迷いの森 2
そして突然それは、ユヒトの目の前に叩き付けられた。
ズンッ!
「わあ!」
「なんだなんだ?」
それは、先程まで普通に立っていたはずの、太い木から生えた長い枝だった。枝先が地面に刺さるように突き立っている。
かろうじてかわすことに成功したが、もう少し気づくのが遅かったら、危なかった。
「ユヒト! ギムレにエディールも! 気をつけろ! 森がオレたちを侵入者だと思って動き出したんだ」
ルーフェンがそう叫んだ。
「はあ? 森が? って、うおあっ!」
ギムレが問いかけようとする間にも、森からの攻撃は始まっていた。左右前後に生えている樹木が、生き物のようにその枝をユヒトたちに向けて振り回しだしたのだ。
森自体が攻撃をしてくるなんて、予想外以外のなにものでもない。
「ルーフェン! こんなの聞いてないよ!」
ユヒトは器用に森からの攻撃をかわしながらもそう叫んだ。
「オレはこんな目に遭ったことなかったから忘れていたんだ! やっぱりお前たち人間の気配を、森が危険と判断したんだろう!」
「そんな大事なこと、忘れないでくれよ!」
ヒュンッ、と目の前を枝が掠める。ギムレやエディールも、森からの攻撃を必死でかわしていた。
「それで、どうすれば解決するんだ。この状況!」
エディールが、襲ってくる枝を剣で斬り伏せながら、そう問うた。
「ちょっと待ってろ。今考えている」
ルーフェンはちょこまかと飛びはねて森の攻撃をかわしながら、頬に手を当てて考えていた。
「早くしてくれ! でないと、この森の木を根こそぎ切り倒しちまうぞ!」
ギムレは、その手斧でばっさばっさと襲ってくる枝を斬り伏せている。彼の周囲には、散った枝葉がほうぼうに舞っていた。
「ルーフェン!」
ユヒトも剣で応戦するが、周囲を全部森で囲まれているこの状況は、かなり過酷だった。エディールの言うように、早く危機を脱したい。
そのとき、ルーフェンが思い出したように叫んだ。
「ユヒト! 導きの石だ! そいつを高く掲げて、陽の光を当てろ! それで森も鎮まるはずだ!」
ユヒトはそれを聞いて、懐にしまった導きの石を取り出した。
そして、それを持って木漏れ日の差す場所まで急いだ。
「森よ! 鎮まれ!」
ユヒトが導きの石を頭上に掲げ、そこに降り注いでいた陽の光を浴びせると、突然ぱあっとその石がまばゆい光を放った。その緑色の光は、水面に落ちた波紋のように周囲に広がっていき、清浄な空気を辺りにもたらした。
そして、激しく攻撃していた木々たちは、すっと何事もなかったかのようにもとの普通の木に戻り、森は急激に静けさを取り戻していった。
「攻撃がやんだ……」
「どうにか助かったみたいだな」
ギムレとエディールが大きく息をついていた。
ユヒトもほっと胸を撫で下ろす。
「どうだ。これが女王様から賜った導きの石の力だ。すごいだろう」
そうあっけらかんと話すルーフェンだったが、他の三人は、それに深いため息を漏らすのだった。




