螺旋の罠 2
森のなかは、濃い緑の匂いが満ちていた。太い木の幹に巻き付く蔓草さえ、他の場所に生えているものと比べると葉や茎の太さが違う。すべてが大きいせいで、ここでは人間の姿が小さく見えてしまうくらいだ。
「地下洞窟?」
他の仲間との合流も考えたが、みなも目指す場所は同じだということで、エディールとミネルバは進路を目的地のエスティーアと定めて歩き始めていた。
「ええ。エスティーアの都の地下には、水の浸食でできた地下洞窟がいくつもあるのです。この場所からだと、たぶんそちらのうちのひとつの入り口が近いと思うんです。特に差し支えなければ、そちらからエスティーアへ向かうのもありかと思うのですが」
「そうか。地下洞窟か……」
ふと考えるエディールに、ミネルバは不思議そうに顔を傾けた。
「なにか気になることでも?」
「ああ、いや。こちらの話だ。なんでもないよ」
いつになく口を濁す彼に対し、ミネルバはふと思っていた疑問を口にした。
「そういえば、エディールさんはどこで弓の修行を? エスティーアでも弓術は幼い頃から男の子の間では武芸のたしなみだと習わせる親も多いんです。森での狩りが日常でもありますから」
「ああ。弓のほうは、わたしもこの国で鍛えた。良い師がいてね」
「あ、そうだったんですか! では、もしかしたらもとはハザン国がご出身なのですか?」
「ああ。まあね……」
再び口が重くなった様子に、ミネルバは、はっとして口元に手を当てた。
「あ、すみません。私ったら、いろいろ無遠慮に訊きすぎですね。ちょっと前に知り合ったばかりの私が、エディールさんの個人的なことに立ち入るような真似をして、申し訳ありません」
「いや、きみが気にすることではない。ただ、少し思うところがあってね……」
と、エディールが口にしたときだった。
前方の森の奥のほうで、なにかが蠢く気配を彼は感じた。それと同時に、鳥たちが騒ぎながら上空へと飛び立っていくのが見えた。
「……なにかいる」
「……なんでしょう。怖いですね」
「少し様子を見よう。下手に近づくのは危険だ」
「ええ。わかりました」
そして二人は近くの木に身を寄せると、じっと前方のなにかの気配をうかがった。しばらくすると、それはどこかへと遠ざかっていき、森は静けさを取り戻した。
「どこかへ行ってしまったようだな」
エディールたちは周囲に充分注意を払いながら、先程なにかがいた場所へと近づいていく。幸い、すでに危険は去り、彼らの進路はひとまず何事もなさそうではあった。
「なんだったんでしょう。すごく嫌な気配でしたけど」
「そうだな。少なくとも、こちらにとって理のあるものの気配ではなかった」
言いながら、エディールは辺りを注意深く見て回り始めた。そして、あるひとつの木を見て立ち止まった。
「これは……」
なにかに気付いた様子のエディールに、ミネルバも隣に近づく。
「エディールさん? なにかあったんですか?」
エディールは美しい顔に微かに渋面を作ったまま、口元に手をやった。
「もしかすると、とんでもないものがうろついているのかもしれない。他の仲間がこのことに気付いていればいいのだが……」
その言葉に、ミネルバは不安そうに首を傾げた。




