聖王シューミラ 4
奥の扉を開き、中に身を躍らせたユヒトたちは、そこにあった光景に唖然と目を丸くした。
「聖王様!」
エディールが叫んだ先に、その人物はいた。足元まで伸びた美しい黄金の髪。その美貌はこの世のものとも思えぬほど。そしてその額には、青く光る竜玉が光っていた。しかし、その姿は想像していたものとは違って、ぐったりとうなだれ、生気がない様子である。その原因は、すぐに見て取れた。
「シャドー!」
マリクが叫んだ。ミネルバも彼の隣で身構える。
聖王シューミラの背後に、黒い影が立っていた。不気味で恐ろしい得体の知れない魔物。ユヒトはぞわぞわと背筋に沿って産毛が逆立ち、ぷつぷつと鳥肌が全身に広がっていくのを感じていた。
「貴様! 許さん!」
マリクが杖を振り上げようとするが、ミネルバが慌てて制止する。
「駄目よ! このまま攻撃したら、シューミラ様までお怪我を負うことになるわ」
「だが、このままでは……!」
そのとき、うなだれていたシューミラが顔をあげ、二人の双子のエルフに視線を合わせた。
「構わぬ。妾には竜玉の力がある。多少の攻撃などでは死にはせぬ。それより、シャドーを……うぐ……!」
シューミラの言葉を遮るように、シャドーは黒い障気で彼女の体を覆い、身動きを奪った。と、次の瞬間、シャドーは瞬時にユヒトたちの横を通り過ぎ、シューミラの体もろとも謁見の間から向こうへと去っていった。
「いつの間に!」
「速い!」
目まぐるしく移動していくシャドーの姿を見失わぬよう、ユヒトたちは必死に追いかけた。周囲の兵士たちも、ようやく大変な事態になっていることを理解した様子で、蜂の巣をつついたような騒ぎとなっている。
「とにかくシャドーを追いかけろ! 逃がすな!」
エディールが走っていると、途中でどこから湧いてきたのか、その辺りから次々に魔物が姿を現した。
「なんだ、こいつら! どっから出てきやがった!」
「くっ! シャドーが手下を連れ込んでいたんだな。面倒な!」
エディールとギムレが武器を振り回して新手の敵を薙ぎ払う。マリクとミネルバも魔法で応戦を始めた。
「ユヒト! お前は先にシャドーを追ってろ! お前なら追いつけるはずだ!」
「は、はい!」
ギムレに言われ、ユヒトはその場を他の仲間に任せると、シャドーの後を追った。足元から風を生み出し、目にも止まらぬ速さで駆け出す。
少年が向かった方向からは、水の流れる音が聞こえていた。




