遠い日の記憶
「天馬騎士団ってかっこいいよな」
オドネルの言葉に、エレノアが答えた。
「ああ。私もそう思う」
少年と少女の目の前を、天馬に乗った騎士たちが、堂々と進んでいく。
王都の目抜き通りを、ユクサール天馬騎士団が凱旋行軍していた。
この国で様々な悪事を働いていた盗賊団の首領を先頃捕まえ、その組織を壊滅させたのだ。それにより、日々怯えて暮らしていた国民たちの間に、安堵が広がった。
そんな彼らの活躍を耳にした王都の住民たちは、彼らの帰還を知り、その勇姿をひと目見ようと、大通りにたくさん集まってきていた。
その晴れやかな行軍は、そんな多くの人たちの目に、一際華やかなものに映っていた。
オドネルやエレノアもその例に漏れず、彼らを羨望のまなざしで見つめていた。
「なあ、エレノア。おれは大きくなったら、必ず天馬騎士団に入るぞ」
黒髪の少年が言った。その言葉には、これまでにないほどの熱が込められていた。
その言葉に、赤い髪の少女も黙ってうなずく。
「天馬騎士団に入って、この国の護り手となる」
青空の下で、少年の言葉は歓声に紛れながらも、少女の胸に響いていた。
行軍は進む。
白い天馬はぶるると鼻息を鳴らし、その背に主を乗せて勇ましげに歩いている。途切れない歓声が彼らを包んでいた。
そんな姿を目に焼き付けながら、エレノアはぎゅっと握った己の拳を胸に当てる。
「私も」
つぶやく彼女の声に、わずかに力が入った。
「私も天馬騎士団に入る」
目の前を雄壮に進んでいく、天馬に乗った騎士たち。
栄光が、彼らの頭上にあった。
華やかに、拍手と歓声のなかを進んでいく。
「この国が平和でいられるように」
静かに熱い言葉が迸る。
「悲しみが少しでもなくなるように」
その言葉は少年に向けてではなく、少女自身に向けて発せられていた。
自分自身で思いを確かめるように言葉を紡ぐ。
「そのためなら私は……」
わっ、と一際大きな歓声があがった。
「騎士団長だ!」
オドネルが興奮したようにそう叫んだ。
通りの真ん中を、立派な甲冑に身を包んだ騎士団長が進んでいく。
「うわあ。かっこいいなー。おれもあんなふうになりたいなあ」
少年の言葉に、少女は振り仰いでその姿を見つめた。
燦然と輝く、眩しい光を放つ存在。
青空と歓声のなか、手を振って観衆に応えている。
そんな姿を見つめながら、少女はなおもつぶやいていた。
もはやそれは、大きな歓声に呑まれて誰にも聞こえない。
だが、少女は少女自身でその言葉を胸に刻んでいた。
「きっと私は……」
天高く、割れんばかりの歓声が町中に響いていた。




