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26.討伐作戦

「はぁあ寒い。」

 シェルは毛皮のコートを着ながらも白い息を吐いてブルブルと震えていた。


 それでも砦の周囲にある城壁の上から外にウロウロしている魔獣の群れに注意深く視線を向けた。

「あらあらまた増えちゃったのね。ホント困ったちゃんねぇー。」

 そう言いながらも油断なく目は魔獣の行動を見ていた。

 そこに戦闘用の鎧を身に着け腰にはしっかりとした幅広の剣をさした老兵士ガイウスがガシャガシャと派手な音を立てながら城壁の階段を上がってきて、彼とは正反対の服装をしたシェルに声をかけた。

「どうですか魔獣の様子は?」

「なんともイヤーな動きをしているわね。」

「嫌な動き?」

「そっイヤな動き。ところで昨日の砦内に現れた魔獣の件は彼らにどう伝えたの?」

「魔獣を食べると魔獣になるとそのまま伝えました。」

「あーら以外。言わないかと思ったわ。」

 シェルは障壁に背を預けて老兵士ガイウスの方を向いた。

「もう砦内には私が話す前からすでに広まっていました。」

 シェルは老兵士ガイウスにジト目で睨まれた。

 どうやら昨日山側で魔獣の肉を回収していた時にシェルが注意した話がその若い兵士たちから広まったようだ。

「まあいいじゃない。ウソを信じるよりは本当のことを知って対策を立てる方が得策よ。」

 シェルは視線をまた砦の外でうろついている魔獣に戻した。

「あ・・・あなたはパニックが広がるのを懸念しないのですか?」

「パニックって言ってるけど外の魔獣の数を見てもそれは杞憂ね。」

「どういう意味ですか?」

「わからない。パニックていうのは多くの人々が同時にそれに影響される状態を指すのよ。外にいる魔獣の数を見てごらんなさい。」

 シェルは老兵士ガイウスを振り向くと砦の外にいる魔獣を指差した。

「もうこの周囲には・・・。」

 老兵士ガイウスは痛ましい顔で砦の外にいる魔獣に目線を送った。

「そうよ。砦の近くに人間は存在していないわ。」

 シェルは断言するとまた視線を外に戻してそれ以上何も言わなかった。

 老兵士ガイウスもシェルに何も言わず踵を返して階段に向かった。

 その背にシェルは一言呟いた。

「小さい魔獣がいないのが救いかしら。」

 シェルは階段を降りようとしていた老兵士ガイウスの横を通り過ぎて行った。

 老兵士ガイウスは階段からもう一度砦の外に視線を向けた。

 確かにシェルの言う通り外にいる魔獣に小さい体型のものはいない。

「子供たちは無事なのか?」

 いやそんなことはない。

 子どもは親と一緒にいるものだ。

 老兵士ガイウスは視線を外すと今日の午後に行われる討伐戦の指示を出しに城壁を降りた。


「シェル。」

 シェルが城壁から降りるとシータが駆け寄って来た。

 シェルの心境に反して彼女は何だかモコモコとした素材で作られたコートを着ていた。

「ちょっとシータあなた何を着ているの?」

 シェルはシータが着ているコートを引っ張った。

 肌触りはやわらくフワフワしていた。

「ちょっと引っ張り過ぎ。シェルだって毛皮のコートを着ているじゃない。寒くないでしょ。」

「寒い寒くないってことじゃないわ。何を着ているかってことよ。」

「何って鳥の羽を集めたものよ。」

「ちょっとシェル。なんで脱がそうとしてるの。」

 二人が砦の広場で脱ぐ脱がないとやっている所に兵士見習いの服装をした克也(かつや)がやって来た。

 克也(かつや)は呆れたような様子で二人に声をかけた。

「二人とも何をやっているんだ?」

「何って聞いてよショウ。シータったら私に内緒でこんなの作ってたのよ。信じられる。」

「別にナイショにしてたわけじゃないわよ。ただ料理長が料理した後の羽の始末に困るって言ってたから勿体ないと思って、その羽根を貰ってそれをコートの加工しただけでしょ。」

「だったら私にも作るのが礼儀でしょうが。」

「シェルはそんな野暮ったいのは着ないって言ってたじゃない。」

「いつそんなことを言ったのよ。」

 掴み合いになりそうな状態に克也(かつや)は二人の間に割って入った。

「もうすぐ討伐戦だぞ。その話は後にすればいいだろ。」

「「よくない。」」


 揃って反論する二人に克也(かつや)はきれた。

「そんな我儘なことばかりいう奴らに俺は食事を作らない。」

 二人はピタッと動きを止めるとお互いに目線で語り合った。

 ”シェル、あとで料理長に頼んで羽をもらったらまた作るわ。”

 ”ありがとう”


 動きを止めた二人に克也(かつや)は午後の作戦をどうするか聞いた。

「そうね。山側からこの砦の兵士全員が左右に分かれて魔獣を追い込んで砦中央に開いた扉の前でショウが聖剣で張った障壁で砦内に追い込む。」

 シェルの説明の後に今度は美野里みのりが説明を始めた。

「でっ私が砦内に追い込まれた魔獣に魔法をぶっ放す。」

「「そして最後は砦ごと破壊して終わりね。」」

 二人は声を揃えて最後の説明を終えた。


「おい、その簡単な説明はなんだ。」

「他にどういう説明があるっていうの?」

 シェルが克也(かつや)に代わりに説明して見せろと迫った。

「そうだな。まあ俺なら砦中央の門を出て左右に隊を振り分けてだな。砦内に追い込んでドカーンだな。」

 それってさっきとどこが違うのと二人が顔を見合わせた。


 彼らの背後では今回の討伐戦の作戦を説明してもらうつもりで声を掛けに来た老兵士ガイウスがいた。

 しかし三人のあまりにも酷い説明に老兵士ガイウスは彼らに声を掛ける前に回れ右をして砦に取って返した。

 すぐに砦内に戻ると急いで各隊のリーダーに集まるように招集をかけた。

 そしてすぐに細かな作戦指示を済ますと作戦開始時間を聞いていなかったことに気づいた。

 老兵士ガイウスは作戦開始時間を聞きに行って来るのでそれまでに戦闘準備を終え、すぐにでも作戦行動に移れるように指示を出すと時間を聞きに外に出た。


 老兵士ガイウスが砦の広場に視線を向けるとそこには両腕を組んだシェルだけがいた。

 老兵士ガイウスはシエルのところに歩いていくと作戦の説明はすでに終え、後は開始時間を伝えるだけだと話した。

「もう水臭いわね老兵士ガイウス。説明なら私がしたのに。」


 いやぁーあの説明すると各隊のリーダーが混乱するからホントやめてほしい。

 老兵士ガイウスの心をよんだのかシェルはその話題にはそれ以上触れずに作戦開始はあの太陽が真上に登った時に行うので彼らにはその少し前に砦の山側にある城壁前に集まるように言われた。

 老兵士ガイウスは太陽の位置を確認して一礼するとシェルの前からいなくなった。

 最後の指示を伝えにいったようだ。


 間もなく太陽が真上に登る。


 シェルはテントを片付けてもうすぐこちらに戻って来るはずの二人を砦の広場で待った。

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