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そして世界に竜はめぐる  作者: 美汐
第七章 闇の襲撃
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闇の襲撃 4

 進む先から、人々の悲鳴や怒号が聞こえてくる。

 そちらに近づくほどに、ユヒトの心臓は高鳴っていった。以前ゴヌードと戦ったときの恐怖が脳裏に蘇ってくる。ユヒトたちが走っている間にも、火の手がどんどん近づき、そちらから逃げてくる人たちの数が数え切れないほどに増えていった。


「大変だ! 魔物が! 何匹も……っ!」


 誰かがそう叫ぶ声が聞こえた。

 それを聞き、ユヒトの心臓は飛び跳ねた。


 何匹も。一体ではないということは、どれほどの数の魔物が町に入り込んでいるのだろう。

 怒号と喧噪が入り交じるなか、ユヒトたちは逃げる人々の波を逆走し続けた。やがて、逃げる人の数が減り、辺りの建物が完全に火の海となっているところまでやってきた。

 そしてそこでは、意外な光景が展開されていた。


「やああーっ!」


 ガキンと、金属と固いものがぶつかったような音がした。


「くらえ! 化け物め!」


 ヒュンヒュンと、なにかが飛行する音も聞こえる。

 誰かが、すでにそこで、魔物と交戦していた。先程の音は、剣と弓矢が飛行していく音だったのだ。


 そこには大きな魔物がいた。その魔物は、大きな獅子のような体と長い首を持ち、その先には猛禽のような頭があった。全身の毛の色は暗灰色をしていて、長い尾の先にはトゲトゲのノコギリのようなものがついている。


「バーダイル……!」


 エディールがそう叫んだ。それが、この魔物の名前らしい。


「加勢する!」


 そう叫んで、ギムレが先程バーダイルと戦っていた剣士の近くまで走っていった。

 エディールも、もう一人の射手とともに、後方からバーダイルに向かって弓矢を放つ。


「かたじけない!」


 全員が必死だった。しかしユヒトは、その光景を見た瞬間、突然足が鉛のように重くなってしまっていた。


「ユヒト!」


 ルーフェンが、いつの間にか獣の姿に変身していた。そして、ユヒトの肩に飛び乗ってきた。


「しっかりしろ! 目の前の敵に立ち向かうんだ!」


 そうだ。自分も戦わなければいけない。

 しかし、わかっているのに、ユヒトの心は恐怖で満たされ、全身の筋肉が動かせなくなっていた。


(なんで……っ。どうして……っ!)


 思うようにならない自分の体に、ユヒトは激しく苛立った。


(こんなんじゃ、僕はただの足手まといだ……っ!)


 ユヒトは腰に差した剣の柄を握り締めたまま、しかしそれを抜けずに、目の前の恐ろしい光景をただ呆然と眺めていた。


 魔物は激しく暴れていた。尾を振り回し、辺りのものを破壊している。ギムレたちが懸命に戦っているが、その攻撃は弾かれるばかりで、有効な攻撃は与えられずにいた。


 強い。

 以前戦ったゴヌードなどより、このバーダイルという魔物はさらに強かった。大の大人が四人でかかっても、まるきり歯が立たないようだった。


 そんなものに、己のようなちっぽけな存在が、どうして勝てるだろう。

 ユヒトは己の小ささを思った。

 怯える弱い自分が、憎かった。


「ユヒト! 恐れることは、恥ずべきことではない!」


 ルーフェンが耳元で叫んだ。


「恐れを知っているからこそ、自分の身を護れる! 仲間を護れる! ユヒト、信じるんだ自分を! オレがきみの力になる!」


 はっとした。そのとき、ユヒトの中でなにかがはずれる音がした。


 次の瞬間、ユヒトは剣を抜いていた。そして、バーダイルに向かって走っていた。

 そのとき、ユヒトの周りには風が吹いていた。ルーフェンの力によるものなのだろうが、それはユヒトの心の中に吹いている風と同調し、彼自身の力となっていた。






「うあああああ――――っっ!」






 ユヒトは地面を蹴り、宙を飛んだ。風に乗って、空の高いところまで。


 そして、そこから一気に下降する。

 目標は、バーダイルの頭の上。






 剣先を真下に向け、

 渾身の力で突き刺した。






グオオオオオ――――ッッ!






 バーダイルの断末魔の叫びが、辺りにこだました。バーダイルはしばらく長い首を激しく振り回していたが、やがてそのまま力尽き、ドウンと地面を揺らしながら横に倒れた。


「はあっ、はあっ、はあっ!」


 ユヒトは地面に膝をつき、荒い息を吐いていた。隣には、ルーフェンが寄り添うように座っている。


「ユヒト。よくやった。きみはきみ自身の力で、新しい自分の力を手に入れた」


 ユヒトは、信じられない気分だった。先程まで、あれほど恐れていたバーダイルを、たった今、ユヒトは自分の力で倒したのだ。自分の中に眠っていた力が突然目覚めたような感覚が、ユヒトの中にあった。


 魔物に対抗する力。

 世界を護る力。


 もしかしたら、自分にもできるのかもしれない。

 自分もこの世界のために、なにかができるのかもしれない。


 そんな思いが、ユヒトの中で芽生え始めていた。


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