影との死闘 1
「迸れ! 雷光!」
激しい轟音を響かせながら、敵を一掃していく。マリクは先に駆けていったユヒトを追い、なんとか彼に追いついていた。
しかし、彼が栗色の髪の少年を見たのは一瞬だった。すぐに彼の姿はその場から消え去り、代わりに水の音が激しく鼓膜を叩いていた。
マリクはシャドーを視界に捉えると、すでに溜めていた魔力でそちらに攻撃を仕掛けた。シャドーに抱きかかえられているシューミラにも攻撃が当たる危険性はあったが、そんなことを躊躇している暇さえなかった。
「シャドー! 貴様、許さん! 我が師匠のみならず、聖王様までその手にかけようとするなど……!」
ビシャーン!
激しい稲光とともに、轟音が黒い影を襲う。
しかし、それは床に黒い焼け焦げを作っただけで、シャドーには当たることはなかった。
「マリク! 援護するわ!」
ミネルバも追いつき、すぐさま魔法の詠唱を始めた。エディールとギムレも駆けつけ、影の魔物に対峙する。
「む? ユヒトの姿が見えないが……」
「あいつは滝壺のほうへと落ちた。だがそれよりも今は聖王様を救うことが第一だ。助けることを考えるのは、悪いが後だ」
「滝壺のほうへ!? なんてこった……」
マリクの言葉にギムレは自身の言葉を失する。しかし確かに今は聖王を救わなくてはいけない。影の魔物はこちらの攻撃を嘲笑うかのように、するりするりとそれらをかわしていた。
「予測不能な動き……。単純に見たまま攻撃をしていても埒があかない。どうすれば……」
マリクの怒濤の攻撃も、シャドーにすべてかわされ、少年の表情に苦悶の色が見え始めていた。
「やつは影を利用して移動をしている。……そうか! それならば!」
エディールがなにかを閃いた様子でミネルバに耳打ちをした。そして彼女もそれを了解した様子でうなずく。
その間にもシャドーは攻撃を仕掛けてきた。地を這うように黒い衝撃波が襲いかかってくるのを、エディールたちは懸命にかわす。ミネルバの防御魔法のお陰で被害はかなり抑えられていたものの、それでも目に見えない痛みを彼らの体は受け続けていた。
それに加えて、シャドーの手下の魔物たちがまた次々に周囲を取り囲んでいた。王宮の兵士たちも加わり応戦するが、次々に現れる敵に、彼らの疲労は確実に蓄積していた。
「ミネルバ!」
エディールの合図にミネルバが自らの杖を振り上げる。
するとその瞬間、辺りがパッと明るい閃光に包まれた。
『グッ……! コレハ!』
シャドーは突然の光に体を縮めたと思うと、たまらず抱えていたシューミラの体を手放し、床に身を沈めた。そしてそのまま光から遠ざかるように床を移動し、滝の淵から王宮の外へと逃亡していったのだった。
「逃がすか!」
マリクがそれを追いかけ、露台の向こうに見える外階段のほうへと走った。ギムレや兵士たちもそれに続く。
エディールとミネルバは倒れているシューミラの方へと駆けつけ、彼女を介抱した。
「大丈夫ですか!? 聖王様!」
ミネルバが呼びかけると、シューミラは顔をしかめながらも意識を取り戻した。
「そなたはミネルバか……。なんとか妾は無事だ。しかし、意識をシャドーに乗っ取られないよう身を護るだけで精一杯だった。なさけないものよのう」
「いえ、なによりご自身の御身が大切です。あのシャドーから御身を護られただけでご立派です」
「して、シャドーは今どこに?」
「外へ逃げていきました。今はマリクたちが後を追いかけています」
「そうか。絶対にやつをこのまま逃してはならぬ。この妾にこのような無礼を働くとは言語道断! この失態の恥を雪ぐべく、このエスティーアの誇る魔力を総動員させてでも、やつの首根っこを捕まえてやろうぞ!」
美貌に凄みを加えたシューミラの迫力は凄まじかった。すぐさま聖王の意志は王宮の兵士らに伝えられ、戦いの舞台は王宮の外へと移っていったのだった。




