聖王シューミラ 2
ルーフェンだけはまだ欠けてしまっているものの、仲間たちが合流できたということで、さっそく待っていた案件――ハザン国聖王シューミラへの謁見を取り付けるため、一行は王宮へと向かった。
「エディール、親書のほうはちゃんと無事なんだろうな」
ギムレが問うと、エディールは憮然としながらも答えた。
「当たり前だ。ナムゼ王からの大切な預かり物をわたしがなくすわけがなかろう。ちゃんと持っている」
「フン。それならいいが」
目の前に近づいてきた王宮は、そのシンボルである塔が天高くそびえ立っていた。しかし、エルフ族の双子曰く、その王宮の大部分は実は地下にあり、内部は複雑な迷路のような作りをしているという。
王宮の門番に用件を伝えると、迎えにきた案内人のエルフによって、一行は王宮内に通されることになった。そして、どこをどう通ったのかユヒトらがもうわからなくなってきたところで、とある部屋に通され、そこで控えているように言われたのだった。
「随分地下に潜ったみたいだけど、王宮の大部分が地下にあるという話は本当だったんだね」
「元々地下洞窟があったところを利用して宮殿を造ったらしい。地下から外部に出られる場所もあって、外から見えていた滝の裏側にも繋がっている」
「へえ。滝の裏側か。きっとすごい光景なんだろうね」
マリクの説明を聞き、ユヒトはその光景を思い描いた。飛沫がきらきらと舞い、水の奔流が上から下へと絶えることなく落ちていく。眼下には豊富で清らかな水で溢れた滝壺がある。そしてその水の底にはなにか蠢くものが……。
「え……?」
ユヒトは、たった今自分がイメージした映像のなかに、不思議なものが入り込んだような気がした。
「どうした? ユヒト」
突然黙り込み、呆然とした表情を浮かべるユヒトに、ギムレが声をかけた。その声で、ユヒトは我に返った。
「あ、いえ。なんでもありません」
ユヒトは今のイメージのことを説明しようか一瞬迷ったが、なんと言って説明したらいいのか難しく、曖昧に笑顔を浮かべた。それよりも、今は聖王シューミラとの謁見である。ギムレもすぐに興味はそちらへと移ったようで、それ以上ユヒトを追求することはなかった。
しばらくすると、先程の案内役のエルフがユヒトらのいる控え室に入ってきて、聖王シューミラとの謁見が許可された旨を告げてきた。どうやらこれからシューミラと対面できるらしい。
「ついにご対面か。随分綺麗な聖王様だという噂だが、本当かどうかこの目で確かめてやるぞ」
「いい加減にしろギムレ。今は親書を届けるという大切な任務を遂行することが第一だ。それを忘れるな」
「わかっている。だが、滅多に表に出ないというシューミラ様をお目に出来るまたとない機会だ。男なら気になるってもんだろう」
「う、まあ、それはシューミラ様の美しさがどれほどのものかはわたしも興味はあるが」
「ほうらみろ。任務の重要さはわかっちゃいるが、そっちの興味を断ち切れないのも仕方がねえだろう」
「……まあ、それは確かに。だが、くれぐれもじろじろと無遠慮に見るんじゃないぞ。お相手は世界の女王様より選ばれし聖王様だ。しかもナムゼ様からの使いのものということは、我々はフェリア国の代表という立場でもあるのだ。ゆえに少しの失礼もあってはならない。それをよく胸に刻みつけておくように」
「わかってるって。だが、そういうお前も実は楽しみなんだろ」
「それは否定できないな」
なにやらギムレとエディールはいつになく意気投合したらしい。この都にいるエルフたちもみなとても美しい見た目をしているのに、それ以上に美しいというシューミラはどんな姿をしているのか。謁見の時が近づき、ユヒトも少なからずドキドキと胸を高鳴らせていた。




