25.魔獣討伐
シェルは警告だけするとテントに戻った。
テントに入り引き戸を開けるとちょうど目を覚ました美野里がテーブルでコーヒーを飲んでいた。
「ショウ。私にはココアを頂戴。」
「おい。俺はウェイターじゃない。自分で入れろ。」
「あら入れろなんてそんなことシータの前で。」
シェルはほんのり頬を染め目は欲望を込めて克也の尻を舐め回していた。
克也は慌てて席を立つと台所まで退避してからシェルの言葉をしっかりと否定した。
「そういう意味じゃない!」
克也は文句を言いながらも鍋にミルクを注ぐとそれを温めシェルの前に熱いココアを置いた。
「ありがと。」
シェルは出されたカップに両手を添えてフーフー言いながら熱いココアを少しずつ飲む。
一息つくと結論を二人に話した。
「明日この砦内に外にいる魔獣を引き入れてからここを破壊するわ。」
「シェル!」
美野里は飲んでいたカップをドンとテーブルに置いた。
「もうシータも気づいてるでしょ。」
立ち上って反論しようとした美野里はそれを聞いて力なく椅子に座り直した。
思わず反論しようとしたがシェルが言っていることは正しいからだ。
「そう言えばショウに今朝起こった魔獣の件を聞いた?」
美野里は聞いていないと首を横に振った。
「昨日シータを襲ったあいつらと話してたら奴らが急に魔獣になったんだ。」
克也は仕方なくさっき起こったことを美野里に話した。
彼女はその話をコーヒーのカップを持ったまま黙って聞いていた。
「でっそいつらをショウが見事に討伐しました。」
シェルが言いづらそうな結論をズバリといい放った。
「それと昨日シータが治療した数十名は魔獣にならずに済むはずだけど他の人間はいずれ魔獣になるわね。だから諦めなさいシータ。それよりあなたの為にわざわざ強姦しようとした人間を討伐したショウにシータはお礼を言うべきよ。」
シェルがいきなりとんでも発言を噛ました。
「ちょっと待て。俺は別にそんな意味で今の話をしたわけじゃない。」
「あらじゃなんでわざわざ彼らと話なんかしていたの?」
「いや・・・そのぉーだな。」
克也は何と言っていいかわからず口ごもってしまった。
逆に美野里は自分のことを想ってそんな行動をしてくれた彼に胸がいっぱいになって思わず涙ぐんでしまった。
「あ・・・ありがとう・・・ぐすっ。」
「俺は別にそんなお礼を言われたくてした訳じゃ・・・。」
二人は何度も目線を交わしてお互い言いにくそうにモジモジしている。
行き成りなんか当てられたようになったシェルがボソリと零した。
「ああやだ見つめ合っちゃって。」
「「シェル!」」
ピンポーン。
ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
そこに来客を告げる音が鳴り響いた。
美野里が我に返って人差し指をあげるとTVのモニター画面にこちらに足早に近づいてくる老兵士の姿が映った。
「あらあら。お出迎えしなくちゃならないようね。」
シェルはココアのカップをテーブルに置くと立ち上がってすぐに玄関に向かった。
二人は玄関を出てテントの中から外にいる老兵士を驚かせたシェルの姿をそのままTVのモニター画面で見ていた。
「なあシータ。これって画像だけで音声は拾えないのか。」
克也は台所から自分用に入れた緑茶を持って椅子に座った。
美野里が頷いて親指をあげると画面から二人の会話が流れてきた。
「何で来たのが分かったのかって顔ね。一応忘れてるんじゃないかと思うからもう一度いうけど私は王都魔術師団に所属してるのよ。」
シェルは魔法が使えることを再度老兵士に認識させた。
「そうだったな。話は単純だ。砦いる若い兵士が魔獣にならない様に治療することは可能なのか?」
「ああそのことね。結論から言えば可能よ。でも前提条件があるわ。」
「どんな前提条件なんだ?」
「死にそうになっていること。」
「どういう意味だ。」
「考えればわかるでしょ。人間は死にそうになると必死に死なない様に無意識化で体が活動するのよ。当然魔獣になりそうな要素も活発になるけど・・・。」
「だから重症患者は治癒魔法で治ったのか?」」
シェルの言葉にかぶせる様に老兵士が聞いて来た。
シェルは黙って頷いた。
しばらく二人はテントの前で見つめ合っていた。
「シェルの好みって実は老兵士なのか?」
克也はあまりにも長い間見つめ合っている彼らに聞こえないのをいいことにぼそりと酷いことを呟いた。
「なわけないでしょ。」
さすがにこの発言には美野里も突っ込みをいれた。
暫く無言で見つめ合った後老兵士は視線を外すとぼそりと呟いて砦に帰って行った。
「明日は俺たち全員が討伐を手伝う。だからその討伐中に死にそうなほど酷いケガを負った人間は必ず治療をしてくれ。」
「わかったわ。」
シェルは老兵士の背中に了承の言葉を投げた。
明日は大変な日になりそうだ。
二人は飲み残しを一気に飲み干すと明日の準備をする為立ち上がった。




