32.王都での魔獣討伐
「ブラッドリイ様、た・・・たい・・・大変です。王都の北側から多数の魔獣が近づいて来ています。」
ブラッドリイがシェルたちと話を終えて通信を切った途端、伝令が部屋に飛び込んで来た。
「数は?」
「か・・・数えきれません。」
どうやら本格的な魔獣討伐が必要なようだ。
さて、あの小僧の言う通りだとすると訓練より実践と言っていたな。
それにあの戦力を城に置いていても宝の持ち腐れか。
ここは腹をくくってやって見るかのぉー。
ブラッドリイはそういうと駆け込んできた兵士に魔術師団長の所で魔法修行をしている朱里をこれから魔獣討伐を行う最前線に連れてくように言うと同じく近衛師団長の所で修行している裕也の所に向かった。
ブラッドリイが魔術棟を出て近衛師団の訓練場となっている広場に着くとすでに伝令が来ていたようで全員が鎧を来て出陣の準備をしている所だった。
「裕也。」
ブラッドリイは広場の端で素振りをしている裕也に足早に近づくと声を掛けた。
「ブラッドリイ様。」
裕也はびっくりした顔で素振りを止めると木剣を持ったままブラッドリイの所まで歩いてきた。
「どうかしたんですか?」
「出陣の準備をして来い。最前線で戦ってもらう。」
裕也は困惑しながらも頷くと準備の為走って行った。
「どうしたんですか急に。」
そこにブラッドリイが来たのに気づいて近衛師団長が鎧姿でやって来た。
「良い所に来た。これから裕也を最前線に連れていく。」
びっくりした顔で近衛師団長がブラッドリイの顔をマジマジと見た。
「本気ですか。まだ早いと思いますがなんでまた急に。」
「今回の魔獣の数だと最大戦力になるかもしれん人間を城に留めおく余裕はないからだ。」
「まあ確かにそうかもしれませんが訓練を考えるとちょっと・・・。」
「心配するのも無理はないが本人を良く知る人間の提案だ。ダメなら儂が城に転送するかそっちの部隊に戻す。」
「分かりました。」
ちょうど近衛師団長と話が終わった所に裕也が聖剣を腰に指し鎧を着てやって来た。
「よし、準備はいいか?」
「はい。」
「では最前線に行く。儂にしっかり捕まっておれ。」
ブラッドリイはそういうと腕に捕まった裕也ごと空中に浮かび上がるとそのまま最前線に向かった。
魔法で防御されているとはいえ飛行機に乗っているわけでもない状態で空中に浮かんだ。
そしていきなり景色が物凄い勢いで後方に飛んで行った。
その感覚に慣れない裕也はブラッドリイの腕に捕まった状態で硬直して動けなくなった。
こ・・・こえぇー!
それでもなんとか足元のスカスカ感に耐えながら最前線と言われた場所まで頑張った。
そこについたときは安堵のあまりその場にへたり込みそうになった。
だが体感的には長かったが時間的にはそれほどまではかかっていないようだ。
なぜならそこはちょうど王城を取り囲む城壁のすぐ北側にあったからだ。
城壁から見るとすでに戦闘は開始されているようであちこちで魔法による爆煙や魔獣の叫び声に混じって兵士たちの声も聞こえていた。
「さて、魔術師団長たちは・・・。」
「朱里!」
裕也の眼前には最前線で魔獣の攻撃を防御魔法で押し止めながら戦っている朱里が見えた。
なんで朱里がこんなところにいるんだ。
裕也は腰に差した聖剣を抜くとそのまま城壁を飛び出した。
ブラッドリイが裕也に気がついて制止する前に彼は城壁にある緊急用の梯子を滑り降りどこかに走り出していた。
よく見ると裕也が走っている先にはすでに魔術師団長たちが交戦していたようだ。
裕也が駆けつける前に朱里は隙を突かれ魔獣に取り囲まれていた。
すぐにそれに気がついた裕也が訓練では一度も使えなかった魔法を剣に纏わせるとそのままそれを振り抜いた。
剣から放たれた魔法は寸分たがわず朱里の周りにいた魔獣に命中すると魔獣たちは白い炎を上げて燃えていく。
「ほう、さすがは近しいものの意見だのぉー。」
ブラッドリイが感心しているうちに裕也は訓練では出来なかった技を次々に繰り出して朱里を守っていった。
彼女は彼女で裕也の隙を突いて襲って来ようとする魔獣を攻撃魔法で次々に倒していた。
「ほう、こちらにも相乗効果があったようだな。」
ご満悦で眺めていると魔術師団長から攻撃魔法がブラッドリイに向け放たれた。
ブラッドリイはそれを杖を軽く振って消すと城壁から飛び出して彼らが戦っている最前線に加わった。
さて儂も久々にかんばるかのぉー。
爺さんサボるなよ。
少し離れた所にいた魔術師団長はやっと攻撃に参加したブラッドリイにそう呟いた。




