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そして世界に竜はめぐる  作者: 美汐
第九章 迷いの森
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迷いの森 2

 そして突然それは、ユヒトの目の前に叩き付けられた。

 ズンッ!


「わあ!」


「なんだなんだ?」


 それは、先程まで普通に立っていたはずの、太い木から生えた長い枝だった。枝先が地面に刺さるように突き立っている。

 かろうじてかわすことに成功したが、もう少し気づくのが遅かったら、危なかった。


「ユヒト! ギムレにエディールも! 気をつけろ! 森がオレたちを侵入者だと思って動き出したんだ」


 ルーフェンがそう叫んだ。


「はあ? 森が? って、うおあっ!」


 ギムレが問いかけようとする間にも、森からの攻撃は始まっていた。左右前後に生えている樹木が、生き物のようにその枝をユヒトたちに向けて振り回しだしたのだ。

 森自体が攻撃をしてくるなんて、予想外以外のなにものでもない。


「ルーフェン! こんなの聞いてないよ!」


 ユヒトは器用に森からの攻撃をかわしながらもそう叫んだ。


「オレはこんな目に遭ったことなかったから忘れていたんだ! やっぱりお前たち人間の気配を、森が危険と判断したんだろう!」


「そんな大事なこと、忘れないでくれよ!」


 ヒュンッ、と目の前を枝が掠める。ギムレやエディールも、森からの攻撃を必死でかわしていた。


「それで、どうすれば解決するんだ。この状況!」


 エディールが、襲ってくる枝を剣で斬り伏せながら、そう問うた。


「ちょっと待ってろ。今考えている」


 ルーフェンはちょこまかと飛びはねて森の攻撃をかわしながら、頬に手を当てて考えていた。


「早くしてくれ! でないと、この森の木を根こそぎ切り倒しちまうぞ!」


 ギムレは、その手斧でばっさばっさと襲ってくる枝を斬り伏せている。彼の周囲には、散った枝葉がほうぼうに舞っていた。


「ルーフェン!」


 ユヒトも剣で応戦するが、周囲を全部森で囲まれているこの状況は、かなり過酷だった。エディールの言うように、早く危機を脱したい。

 そのとき、ルーフェンが思い出したように叫んだ。


「ユヒト! 導きの石だ! そいつを高く掲げて、陽の光を当てろ! それで森も鎮まるはずだ!」


 ユヒトはそれを聞いて、懐にしまった導きの石を取り出した。

 そして、それを持って木漏れ日の差す場所まで急いだ。


「森よ! 鎮まれ!」


 ユヒトが導きの石を頭上に掲げ、そこに降り注いでいた陽の光を浴びせると、突然ぱあっとその石がまばゆい光を放った。その緑色の光は、水面に落ちた波紋のように周囲に広がっていき、清浄な空気を辺りにもたらした。

 そして、激しく攻撃していた木々たちは、すっと何事もなかったかのようにもとの普通の木に戻り、森は急激に静けさを取り戻していった。


「攻撃がやんだ……」


「どうにか助かったみたいだな」


 ギムレとエディールが大きく息をついていた。

 ユヒトもほっと胸を撫で下ろす。


「どうだ。これが女王様から賜った導きの石の力だ。すごいだろう」


 そうあっけらかんと話すルーフェンだったが、他の三人は、それに深いため息を漏らすのだった。


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