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27.北の砦崩壊じゃなく消滅!

 太陽が真上に登り全員が山側に鎧を着て剣を手に整列していた。

 白い毛皮のコートを着たシェルが鎧を着ている若い兵士の中央に立って右手を挙げた。

 シェルが手を挙げるに従い壁に大きな亀裂が入りそれが門のようになると徐々に両側にその門が開いて行った。

 若い兵士たちの先頭に老兵士ガイウスが立ち一番先に開かれた門から外に飛び出すと二手に分かれて魔獣の群れに突っ込んでいった。

 彼らが時の声をあげ魔獣の群れに突進していく後ろから”白の書”を手にした美野里みのりも時計回りに魔獣の群れを先に斬り込んでいった彼らを援護しながら当初の目論見通りに行くように魔法をその方向に放ち魔獣の群れを誘導した。


 それより少し遅れて克也(かつや)が反時計回りに魔獣に斬り込むと魔獣の群れを牧羊犬のように上手に誘導していった。

 二手に分かれた彼らはそれから一時間もかからず砦の周りにいた魔獣を山側とは反対側に開かれた門から魔獣の群れを砦内に追い込んだ。

 追い込まれた魔獣は砦内で咆哮をあげて暴れ回った。

「「シータ!」」

 いつの間にかたった一人で魔獣に囲まれている美野里みのりを心配した克也(かつや)が彼女の傍に駆けつけようとしたのをシェルが彼に抱き付いて止めるとそのまま砦を囲んでいる壁に押し付けた。

「おいシェル。なんで俺をここに押し付けるんだ?」

「趣味と実益を兼ねてよ。」

 シェルはそれだけ言うと押し付けていた壁を扉に変えるそのまま克也(かつや)と一緒に砦の外に出た。

 それを確認した瞬間に美野里みのりは砦内で”白の書”を開くと魔獣に魔法を放った。

 砦内で放たれた魔法は強烈な光を発して魔獣を包み込み、さらに周囲に飛び散っていった。


 シュッシュッシュッシュッシュッシュッ・・・。

 パーン。


 思いっきり膨らんだ風船が急激に萎むように飛び散った光が弾けた瞬間に一点に集まって何も見えなくなった。


 克也(かつや)が自分に圧し掛かっていたシェルを張り倒して立ち上がった時には何もない更地が眼前に広がっていた。

 克也(かつや)はあまりのことに唖然とその更地を眺め身動き出来なかった。


「あらー思った以上の反応だったのね。」

「おい、シータはどうなったんだ?」

「あらそう言えば!」

 克也(かつや)はシェルの呑気な物言いに思わず胸蔵を掴んで締め上げた。

「ちょ・・・ちょちょちょ・・・落ち着きなさい。」

「これが落ち着いていられるか。」


 ドサッ。


 更地の真ん中に何かが落ちて来た音がした。


 二人はその音がした方に目線を向るとそこからなんとも場違いな声が聞こえてきた。

「イヤーン。な・・・何でこうなるの。」

 派手な音を立てた人間が思わずそこに蹲っていた。


 克也(かつや)美野里みのりの声に胸倉を掴んでいたシェルをその場に放り投げるとそこに駆けつけた。

 駆けつけた途端美野里みのりの姿に目を見開いた。

「は・・・はだかぁー。」

「いやぁー見ないでぇー。」

 克也(かつや)は慌てて後ろを振り向くと鎧を外して着ていたシャツを脱いで美野里みのりに差し出した。

 美野里みのりは差し出されたシャツをすぐに羽織ると立ち上がった。

「一応大丈夫よねぇ。」

 美野里みのりは借りたとはいえ短いシャツの丈が心配でお尻が見えないように手でそれを引っ張った。

 いつもならすぐ揶揄うようにニヤニヤ顔で話し出す声が聞こえない。

「そういえばシェルは?」

「あっ忘れてた。」

 そこに首元を擦りながらシェルが歩いて来た。

 その手には用意周到に布袋を持っていた。

「一応着がえよ。私のだけど。」

「シェル!」

 美野里みのりは目をウルウルさせてシェルから布袋を受け取るとそこに入っていたズボンを出すとすぐに穿いた。

「まったくシータはなんでいつも初めての魔法の時は成功しても裸になっちゃうのかしらね。」

 小首を傾げてしげしげと美野里みのりを見た。

「うっ・・・私だって今回は同じような空間魔法だし大丈夫だと思ったのに・・・。」

 二人の会話に後ろを向いていた克也(かつや)美野里みのりに振り向いても大丈夫か聞いて来た。

 そうだった。

「ごめん。もう大丈夫よ。」

「なんですぐに出てこなかったんだ?」

「えっ、結構すぐに出てきたけど?」

「あのねぇショウ。反発した魔法の力が収縮して元に戻るまでは今位の時間が掛かるわよ。シータはそれが治まってから出てきたんだからすぐには出てきた方よ。」

「なんでそれを説明してくれなかったんだ。」

「説明する前に首絞められたから。」

「うっ・・・すまん。」


「おーい。誰か・・・誰か助けてくれぇー。」

 更地のあちこちから助けるを求めるうめき声と叫び声が聞こえてきた。


「ああそうだった。取り敢えず負傷者多そうなところから治療しなきゃならないわね。」

 シェルの声に立ち上がった三人は一番人が多そうなところに向かった。

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