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そして世界に竜はめぐる  作者: 美汐
第七章 影との死闘
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影との死闘 3

 エスティーアの魔法兵士たちが、次々に市街へと降り立ち、魔物たちとの戦闘を始めていた。

 エスティーアの誇る魔法の力は、いざというときの戦力としてこの魔法兵を中心として編成されている。魔法兵はハザン国の特殊部隊として、聖王のお膝元を護るとともに、国難に対応する力として国民から大いに期待されていた。しかし、魔法という特殊な技能を他に漏らさないという理由から、普段は王宮に併設された秘密の訓練場で訓練を行うため、その実体を王都の市民はほとんど知らないままだった。


 そんな秘密の特殊部隊である魔法兵部隊が、今回のシャドーの襲撃により、ついに投入されたことで、突然の魔物たちの襲撃に怯えていた市民たちも歓喜の声をあげた。


「頼むぞ! 魔法兵!」


「この王都を護って! お願い!」


 市民の多くの期待に、魔法兵たちは颯爽と攻撃魔法で魔物を一掃していく。その戦いぶりはまさに英姿颯爽、獅子奮迅。

 次々と魔物を倒していくその姿に、市民たちは感激し、深い感謝の声を投げかけていた。


 そんな魔法兵士たちの働きもあって、エスティーアと魔物たちの戦いは、魔物側が有利だった戦況も次第にエスティーア側有利に傾き始めた。これでこの戦いもエスティーアの勝利に終わる、と市民たちが安心し始めたのも束の間。ある一報で、その戦況が再びひっくり返ることとなった。


「黒い影の魔物がそこかしこで恐ろしい猛攻撃を繰り返している!」


 十体に増えたシャドーが、各所で魔法兵を襲っていたのだった。


「また分身を飛ばしたのか。シャドー、なんてやっかいな敵……!」


 路地で戦闘をしていたエディールは、遠くの敵を弓矢で射ながら、シャドーの噂に胆を冷やした。一体でもやっかいなシャドーが、何体もいるなど、考えただけで恐ろしい。

 エディールはそれでも、ためらうことなく激闘の戦場へとさらに深く身を投じるのだった。


 いっぽう、ギムレもまた魔物との戦いに苦戦を強いられていた。途中で現れた魔法兵たちに助けられ、一時は戦況もこちらが押していたものの、先程から現れたシャドーの分身が魔法兵士らの魔法を次々と打ち破り、逆に主導権を奪われる形となっていた。


「ちくしょう! あのやっかいな影野郎をどうにかしないと、こっちの戦力がもたねえ。どうすりゃいいんだ」


 向かってくる手下の魔物を手斧で薙ぎつつ、正面奥に佇んでいる影の魔物を睨みつけるギムレ。

 シャドーは手下の魔物をけしかけながら、時折自らも黒い衝撃波をこちらへと投げつけてきていた。


 魔法兵が魔法で作った不思議な防御壁によって、なんとかその衝撃波の直撃を食い止めることはできてはいたが、それでも被害をすべてないものにすることはできなかった。周囲の建物は衝撃波によって破壊され、戦っていた兵士たちは幾人も負傷している。魔物が一体増えただけでここまで戦況が悪化するとは、シャドーという魔物がいかに他の魔物とは格が違うかということを、戦場にいる人々は否応なく思い知らされていた。


 それでも、エスティーア側もまったくのやられっぱなしというわけではなかった。聖王シューミラ主導のもと、軍の首脳陣はシャドーに対抗する作戦を練っていた。そして、ある方法が採択され、それを実戦するための準備が着々と水面下で行われていた。


 エスティーアの上空には、朝から不穏な雲が立ちこめていた。そんな都のシンボルである塔の天辺に、いつの間にか、ぽうっと光が点っているのに気付いた市民はそういなかっただろう。その光は次第に大きくなっていき、強い魔力の球となっていった。


 塔の一番上の階でその様子を見上げていたシューミラは、光の球が充分に大きくなったのを見計らうと、すっと手を上にあげた。そして指先からその光の球へ、合図のように波動を送ると、次の瞬間、シュンッと音を立てて光の球が高速で上空へと飛んでいった。


「ギィヤアアア!」


「キーキーッ!」


 魔物たちが突然叫び声をあげ、たまらず物陰へと隠れ始めた。何事が起きたのかと市民たちが様子を見ていると、辺りを覆っていた影が広がってきた白い光のなかに消えていった。

 上空では、厚く空を覆っていた雲が、ぽっかりとその口を開けていた。先程の光の球によって穿たれた穴は、その大きさを広げ、エスティーアの都に明るい太陽の日差しを投げかけていた。


『グウッ! オノレ、シューミラ!』


 シャドーも己がもっとも苦手とする光の直射を受け、たまらず分身を本体に戻し、力の温存に当てざるを得なかった。これにより、各地でシャドーの襲撃に押されていた部隊も士気をあげ、戦いに勢いを取り戻していた。


「今が好機! 一気にシャドーの本体を叩くんだ!」


 市街の各所にいた魔法兵たちがシャドーのいる広場へと向かった。

 しかし、彼らがそこで見た光景は、惨憺たる戦いの傷痕そのものだった。


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