港町の盗人 3
謎の事件が町で起きているという話を聞いたのは、食事が済み、宿泊する宿へ一行が戻ろうとしていたときだった。通りがかりの道端で、中年の男二人がなにやら話し込んでいた。
「今度は裏の家の家畜がいつの間にか消えてしまったらしい」
「またか。先日もうちの親戚が被害にあっていたぞ」
「何者かが盗みに入ったのか、それとも違う理由でいなくなったのか。なんにしても困ったものだ」
なんとなく気になる話だったが、ユヒトたちは急ぎの旅の途中である。そのまま横を通り過ぎようとした。しかし、次の言葉を聞き、ユヒトは思わず歩みを止めた。
「これは魔物の仕業かもしれんな」
ドクンとユヒトの胸が高鳴った。脳裏に蘇ってきた魔物との戦いの記憶に、恐怖とも興奮ともつかない感情が体中に満ちていった。
「ちょっといいですか? その話、くわしく聞かせてもらってもかまわないでしょうか?」
エディールがやはりその話を聞きとがめたようで、話し込んでいた男二人に話しかけた。
「ああ。近頃この町ではおかしなことがたびたび起こっていてね。一夜のうちに飼っていた家畜が消えてしまったり、出荷予定の荷物がなくなっていたりするという事件が頻発しているんだ。単なる泥棒の仕業だと当初は言っていたんだが、不思議なのは、厳重に鍵のかかった家畜小屋や倉庫をまるで鍵を開けた形跡もなく、なんなく侵入している。他に侵入した経路も見つからないという状況や、なんの気配も感じさせずに犯行を繰り返していたりするところから、どうもただの泥棒の仕業ではないのじゃないかという噂になってね」
一人の男がそう話すと、もう一人の男も激しく同意した。
「そうそう。だから俺はそりゃ魔物の仕業に違いねえって話していたところなんだ」
「なるほど。では、誰もその盗人の姿を見たものはいないということなんですね」
「ああ。だからなんとかしてそいつをとっ捕まえてくれるような人がいねえもんかなと思っていてね。このままだときっと次に狙われるのはうちの番だ。もしもうちの大事な虎の子の財産が奪われたりしたら、もうこのご時世やっていけねえよ」
男は頭を振って片手を顔に当てた。かなり悩んでいる様子である。
「次に狙われるのはあなたの家だと? なぜそう思うんですか?」
「ああ。周辺でまだ被害に遭っていないのはうちだけなんだ。きっと今日明日にでも俺のところも同じ目に遭う。ちくしょう。どうすりゃいいんだ。鍵をかけても安心できないなんて」
確かにそれは困った事態である。ユヒトは思わずこう言った。
「それなら今晩だけでも僕たちが見張りに立つことにしたらどうでしょう」
「え?」
「今晩犯人が現れるとも限りませんが、一晩くらいならあなたに協力して犯人の正体を突き止める手伝いをしてみましょう。それならあなたも安心でしょう?」
「ほ、本当かい? そいつは助かるよ」
「お、おいっ。ユヒト!」
ギムレがさすがに声をあげたが、時すでに遅しである。話はとんとん拍子に決まっていった。
「それならこれからうちに案内するからついてきてくれ」
男は先程までの気落ちした様子はどこへやら、嬉々として歩き出した。ユヒトも迷うそぶりも見せずついていく。
「まあ、ユヒトが言うんだ。今晩だけは人助けと思って協力するとしよう」
とエディール。すると、ギムレも「仕方ねえな」とため息をつきつつユヒトのあとを追った。そのあとを少女姿のルーフェンが面白そうに目をくりくりさせながら続いたのだった。




