31.夢と"白の書”
美野里はテントに入るとすぐに空間魔法を発動して引き戸を出すとその中に入るとなんとかシャワーだけ浴びて布団に飛び込んだ。
もう眠くて眠くて立っていられなかったのだ。
ぬくぬくとした布団の感触に美野里の意識はすぐに夢の中に飛んだ。
「お嬢さん。可愛いお嬢さん。」
なんでかすさまじく眠いのに美野里を揺さぶって起こそうという人がいた。
ちょっとうるさいわよ。
私は疲れていて眠いのよ。
起こさないで!
美野里は何度もそう言うのにその人間は諦めなかった。
いい加減何度も揺さぶられて怒った美野里が目を開くとそこには短髪で筋肉質の体をした美形が彼女の肩を揺さぶっていた。
なにこのモロ好みの美形は!
思わず手をその美形に伸ばそうとするとどこからか凛とした女性の声が聞こえた。
「ちょっといくらなんでも私の旦那様に手は出さないで頂戴。」
美野里はびっくりしてその声がした方に顔を向けるとそこには白髪の小柄な女性が着物姿で立っていた。
「それとアルフレッド。あなたも若づくりしていないで元の姿に戻りなさい。浮気は許さないわよ。」
「キヨラ。僕が浮気なんかするわけないだろう。若いお嬢さんだったから怖がらせないようにしただけだよ。」
「それなら今の姿の方が怖がらないでしょ。」
美野里がモロ好みの美形を見ているうちに彼の姿も白髪女性と同じような年齢に変わっていった。
もっともこちらは渋めの美形になっただけだがこれはこれで美野里の好みど真ん中なのだが・・・。
「ちょっと注意しておくわ。今代の”白の書”の主。ここは”白の書”の中だからここにいる人間には全ての考えが筒抜けになるから気を付けなさい。」
「考えが筒抜けって・・・えっ。」
もしかして今考えていたモロ好みって言うのも・・・。
美野里が女性に視線を向けると止めを刺された。
「ええ、モロ好みも聞こえていましたよ。」
ガーン。
美野里は白い床に両手をついて項垂れた。
うそぉー。
誰かウソだと言って。
恥ずかしすぎる。
しばらく美野里が蹲っているとその周りに小さな子が集まって来て口々に心配そうに声を掛けられた。
「「「「大丈夫。どこか痛いの。」」」」
小さな子に心配されるなど情けない。
美野里は慌てて立ち上がると大丈夫だとその子たちに言うと心配してくれてありがとうと頭を撫でた。
「アルフレッド。あの子たちをどこかに連れて行って頂戴。」
「ああ、わかった。おいで僕と遊ぼう。」
アルフレッドが子供たちに手を出すとどの子も嬉しそうな顔をして彼についていった。
「さて、これで少し落ち着いて話せるわね。それであなたが知りたいことは何かしら?」
「知りたいこと・・・。あの子たちは?」
「あらあら、いきなり核心を突くなんてやるじゃない。」
「あの子たちは私より前の”白の書”の主よ。それも時の権力者に騙されて魔獣になった人間を元に戻すのに自分の命を使っちゃった馬鹿な子たちね。」
「馬鹿って・・・。」
何てことをいうだと彼女を見れば馬鹿にしたわけではないようで目からポロポロと大粒の涙を流している。
「キヨラ!」
女性が泣いていると先程どこかに消えたアルフレッドが現れて彼女の肩を抱き寄せて流れている涙を顔を近づけると舐めとった。
「ちょ・・・ちょっとなに・・・ナニしちゃってるの。」
「アラいやだ。言っておくけど私はあの子たちと違って騙されて自分の命を対価に魔獣になった人間を元に戻したわけじゃないからね。知っている人たちが魔獣になってしまったからよ。」
「キヨラ。何もあの時君が犠牲になる必要などなかったんだ。ああなったのは黒い感情を抱いた彼らが悪い。いくらあと何年も生きられなかったとはいえ君が犠牲になることなんかなかったんだ。それも僕を置いていくなんて・・・。あのあと僕がどんな思いで生きていたと思うんだ。自殺すると君に会えないから物凄く大変だったんだぞ!」
「アルフレッド。それはあなたがここに迎えに来た時に死ぬほど怒られたからわかっているわ。」
「それでもだよ、キヨラ。」
なんだかピンク色の雰囲気にもう目を覚まそうかなぁと美野里が考えた時、アルフレッドに抱きしめられているキヨラが叫んだ。
「いいわね。忘れないで。魔獣になった人間全員を元に戻すためには異世界人かこちらにいる魔力が高い人間の命が必要だということを。それが対価なのよ。だからむやみにその魔法を使わない様にしなさい。」
人の命が対価とか理不尽な魔法ね。
美野里はそう思った所で目が覚めた。
ぼんやりした頭を振って見覚えのある天井を見てからゴソゴソと布団を出ると着替えてダイニングに向かった。
そこには克也はいなかったが彼が作った和食が用意されていた。
隣にあるソファーベッドの上ではコーヒーを片手に窓外を見つめるシェルがいた。
一瞬シェルが先程美野里が見た夢の中に現れたモロ好みの美形が重なって見えた。
いやいや、シェルにあんな見事な筋肉ないし何を考えてるのよ。
美野里は頭を振ると克也が用意してくれた朝食を食べ始めた。




