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そして世界に竜はめぐる  作者: 美汐
第六章 聖王シューミラ
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聖王シューミラ 5

 シャドーは、王宮内にある影から影に飛び移るようにして移動していた。近くから遠くに瞬間移動をするその移動方法により、目にも止まらぬ素早い動きを可能にしているようだった。

 幸い、王宮内は照明が多くあり、作られる影も限られている。だから、ユヒトもシャドーを見失わずに済んでいた。

 けれど、これよりもっと暗い場所に誘い込まれてしまうようなことになれば、それもどうなるかわからない。そうなる前に追いついてシューミラを取り返さなければいけない。


 ユヒトは懸命にシャドーのあとを追い続けた。

 猛スピードで追いかけてくるユヒトに対し、シャドーも廊下をあっちやこっちに曲がったり、地下へと降りていったりと目まぐるしい移動をしていた。そんな策にもユヒトは引っかかることなく、ついに彼らはとある場所までたどり着いていた。


 大きな水の音が辺りに響いていた。

 ユヒトの目の前に、巨大な水の壁があった。

 上方から大量の水が下へと向かって落ちている。


 そこは、滝の裏側にある、王宮内から張り出した露台のような場所だった。横長に通路のようになっていて、ユヒトのいる反対側の方に、シャドーの姿が見えていた。


「シャドー! 聖王様をこちらに返せ!」


 ユヒトは腰の剣を抜き放つと、一気にシャドーとの距離を詰めた。そして、剣先をシャドーに向けて勢いよく突いた。

 が、その攻撃はユヒトになんの手応えももたらさず、ユヒトの周りに黒い靄のようなものを残しただけだった。

 振り向くと、今度は横にシャドーの姿。すぐにユヒトは攻撃を繰り出すが、それも相手には届かなかったようだった。


(なんだ? こんな魔物、初めてだ! こちらの攻撃がまるで効かない。こんなのどうやって戦ったらいいっていうんだ?)


 ユヒトは攻撃を繰り返す毎に困惑し、焦燥を募らせていた。こんなとき、いつも的確な助言をくれる相棒が傍にいないことが辛かった。


(ルーフェン! ルーフェン! やっぱり僕だけでは駄目だ! どうかここに来てくれ! その姿を見せておくれ! ルーフェン、僕は……!)


 そのとき、シャドーがユヒトに向けて黒い衝撃波を放った。風の護りで直撃は防いだものの、ユヒトの体は強い波動で痛めつけられ、露台の手すりのほうに叩き付けられていた。そして、さらなる第二波が容赦なく彼の体を打ちのめした。


「ぐあああああ!」


 ユヒトの叫び声とともに、彼の体はそのまま手すりを越えて空中へと飛ばされた。

 水の玉が一瞬、時を止めたように彼の周囲を取り巻いていた。

 そして、彼の姿はすぐに上から降ってくる大量の水とともに、下へと消えていったのだった。


第六章終了です。お疲れ様でした。

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