという表情ながらも頷いてくれた。
「よっしゃぁー。」
克也は両手を握ってニンマリすると負傷者を運び始めている近衛師団の隊員とすでに重傷者を治療している朱里とそれを手伝う裕也に合流した。
ちなみに魔獣討伐後にすぐに治療を始めた朱里は聖女としての名をこれによってさらに高めた。




