森のなかの別離 2
険しい山道を進んでいくと、遠くから水の流れる音が聞こえてきた。そのままそちらの方向へと一行が進んでいくと、彼らの目の前に、あるものが飛び込んできた。
「吊り橋……?」
水の流れ落ちる音はその時点で、とても大きく激しいものになっていた。ユヒトが吊り橋の近くまで寄っていき下を覗き込むと、深い渓谷の間を、長い蛇のような川が流れていた。
「マオル川の支流にあたる川です。この川の本流までたどっていき、そこからさらに源流に向かう方向へと進んでいくと、王都であるエスティーアが見えてくるはずです」
ミネルバの説明を聞きながら、ユヒトは激しい川の流れに鼓動が速くなるのを感じていた。
思い出したのは、フェリア国にあるスーレの町で、サダヌ川が氾濫したときのことだった。あのとき、ユヒトは水の恐ろしさを身を以て実感した。
なぜそんなことを今思い出したのか、自分でもわからなかったが、なんとなく嫌な予感がして、ユヒトはこう口にしていた。
「ここを渡るのはやめたほうがいいと思います」
「え?」
「なに?」
当然のように、ユヒトの言葉に他の仲間たちは疑問を表情に浮かべていた。
「ここを渡らなければ、他に道はない。きみたちはエスティーアを目指しているのではないのか?」
マリクの意見は至極もっともだった。けれど、どうしてだか腹の底に不吉な予感が湧いてくるのをユヒトは抑えられなかった。
「ユヒト。きみもなにかを感じたのか?」
ユヒトの上衣の間から、ひょこりとルーフェンが顔を出した。その言葉に、ユヒトは少しほっとする。
「うん。なにが、というわけじゃないんだけど、なんとなく嫌な予感がして」
「嫌な予感? そんな曖昧な理由で? きみはふざけているのか?」
マリクがまた眉間に皺を寄せ、得心がいかないといった表情になる。しかし、ギムレやエディールは、ユヒトの言葉を単なる口からでまかせを言っているとは受け取らなかった。真剣な表情をして、考え込む。
「しかし、道はここしかない。この先になにかよくないことが待っているかもしれないとはいえ、ここで引き返すわけにもいかないだろう」
「だな。ユヒトの言うことを信じないわけじゃねえが、俺たちはそれでもこの先に行かなきゃならねえ。充分な注意を払って渡るしかないだろうな」
二人の意見に、ユヒトはいまだ我が身にくすぶる暗いものをぬぐい去れなかったが、それでも小さくうなずいてみせた。
「……そうですね。この先に進まないといけないんですもんね。でも、本当に気を付けてください。この先は危険な気がします」
「そうだな。オレも注意だけはしといたほうがいいと思うぞ」
ユヒトとルーフェンの注意喚起に、マリクとミネルバは不思議そうな表情をしつつも、他のメンバーが黙ってうなずくのを見て、一応了承した様子だった。




