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そして世界に竜はめぐる  作者: 美汐
第二章 レピデ村の悲劇
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レピデ村の悲劇 3

 その報がもたらされたのは、それから十日ほど過ぎたころのことだった。

 再びレピデ村に魔物が現れたというのである。

 それを聞いた騎士団は、すぐに再びレピデ村へと急いだ。


 エルネストは前回のこともあり、その知らせを聞いたとき、正直またか、と思った。

 きっと今回もたいした被害はないだろう。

 そんなことを思いつつ、天馬を駆っていた。

 だが、村に近づくにつれ、なにかいいようのない不安が心に忍び寄ってきていた。


 もしかしたら。

 まさか。


 そして、騎士団はレピデ村へと到着した。


「こ、これは……」


 エルネストは、そこに降り立つと、文字通り言葉を失った。

 目の前にあった光景のあまりのことに、続く言葉が発せられなかったのだ。

 天馬に乗った騎士たちが、次々と地面に舞い降りる。

 しかし、他の騎士たちもすぐには言葉を発しなかった。衝撃のあまり、誰もが言葉を失ってしまっているようだった。


 そこは、完全なる焦土と化していた。

 村であっただろうそこには、もはや村と呼べるようななにものも残ってはいなかった。

 焼けこげ、倒壊した家屋の残骸が、点々と地に沈んでいる。

 いまだ燻り続けているのは、燃え残っている家屋の柱の下に積もった灰燼。その残ったあちこちの灰燼から、煙が天に向かって昇っていっている。

 そして、周囲には他に、動くものの気配はなかった。魔物たちの姿ももうそこにはいない。

 ただあるのは、そこかしこで倒れ伏している人々や家畜の姿だけだった。


 騎士団のみなは、天馬をおりて村の中の様子を見ていくことにした。

 しかしやはり、そのどこにも生存者の姿が見つかることはなかった。


「一歩遅かったか……」


 オドネルが低い声でつぶやきを漏らす。


「……くそっ! なんという酷いことを……!」


 リバゴが悔しさの滲む声で、叫んだ。

 騎士団のみなの声は、悲壮感に満ちていた。せっかく自分たちが駆けつけたというのに、もうすでに勝敗は決したあとだったのだ。

 村の人たちや、先に戦っていた兵士らは魔物との戦いに敗れ、魔物たちの餌食となった。その恐怖や絶望はいかばかりだったろう。殺戮と破壊が目の前で繰り広げられながら、それぞれ死んでいっただろうことを思うと、胸が引き裂かれそうに痛くなった。

 エルネストは衝動的に叫びたくなり、己の胸に拳をあてた。


 そのときだった。

 前方から、叫び声が聞こえてきた。


「あああああああああッッッ!」


 エルネストが驚いてそちらに目をやると、その叫び声をあげていたのは、他でもない、団長エレノアその人だった。

 焦土と化したその場所で、エレノアは怒りをぶつけるかのように天に向かって吠えていた。

 それからがくりと地面に膝をついたかと思うと、彼女は地に伏すようにして慟哭し始めた。


「エレノア……」


「エレノア団長……」


 激しい怒りと悲しみに満ちた慟哭だった。

 なにもできずに、ただ残酷な現実が目の前につきつけられたのだ。こんなに悔しいことはない。悲しいことはない。

 エレノアのその慟哭は、やがて騎士団員全員へと伝わっていった。

 周囲は悲しみの涙と声で溢れた。


「こんなの、酷いよ……」


 アーニャが大粒の涙を流しながら言う。


「憎いです。魔物たちが……」


 リュードも羽織っていたローブの端で、目元の涙を拭いていた。


 ――間に合わなかった。なにもかも。


 エルネストは身を引き裂かれるような気持ちで、慟哭を続けるエレノアの姿を見つめていた。


「なんでだよ。こんなことってあるかよ……」


 悲しみと悔しさとやるせなさで、彼の目にも涙が滲んでいた。






今回で二章終了です。お疲れ様でした。

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