序章 旅人は荒野を行く
遙か高い空の彼方から、鳥の声が響いていた。
荒野の地面に馬影が三つ、北東の方角へと進んでいる。
馬上の主は、たくましい肉体を誇る、赤毛に立派な髭が特徴の男と、銀色の長髪をなびかせながら優雅に馬を操る美男子。そして栗色の髪の、まだあどけなさの残る優しげな少年の三人だった。
少年の肩には白く艶やかな毛並みの犬に似た獣が乗っている。
「確かもう少し先に泉が湧く天然のオアシスがあったはずだ。今日はそこで野宿をするのがいいかもしれないな」
「オアシスか。そりゃあいい。だが、本当にそんな場所があるのか? この辺りは以前一度だけ来たことがあるが、そんな場所はとんと記憶がないぞ」
「わたしはお前と違って記憶力と観察眼、そして情報収集能力には長けているからな。街道から少しそれた場所に隠れたようにあるのだ。旅の巧者だけが知る貴重なオアシスだ。くれぐれも他言はするなという暗黙のルールがある場所。この一行にわたしが加わっていたことを感謝するんだな」
エディールの言に、たちまち渋い顔つきになるギムレ。その様子を少々ハラハラと見つめながら、ユヒトは言った。
「助かります。馬たちもそこでゆっくりと休ませましょう」
「そうだな。オレもそろそろ移動に飽きたところだ」
ルーフェンは相変わらずマイペースである。
ギムレ、エディール、ユヒト、ルーフェン。
彼らはともに、長い旅をしている。彼らの前回の旅の活躍は、このシルフィアという世界の南に位置する国、フェリア全土に知れ渡っていた。さらにその噂は国を超えてすでに隣国にも広がりつつあった。
シルフィアの聖地セレイアにいる女王に会う。
それが彼らに課せられていた使命。
そして長い旅路の果てに、誰もが成し遂げられなかった女王に会うという偉業を、彼らはついに果たしたのである。
けれどもそれはまだ、この先も続く長い旅の始まりでもあった。
新たな旅はすでに始まっている。
それがいつ終わるのか。彼らが世界を救う一端をまだ握っているのか。
まだそれは誰にもわからない。
しかし、今も世界の情勢は刻一刻と悪しき方向へと向かっている。
そんななか、希望の光は確かに彼らのなかにあった。
ピーヒョロロロ。
鳥の声が、彼らを導くように蒼穹に響いていた。




