レピデ村の悲劇 3
その報がもたらされたのは、それから十日ほど過ぎたころのことだった。
再びレピデ村に魔物が現れたというのである。
それを聞いた騎士団は、すぐに再びレピデ村へと急いだ。
エルネストは前回のこともあり、その知らせを聞いたとき、正直またか、と思った。
きっと今回もたいした被害はないだろう。
そんなことを思いつつ、天馬を駆っていた。
だが、村に近づくにつれ、なにかいいようのない不安が心に忍び寄ってきていた。
もしかしたら。
まさか。
そして、騎士団はレピデ村へと到着した。
「こ、これは……」
エルネストは、そこに降り立つと、文字通り言葉を失った。
目の前にあった光景のあまりのことに、続く言葉が発せられなかったのだ。
天馬に乗った騎士たちが、次々と地面に舞い降りる。
しかし、他の騎士たちもすぐには言葉を発しなかった。衝撃のあまり、誰もが言葉を失ってしまっているようだった。
そこは、完全なる焦土と化していた。
村であっただろうそこには、もはや村と呼べるようななにものも残ってはいなかった。
焼けこげ、倒壊した家屋の残骸が、点々と地に沈んでいる。
いまだ燻り続けているのは、燃え残っている家屋の柱の下に積もった灰燼。その残ったあちこちの灰燼から、煙が天に向かって昇っていっている。
そして、周囲には他に、動くものの気配はなかった。魔物たちの姿ももうそこにはいない。
ただあるのは、そこかしこで倒れ伏している人々や家畜の姿だけだった。
騎士団のみなは、天馬をおりて村の中の様子を見ていくことにした。
しかしやはり、そのどこにも生存者の姿が見つかることはなかった。
「一歩遅かったか……」
オドネルが低い声でつぶやきを漏らす。
「……くそっ! なんという酷いことを……!」
リバゴが悔しさの滲む声で、叫んだ。
騎士団のみなの声は、悲壮感に満ちていた。せっかく自分たちが駆けつけたというのに、もうすでに勝敗は決したあとだったのだ。
村の人たちや、先に戦っていた兵士らは魔物との戦いに敗れ、魔物たちの餌食となった。その恐怖や絶望はいかばかりだったろう。殺戮と破壊が目の前で繰り広げられながら、それぞれ死んでいっただろうことを思うと、胸が引き裂かれそうに痛くなった。
エルネストは衝動的に叫びたくなり、己の胸に拳をあてた。
そのときだった。
前方から、叫び声が聞こえてきた。
「あああああああああッッッ!」
エルネストが驚いてそちらに目をやると、その叫び声をあげていたのは、他でもない、団長エレノアその人だった。
焦土と化したその場所で、エレノアは怒りをぶつけるかのように天に向かって吠えていた。
それからがくりと地面に膝をついたかと思うと、彼女は地に伏すようにして慟哭し始めた。
「エレノア……」
「エレノア団長……」
激しい怒りと悲しみに満ちた慟哭だった。
なにもできずに、ただ残酷な現実が目の前につきつけられたのだ。こんなに悔しいことはない。悲しいことはない。
エレノアのその慟哭は、やがて騎士団員全員へと伝わっていった。
周囲は悲しみの涙と声で溢れた。
「こんなの、酷いよ……」
アーニャが大粒の涙を流しながら言う。
「憎いです。魔物たちが……」
リュードも羽織っていたローブの端で、目元の涙を拭いていた。
――間に合わなかった。なにもかも。
エルネストは身を引き裂かれるような気持ちで、慟哭を続けるエレノアの姿を見つめていた。
「なんでだよ。こんなことってあるかよ……」
悲しみと悔しさとやるせなさで、彼の目にも涙が滲んでいた。
今回で二章終了です。お疲れ様でした。




