24.魔獣発生源は・・・
太陽の光が徐々に山側から砦内の外にある雪に降り注いでいった。
その太陽の光が降り注いでいる雪にまみれながらそこでは若い兵士たちがガヤガヤとした声をあげながら何か作業をしていた。
「おーい。今は砦の外に出るなって言われてただろ。なんで外にいるんだ?」
城壁の山側では上から紐を括りつけて食料を引き上げていた若い兵士数人が上官に早く上がって来いと怒鳴られていた。
「でも隊長。もう食料が全くないんです。何とかしないと俺達飢え死にします。」
「だが雪がない方向ではもう魔獣がうろつき始めているんだ。こっち側の雪もほとんど残っていないんだぞ。」
「でも数日分ならまだここから運び上げれば何とか・・・。」
「ならないわね。」
そこにシェルが現れて城壁から砦の外を眺めた。
数十人が食料を紐に括りつける作業をしていた。
その間も太陽の光に照らされた雪が徐々に解けていき魔獣がそれに従ってかれらのすぐ脇に来ていた。
「早く彼らを上に上げなさい。あいつらに喰われるわよ。」
「分かっています。」
隊長は食料を運び上げるのを止めてすぐに上がって来いと怒鳴るが彼らは作業を続けていた。
「ところであの肉はどこから持って来たの?」
シェルは彼らが下で紐に括りつけている肉の塊を指差した。
「あ・・・あれは昨日あなた方が始末した魔獣から切り出したものです。」
シェルは顔色を変えた。
「いつからそれを食べているの?」
「倒された魔獣を見てすぐに数人が砦の外に降りて・・・。」
だから昨日あんなことが起こったのか。
「まさか病人にそれを食べさせたりはしてないわよね?」
シェルは隊長の胸蔵を思わず掴みあげていた。
「い・・・いえ、彼等には・・・。」
どうやら被害は少数で済みそうだとシェルが胸を撫で下ろしているといきなり砦内で魔獣の咆哮が上がった。
どうやら遅かったようだ。
「下にいる兵士たちは魔獣の肉を食べたの?」
「いえ、彼らは昨日食べた奴らに話を聞いてそれで・・・。」
砦の上にいる若い兵士が口ごもりながら説明し出した。
「言っておくわね。魔獣の肉を食べると十中八九魔獣になるわよ。魔獣になりたくなかったら食べない事ね。」
「それじゃまさか。」
若い兵士は何かに思い当たってシェルを見た。
「砦内で暴れた魔獣がもしかしたら魔獣の肉を食べたかも知れない奴らって可能性は否定出来ないわね。」
シェルと若い兵士が城壁でそんな話をしている間にも砦内の魔獣が山側にある城壁にも現れた。
「あらあら、結構な数ね。」
シェルはのんびり言いながら右手に杖を出すと城壁から砦内にある広場に飛び降りた。
すぐに魔獣が寄って来た。
シェルは彼らを炎で焼き尽くす。
数十匹をいっぺんに焼き尽くすとそのまま魔獣の咆哮が聞こえてきた場所を目指して駆け出した。
シェルが駆けつけるとそこには聖剣を手にした克也が魔獣の死骸の前で唖然とした表情で立っていた。
「ショウ。」
「シェル。どうなってるんだ?いきなり目の前で話していた人間が魔獣になったぞ。」
「シータはどこ?」
「まだ部屋・・・いやテントで寝てる。疲れてた様子だったんで声を掛けなかった。」
「上出来よ。」
シェルは克也とそんな話をしながらも目の前にあった魔獣の死骸を全て炎で焼き尽くした。
「ショウはちょっとテントに戻ってシータの様子を見て来て頂戴。私は少しガイウスと話してくるわ。」
克也は頷くとすぐにテントに戻っていった。
シェルは砦の広場に難しい顔をして佇む老兵士の肩を掴んだ。
「ちょっと食堂で話がしたいんだけど。」
老兵士は我に返るとシェルに言わるまま食堂に移動した。
シェルは食堂に着くと厨房に勝手に入り、そこに空間から取り出した食料を積み上げた。
「これは・・・。」
食堂に働く兵士見習いは全員涙目でシェルに感謝した。
シェルは彼らにこれで砦にいる若い兵士の食料を賄うようにいうと食堂のテーブルの端に座る老兵士のところに戻った。
「でっどこまで気づいてたの?」
シェルの質問に対して彼は無言を貫いた。
「まあいいわ。結論をいうわ。昨日シータが治療した兵士たちは魔獣にならないわ。」
シェルの断言に老兵士がやっと顔を上げた。
「もしも彼らが魔獣の肉を食べていても魔獣にならないわよ。」
今度こそ老兵士は信じられないという顔でシェルの顔を凝視した。
「それと明日にはこの砦に魔獣を誘き寄せて彼らを砦ごと殲滅するから明日の朝には全員この砦から出て行って貰うわ。」
「な・・・なんて無茶いや無謀なことをするつもりなんだ。」
「あーら以外ね。気づいてたでしょ。魔獣の発生源がこの砦だってことは。」
老兵士は無言でまた何も話さなくなった。
「発生源になった原因は色々考えられけどその発生源をそのままには出来ないわ。」
「しかし・・・。」
反論しようとする老兵士を置いて席を立ったシェルはそのまま食堂を出て行った。
出て行くとき一言、彼の耳元に囁いた。
「部下に知らせる知らせないわ任すわ。でも午後にはこの砦内は崩壊するから巻き込まれても文句を言わない事ね。」
老兵士はハッとして食堂を出て行くシェルの背をそのまま見送った。




